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Ulver 『Hexahedron - Live At Henie Onstad Kunstsenter』 (2021)

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総評: 9/10


Flowers Of Evil』(2020)は硬派なテーマ——ホロコーストと原爆投下——を過去最もシンセポップに近づいた音で鳴らしきった、最高傑作とも呼んでよい作品であった。現代最高のロックバンドの一つであることはもはや疑いの余地が無いが、その実力を完全に具現化させた渾身の一作であった。

しかし何が面白いって、実はその『Flowers Of Evil』の「原型」にあたるインストアンビエント作品の本作が2018年にライブレコーディングされていて、それが『Flowers Of Evil』の後になってリリースされたという事実だ。

一度アメーバのような非定型の「原型」を作りそこからシンセポップ(それも究極の)という形に結実させるという、型にはまらないコンポジションの方法にはとても驚かされるし、そこかしこに後の『Flowers Of Evil』に繋がるエレメントが顔を覗かせるのも、聴いていて非常に面白い。結果を先に見て、後から伏線を辿るような体験だ。

しかし何よりエキサイティングなのは、この「原型」自体のあまりの魅力の強さ、音の強さ、説得力の強さ、存在感の強さだ。ロック系のアンビエントインストというとTrent Reznor/Atticus Rossの影響下から脱していないものがとても多いが、メタルから始まって凡ゆるオルタナティブミュージックを全て意欲的に取り込んできたこのバンドは例外だ。

粘りのある硬質なドラムとベースが強靭なグルーヴを生み、シンセサイザーとディストーションギターノイズが一体となった銀河のようなサウンドがそこに乗る。『Flower Of Evil』とはリズムのアプローチが異なる曲もあるし、シンセサイザーが地平線の彼方で蜃気楼を引き起こすような夢幻の広がりを見せるシーンもある。DeafheavenInfinite Granite』はギターミュージックの新たなクラシックスタイルを生み出した傑作だったが、本作もまた似た違う形でギターミュージックのオルタナティブな可能性を切り拓いたものになっている。

トータル61分。5曲に分かれているが明確な区切りは無く、便宜的にトラック分けしたような構成となっている。揺らぎながら徐々にシームレスに変異していく姿には、大河と一体となった神々しさまで覚える。

このアルバムから彼らの人気に火がつくとか、そういうタイプの作品では決してないが、Ulverというバンドの面白さを知っている人間は、よりその懐の広さを感じ取れるだろう。同時に、このようなバンドが欧米でも無名なままであるという事実を前にすると、ロックバンドの人気/売上など、バンドの能力の高さとは全く関係ないものであることを改めて感じさせられる。これからもこういうバンドを聴いていきたいし探していきたいと改めて思った。


"Aeon Blue"と"A Fearful Symmetry"で聴ける緊迫感に満ちた美しいサウンド。しかしそこにも慈しみと抱擁を感じるのはこのバンドならでは。

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