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Editors 『EBM』(2022)

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8/10
★★★★★★★★☆☆


停滞していたバンドが作り出した過去最高にバキバキな新作。それを可能にしたのは、エレクトロミュージックを主戦場とする新メンバーだった。結成20年・7作目とは思えない気概と迫力と躍動感に満ちている。

前作『Violence』(2018)の制作に途中から参加していたBenjamin John Power (Blanck Mass, Fuck Buttons)が正式加入してからは初のアルバムとなる。ここ数作、アイデアの枯渇を感じていたバンドメンバーが新たな風を求めて彼にオファーを出したようだ。

制作のコアはそのBenjaminだったという。前作までは、Tom Smith (Vocal)が曲を書き、メンバーで演奏とプロダクションを加えていくスタイルであった。本作は、まずBenjaminがベースとなる音とメロディラインを作り、Tomがコードとボーカルを付け、Elliot Williams (Key), Justin Lockey (Guitar)が演奏とプロダクションを加えるプロセスで制作された。制作中、メンバーはBenjaminのメロディセンスに驚かされっぱなしだったようだ。

結果、このバンドからは初めて聴くような躍動感がすべての曲に溢れている。"Picturesque", "Strawberry Lemonade"の迫力は尋常でないものがある。全メンバーの楽器が興奮を煽るためにデザインされ混ざり合っている。特にビートはロックドラマーからは決して出てこないような発想に満ちており、Benjaminのセンスが最も分かるパートだと思う。

"Heart Attack", "Karma Climb"はわかりやすいメロディで本作のコンセプトを明確に提示する。"Kiss"はニューウェーブとダークテクノとディスコが混ざり合った大傑作。Depeche Modeすらここまで爆発的であったことは無い。よりテクノ的な最終曲"Strange Intimacy"まで、全く容赦が無い。

ベストトラックは、昨今世に溢れるありきたりな80'sポップを魔改造して投げ付ける"Educate"。シンセをぼんやり鳴らしている暇があったらこのくらい爆発させてみろ、という彼らの挑発的な意思表示に思える。笑っちゃうくらいブッ飛んでいる。

正直に言って、彼らのこれまでの作品については、頭でっかちでカタルシスに欠けると感じることがあった。もう少しロックバンドとして爆発する瞬間が見たいと思っていた。その思いは『Violence』に対して特に強く、あまりにモッサリしすぎなのでは?と感じていた。

そんなモヤモヤを、本作は完全に払拭した。しかも、いかにもなディストーションギターやこれ見よがしのシャウトを使った幼稚な「ロック復活!」ではなく、かつてなく実験的/意欲的な音で達成してくれたのだから、賞賛の言葉しか見つからない。

シーンの流行に擦り寄ることもせず、自己模倣でファンに媚びることもせず、自己革新を繰り返して理想像を追い求める。彼らのアイドルであるR.E.M.The Cureと同じように、これこそが真のロックバンドの在り方だと思う。









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