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Oscar Jerome - Breathe Deep(2020)

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総評 : 7/10


南ロンドンのインディジャズシーンの盛り上がりが留まるところを知らない。私が思うこのシーンの魅力は、着飾らない/スノッブぶらない親しみやすさや、狭い地域に個性溢れるメンツが勢揃いし盛んにコラボするワクワク感、などと思うが、最大の魅力はやはり、ジャズ、クラブ、ヒップホップ、R&B、AORなどをごちゃ混ぜにした何でもありの音楽性ではないか。

その意味で、このOscar Jeromeのデビュー作こそ、このシーンの精神をダイレクトに表す好作だと思う。

M1はインスト。M2"Song For Someone"は、ダブ調のベース、ファンク調のギター/ボーカルが印象的な、ジャズではないジャズ="Jazz not jazz"(このシーンのキャッチフレーズの一つ)な一曲。キャッチーでオープニングとしては掴みOK。

M3"Give Back What You Stole From Me"も、明らかにヒップホップ。Oscar自らがラップ。20年2月のデビュー作がとてつもなく名盤だった鬼才=Moses Boydがドラマで参加。シーンのもう1人のドラムゴッド=Yussef Dayesほどの手数は無いけど、ツボを押す気持ちいいプレイ。

M4"Your Saint"は初めこそ弾き語りだが、彼の所属バンド=Kokorokoのメンバーが加わる中盤以降は、アフロなテイストを身上とするこのバンドの真骨頂。聴き応えがある。

M5"Coy Moon"は、アンビエントなのにチャカポコ楽しい第三世界テイスト。見方を変えれば2ndの頃のThe Policeにも通じるような雰囲気。アデルのバックバンド出身で、シーンの流れを決定づけたYussef Dayes&Kamaal Williansのコラボアルバム『Yussef Kamaal』(2016年)でも名演を見せつけたTom Driesslerがベースで参加。ここでは抑え気味?

M6のインスト後のM7"Gravitate"は、クラブとジャズを混ぜ合わせたクールな名曲。イチオシ。タイトなドラムは、Kokorokoメンバー=Ayo Salawuという人のもの。これほどかっこいいドラムを叩ける逸材がゴロゴロ出てくるのもシーンの奥深さを感じさせる。ギター/ベースは勿論Oscar本人のもので、類稀な才能を発揮している。

M8"Fkn Happy Days'n'that"は、Oscarのブルージーなギタリストとしての側面を存分に感じさせる。

M9"Timeless"は比較的オーソドックスなジャズ/ソウル。後半からはLianne La Havasというジャズシンガーがメインボーカルをとる。美声なのに少しハスキーでかっこいい。

そして最終曲M11"Joy Is You"はアコースティックギターの弾き語り。シンプルなシンガーソングライターという一面を見せつけて幕を閉じる。

すごい完成度で、アルバムの流れも完璧。しかしそれと同時に、まだまだ洗練と進化をしていきそうな伸び代も感じさせる。

話は変わるが、このシーン全体的な雰囲気として、ある種のアドリブ感を重視しているように思う。思い返せば、Kamaal WilliamsやAlfa Mistは言うに及ばず、わりとカッチリしたソウルを歌うJordan Rakeiですら、「一瞬のその場にしかないフィーリングを重視するようにしている」と語っていたことがある。

そういう意味ではこのシーンにおいて、"スタンダードなポップソングとしての名曲"をバシッと生み出すという土俵で戦っているのは、Tom Mischただ一人と言えるのかもしれない。時代をFixした名盤『Geography』収録の"It Runs Through Me"や"Disco Yes"が見せた、ポップソングとしてのあまりの完成度の高さ、武者震い。

今はまだ無邪気なこのOscar Jeromeからも、そういう曲をいつか生み出せそうな匂いを感じる。実際"Gravitate"なんて、既に時代を超えてヒットしそうな"名曲感"に溢れている。

アドリブを楽しむUKインディジャズの自由なフィーリングも良いが、そろそろシーンを飛び越えシングルチャートを賑わす"売れっ子"が出てきてもいい頃合いだと思う。Oscar Jeromeは、Tom Mischと並んでそういうタイプだと思うし、そのポテンシャルはあると思う。

話が逸れたが、言いたいのは、様々なジャンルを縦横無尽に駆け回り、しかも完成度高く仕上げ、にも関わらずスノッブにならず親しみやすく仕上がげられた本作は、UKインディの良いところを分かりやすくプレゼンした好作だということだ。オススメ。






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