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Puma Blue - In Praise Of Shadows (2021)

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総評 : 10/10


EP群は夜の都市感を強く打ち出した、ややアングラな作風だったが、ここでは全ての装飾を取り払い、剥き出しのありのままの姿を晒している。「無」の空間に環境音(ジージー、ザワザワ)が鳴り、そこにクリーントーンのギターとアンビエントな鍵盤が波紋のように広がる。リズムはチープな打ち込みメインで複雑さは無し。ベースは主張せず静かに寄り添う。そして耳を捉えて離さない個性的なボーカルが乗る。

その演奏から感じるのは、強いメランコリズム。表面上はクールなので聴き逃してしまいそうだが、その奥から、居ても立っても居られない焦燥に駆られ、声にならない声でSOSを出し続けるような、彼の心からの叫びが聞こえて来る。実際に歌詞も、彼の身辺に起こった悲劇とそれを必死に乗り越えようとする姿が描かれている。その痛切な声を聴くたびに胸が強く締め付けられる。それこそJeff Buckleyのライブを観ている時と同じような、ここ数年では記憶に無いほどリアルでダイレクトな感傷が押し寄せる。圧巻。年間1位〜3位に入るようなレベルの作品。

#2はInc. No World『Living EP』にも通じる、ほんのちょっとだけファンクなR&B。#3のギターサウンドはJeff Buckleyを感じさせる。#4, 9などはあまりに悲痛な雰囲気に胸が抉られる。唯一のラブソングである#6のストリングスの使い方は1950年代のアメリカ映画を観ているよう。#8はドラムンベースに迫るようなドラムが異色の一曲。Jeffが生きていたらこんな音を出していたかもしれない。#10も相当メランコリックだが後半はハープとストリングスも交え、さながら死ぬ直前に見る儚い桃源郷のよう。#11は本作で一番キャッチー。後半のトランペットがめちゃくちゃエモい#13はアルバムのクライマックス。#14はRhyeやInc.No Worldに通じるアコースティックR&B。名曲。

好きな曲
9 Silk Print
10 Is It Because
13 Bath House
14 Super Soft

共通点を感じるアルバム
Inc. No World『As Light As Light』
静かなアコースティック作品で、かつめちゃくちゃエモいところ。

James Blake『Enough Thunder』
剥き出しの感情をダークな背景でポツポツと歌うところ。

Jeff Buckleyのライブ
特定の作品ではなく、Jeffがライブで見せていたあの壮絶で物悲しいエモーション、それを引き継いでいるような気がする。



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