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Turnstile - Glow On (2021)

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総評: 9/10


そのジャンルに興味が無いリスナーも自然と吸い寄せられ、いつの間にか全シーンが虜になっているような、そんなコンプリヘンシヴな傑作が突然変異的に生まれることがある。

メタルに興味の無いインディキッズも夢中にさせたDeafheaven『Sunbather』、ダブステップの魅力をrockin'on読者にまでアピールしたJames Blake『James Blake』、UKジャズの甘さを一般層にしらしめたTom Misch『Geography』、フラメンコ側からポップシーンに攻め込んだRosalía『El mal querer』。

本作もそういった力を持つアルバムだ。無類のパワーと意外性(柔軟性と叙情性)は、ジャンルを超えた全能感に満ちている。

15曲35分。簡潔なハードコアが勢いよく進んでいく。他のハードコア同様、抑圧やトラウマからの解放、望む自分になれない焦燥、未来への不安、過去への憂い、誰かを傷つけてしまうのではという恐怖、それらがテーマとして通底している。

だがこのバンドが特殊なのは、それらを表現するためにシャウト一辺倒、ディストーション一辺倒には決してならないことだ。コーラスやディレイのかかったギター、リヴァーヴの効いたスネア、リリカルなピアノ、7thコードなど、一般的なハードコアではあまり聴くことのない要素を違和感なく巧みに取り入れる。この柔軟な姿勢こそ、彼らに特別な存在感を与えている要因だ。

時折挟まれるメロウな曲も良い。"Underwater Boi"や"Alien Love Call"などで聴けるメランコリックな感覚。ハードコアには到底収まらない揺らぎと倦怠感がある。ここまでの叙情性を醸し出せるハードコアバンドが過去に存在しただろうか? いやハードコアという狭い枠でとらえること自体が間違いなのかもしれない。

もちろん、全ては曲の良さあってのことだ。どの曲もフックと親しみやすさと緩急に富み、キャッチーであることを何も恐れておらず、かと言ってポップパンクのような媚びは一切感じられない。本当に絶妙な塩梅にある。

今のロックに求められるのは、包括性・積極性・貫通力だと思う。そのトライアングルのど真ん中を突き破りシーンの最前線に躍り出た、痛快な傑作。



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