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スイス最大のお祭り!バーゼルのファスナハト

スイスでも特に有名なお祭りがあります。

それが、私の住んでいるバーゼルの町を舞台に、つい先週月曜日から水曜日にかけて盛大に行われた「ファスナハト Fasnacht」。

要するに謝肉祭で、特にバーゼルで行われるものは「バズラー・ファスナハト Basler Fasnacht」と呼ばれて長く親しまれてきました。

ファスナハトの行列。こちらは英国王室をテーマとしたクリッケの人々。

バーゼルの町には、「クリッケ Clique」と呼ばれるファスナハトのための組合、昔流に言うなら「講」がそこかしこにあって、各クリッケごとに毎年ファスナハトに向けてのテーマ「スジェ Sujet」が相談で決められます。
テーマが決まったら、それに基づいて仮装をした人々が笛や太鼓を吹き鳴らしながら町を練り歩きます

月曜と水曜に行われる町中でのパレードは特に大がかりなものです。
仮装行列による音楽隊に、これまた手作り感満載の(!)山車が登場して、その上からはコンフェッティ(Konfetti)と呼ばれる色とりどりの紙吹雪が乱れ飛んできます。 

ヴァッギス Waggisと呼ばれる伝統的な仮装をした人たち。
お菓子や果物、花などをもらえますが、そうと見せかけて紙吹雪をかけられるのもお約束。

地元の人々にとっては、ファスナハトの3日間は1年の中でも特別で、現地方言で「drei scheenschte Dääg」、つまりまさにそのものズバリ、一番盛り上がる3日間であると長らく言われてきました。この3日間はその前後も含めバーゼル州では休日扱い。学校も休みになります。

人々の熱狂ぶりと、町の賑わいぶりという点では、年始と夏の建国記念日に打ち上げられる花火のときでもファスナハトにかないません。
バーゼルに関する限り、スイス最大のカーニバルということもあり国内外からも多くの人々が見物に訪れるので、もはや「地元のお祭り」を越えた性格のものになっています。

人々は仮装を解いて休憩中。この光景もそれなりに面白い・・

そんなバズラー・ファスナハトを代表するのが、「モルゲシュトライヒ Morgestraich」と呼ばれる祭りの開始を告げるイベント。日本語に無理に訳すなら「朝の一撃」とでもなるのでしょうか、文字通りまだ夜が明ける前の、早朝午前4時の瞬間を目指して、人々が大挙して旧市街に押し寄せます。

一度、町の全ての照明が消えて、それを合図として一斉に太鼓と笛の音が響き渡り、あちこちで仮装した人々の後進が始まります。暗闇の中での色とりどりのファスナハトの山車は、まるで灯篭のようです。

↑ 今年のモルゲシュトライヒは、こんな感じでした!

また火曜日の夜には、大聖堂前の広場に各クリッケの山車が集合します。
これを目当てに遠方から来る人もいるくらいです。

こうして暗くなっても、まだ町中ではパレードが行われています!

こちらは、楽隊ではない人々が、沿道上の見物人に短冊状のものを手渡しています。この細長い色紙にはそのクリッケのテーマに関する説明が書いてあります。
テーマ及び山車は、後で投票の対象となるので、各グループともアピールに必死なのです。

これが私たちには少々厄介。試しに持って帰ってゆっくり中身を読もうと思ったら・・

環境問題に関するテーマみたいですが、細かいところは何が書いてあるのかさっぱり・・オランダ語みたいに母音が連続する場所がたくさんあったり、見慣れない位置にウムラウトがあるこの言葉、実は「バーゼル・ディーチュ Basel Dytsch」と言って、こちらで日常的に話されているドイツ語の方言です。
ファスナハトの期間中は、こうして話し言葉が積極的に書き言葉になります。

ファスナハトの期間に人々身にがつけるバッジ、プラケッテ(Plakette)。
毎年デザインが違っていて、今年はなんとメトロノームがデザインされています!

ところでこのバーゼルのファスナハトはとても歴史が古くて、なんと14世紀には既に行われていたそうです。

1511年に当地で出版された音楽指南書には、今なおファスナハトで使われている太鼓たち、すなわち「トルンメルン Trumeln」が図入りで紹介されています。

セバスティアン・ヴィルドゥンクの著作から、太鼓の説明の箇所。

面白いことに、上のページにある図のうち左の2つがトロンメルン、右の2つは「パウクリン Pauklin」で、現代のティンパニにあたるもの。
同じ革製の打楽器でも、はっきり区別されているんですね。

今でも楽器博物館などに行くと、16世紀に作られた古いトロンメルンを実際に見ることができます。

年号入りの、これぞ「ヴィンテージ・トロンメル」!バーゼルの紋章が描かれています。

ファスナハトの太鼓のリズムはとても複雑なのですが、クリッケに所属しているバーゼルの人たちは、普段からこれを必死に練習します。
練習に使われているのは、こんな楽譜。

笛のほうも、たくさんの旋律を覚えないといけません。
しかし子供の頃から毎年ファスナハトに接している地元民たちにしてみれば、それらは知らず知らずのうちに体に入ってしまっているようです。

最近は若い人々を中心に、現代風のブラスバンドによるクリッケが増えて、「グッゲンムジークGuggenmusik」と呼ばれる、昔ながらの音楽隊は減ってきているとのことですが、この伝統はちょっとやそっとではなくならない気がします。

さて、「バズラー・ファスナハト」の最終日ともなると、パレードが行われるメインの通り周辺は一面紙吹雪で埋め尽くされ、それに紛れて沿道の人々もゴミを捨て放題で、さながら無法地帯と化します。

この下にはトラム(市電)の線路が・・

まるで「この3日間なら何をしても良い」と言わんばかり。
実際そのようでして、バーゼルの人々はもしかするとファスナハト期間に派手に騒ぎたいがために、それ以外のときは真面目に働いて、おとなしくしている節さえあります。

パレードの大音量の喧騒は水曜の夜までで、その日の深夜に過ぎると跡形もなくなります。
清掃車が深夜のうちにフル稼働して、道のゴミと紙吹雪は一掃。
翌朝からは、トラムもバスも通常運行・・となり、ここらの切り替えは実に見事

冗談でなしに、バーゼルの人々はこの瞬間から、早くも来年のファスナハトに向けて動きだしているのです。

ファスナハト終了の翌日、清掃車が入り込めない旧市街の路地にて。
壁に貼りついたままの紙吹雪と、埋め込まれたバーゼル市の紋章。

スイスへの観光をお考えの方、ぜひ一度「バズラー・ファスナハト」を現地で体験されてみてはいかがでしょうか?
きっと、価値観が変わるはずです

こちらの公式サイトによると、来年は2月19~21日の開催となっています。
ファスナハトの期間が毎年移動する理由は、いわゆる教会暦に準じている(最終日が四旬節初日の、いわゆる「灰の水曜日 Aschermittwoch」に相当します)からです。

それに何となく、「ファスナハトによってバーゼルにも春がもたらされる」というイメージがあるのですが、実際はそうでないことがほとんどで、今年にしても3月に入っての開催だったのに、終わってからもまだ氷点下まで冷え込む日々が続いています。

本格的な春の訪れは、まだ少し先といったところでしょうか。

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