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Japanese Breakfast - Jubilee (2021)

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総評: 7/10


離れて暮らす母親を失った慟哭。思いの丈を全て込めた無二の力作『Soft Sounds From Another Planet』を作り上げた彼女が次に向かったのは、様々な人生のあり方を全て一様に祝福し、華やかで等身大のポップソングで表現すること。アルバムジャケットの干し柿は、苦い経験を熟成させて新たな価値を生み出すことのメタファーだ。

サウンドはどれも明るく馴染みやすいものばかり。Jack Tatum(Wild Nothing)と共作した"Be Sweet"や、Cryingのメンバーがギターで参加した"Slide Tackle"が好例だ。ファンクギターやサックスが軽やかに鳴り響く。様々なサウンドデザインを試しているが、その使い方はどれも適度な塩梅で、ギョッとさせられることがない。

歌詞も良い。夢追う恋人の引越を切なく健気に見送る田舎の少年を描いた"Kokomo, IN"、互いに求め合っているのに上手く表現できない二人を抽象的に表現した"Posing In Bondage"、一人の女性を満足させることに腐心する大金持ちになり切った"Savage Good Boy"など。

ストーリーテラーとしての目線は基本的に優しく慈しみに満ちているが、まるで世界の全てを知ってしまったかのような醒めた諦観や、漫然と生きている(私のような)人間をハッとさせるような鋭い視点をたまに見せる。浮ついたところの無い喜怒哀楽の表現が本当に素晴らしい。

苦難に満ちた現実に対し、逃避ではなく、泥臭くてもいいからしっかり乗り越えるためのヒントや新たな視点を提示する。それによって聴いた者の心をふっと軽くし、聴く前と後で世界の見え方を少しだけ変えてみせる。そんな出来そうで出来ないインディポップの理想形を見事に嫌味無く体現する本作。素晴らしい作品だ。


1のトランペット、3,9のストリングス、4のマスロック風ギター、5,6のノイズ、10のギターソロ。どれもセンスが良く耳馴染みも良い。そして2,7,8が爽涼な風となって吹き渡る。

Bandcampはハイレゾ。音質はかなり良い。



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