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Twenty One Pilots 『Clancy』発売前にコンセプトをおさらい


Twenty One Pilots
の『Trench』(2018)、『Scaled And Icy』(2021)、そして『Clancy』(2024年5月17日発売)は、一連の物語を描いたコンセプトアルバムの連作になっている。『Clancy』発売の前に、物語をおさらいしておきたい。


(1) 前提

Tyler Joseph

Twenty One Pilotsのボーカル、Tyler Josephは長年メンタルイルネスを患っている。良化と悪化を繰り返す彼の苦悩と苦闘をテーマにした物語がここ三作品では描かれている。

(2) 用語

Clancy : 物語の主人公。Demaに住んでいる。アルバム『Scaled And Icy』(2021)のタイトルは、”Clancy Is Dead”のアナグラムになっている。その理由は後ほど。

Dema : Nico率いる9人のBishopが支配する街。人々は自己破壊のメソッドにて支配・抑圧されている。抑圧されたTylerのメンタルを投影した存在。

Trench : Demaの周囲に広がる荒地。Demaの人々は近づくことを許されていない。2018年作品のアルバムタイトル。抑圧と解放でせめぎ合うTylerのメンタルを投影した存在。

Bishop : Nicoがリーダーを務める集団。赤いローブを身に纏っている。 Seizingと呼ばれる死者を操る魔力にてDemaの人々を支配している。テーマカラーは赤。『Trench』収録の9曲目”Nico And The Niners”の”the niners”とはBishopのことで、歌詞でも触れられている。Bishopの中に1人Banditoのスパイがいるようだが…?

Nico : Bishopのリーダー。別名”Blurryface”。Tylerの中の不安や疑念を投影したキャラクター。大ヒット曲”Stressed Out”のサビで”My name is Blurryface and I care what you think.”と既に登場している。

Bandito : Bishopに反旗を翻すグループ。Trench に拠点がある。Bishopには見ることのできない黄色をテーマカラーとして使用している。Tylerの中の奮い立つ気持ちや勇気を投影した集団。『Trench』収録の11曲目はその名も”Bandito”。この曲での一節 “l created this world to feel some control. Destroy it if I want.”はClancyとしてではなくTylerとしてメタ的に発言している、コンセプトの核心に迫る重要なセリフ。新曲”Overcompensate”でも引用されている。

Voldsoy : Clancyが漂着した寒々しい島。Nedの種族が生息している。

Ned : DemaTrenchに生息する小型の奇妙な生物。Tylerの中のクリエイティヴィティを投影したキャラクター。

(3) 物語

物語は主に各シングルのプロモーションビデオの中で進められる。

①アルバム『Trench』(2018)

MutemathPaul Meanyとメンバー2人の計3人で作り上げたオルタナティヴロックの傑作。アルバムジャケットは、Trenchに打ち捨てられたDemaの人々の死体を啄むハゲワシ。

・Jumpsuit

ClancyDemaからの脱出を試みるため車の爆発によって死んだと見せかけてNicoの目を欺きTrenchへの逃亡に成功する。そこで彼はBanditoに出会った。しかし結局Nicoに見つかりDemaに連れ戻される。

・Nico And The Niners

Demaに連れ戻されたClancyDemaに潜むBanditoの仲間と合流する

・Levitate

ClancyBanditoの仲間になり、再びDemaの外に出る。しかしまたNicoに捕まり再度Demaに連れ戻される。


②アルバム『Scaled And Icy』(2021)

設定上では、ポップ音楽を通じてDemaの人々を洗脳するという策略の一つとしてNicoClancyに作らせた作品。ここではClancyは闘争心を失い、完全に腑抜けたポップアルバムとなっている(“Clancy Is Dead”)。アルバムジャケットはNicoの乗り物として飼われているドラゴン(名前は”Thrash”)。

・『Scaled And Icy』のライヴ映画宣伝ビデオ

シングルではないが、BishopSeizingによって操られたDemaの死者が宣伝しているという裏設定になっているので、ついでに紹介する。

・Saturday

何度も脱出を試みたことからDemaで有名人となったClancyは、Bishopの操縦する潜水艦で演奏している。そこへNico(?)の操るThrashが潜水艦を破壊しに現れ、Bishop達とClancy率いるバンドメンバーは海中に放り出された。

・The Outsiders

NicoBishopの1人(“Keons”)の裏切りに合い、殺害される(理由不明)。潜水艦を襲ったThrashを操っていたのはNicoではなくKeonsだったようだ。Clancyはとある島=Voldsoyへと漂着する。島はNedの種族の生息地となっており、Nedは自らの角をClancyに授ける。それは死者を一定時間蘇らせる力、即ちSeizingを持った角。手にしたClancyは勝利宣言なのか、Nicoを一瞬生き返らせ雑に踊らせた。その直後、Nicoは消滅した。本当にNicoはこれで終わりなのか?

③アルバム『Clancy』(2024)

アルバムプロモーションとして、各サブスク上では旧作のアルバムジャケットに赤いテープが貼り付けられている。またアルバムジャケットには灰色のバージョンもあるがそこではClancyの肩に貼られたテープが黄色ではなく赤色であることを確認できる。赤はBishopのテーマカラー。これは何を意味する?

・Overcompensate

Bishop達と同じ力を手にしたClancyDemaの人々を解放すべくDemaに戻る。曲冒頭のフランス語では「島が私を兵器に変えた」と囁かれる。これはVoldsoyNedから受け継いだ角のことを意味する。しかし彼はBanditoのテーマカラーである黄色ではなく、なぜかBishopのテーマカラーである赤色を身につけている。メンタルイルネスが悪化した時の象徴である黒色が彼の手や首を覆っていることも確認できる。ここら辺は次のMVで謎が明かされるだろう。

曲はこれぞTwenty One Pilotsと言える堂々の仕上がり。デビューから変わらないトレードマークであるJoshのタイトで力強いドラムを中心に据え、強烈なシンセが扇動的に迫る。これまで同様ラップも織り交ぜながら浮遊感のあるコーラスを繰り返す。強いて言えば、『Blurryface』(2015)時代のフック至上主義でも『Scaled And Icy』のキャッチーなポップロック路線でもなく、完全に『Trench』の先鋭的なオルタナ路線に戻っている。まさに”Welcome Back To Trench”。

※余談だが、ビデオ冒頭の空撮映像ではDemaの街の外周をネオンの墓地(=“Neon Graveyard” :『Trench』収録6曲目)が取り囲んでいることを確認できる。設定が細かい。

・“I Am Clancy”

ここまでの設定をClancy=Tyler自らが説明するあらすじ動画。かなりわかりやすく説明されている。

(4) 最後に

このユニットはシングル”Heathens”と“Stressed Out”がバカ売れしたため商業的なユニットだと言われることが多いが、そして表面的にそう見えることは否定しないが、しかし本質的には何よりも自分達の信念と方法論を信じ、そこへの情熱を惜しまない人達だ。特に師とも言えるPaul Meanyと出会ってからの作品は、そこらのロックバンドやポップバンドには出せない気概と迫力とスケールを纏うようになってきている。リードシングルも見事な今年の新作で、より大きくアーティストとして飛躍することを確信している。



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