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はじめてアマゾンで買ったもの

もはや私たちの生活の一部欠かせなくなった、「密林でのお買い物」。

実は、私の住むスイスにはアマゾンはなくて(!)、ここで物を買いたければ、ドイツのアマゾン社のサイトにアクセスして注文することになります。

しかも、ドイツを含めたEUの諸国から直接スイスに物品を送ると、関税がかかってしまうのが厄介です。
そこで、ドイツに国境側の町に私書箱を作って、そこに届くようにしておき、注文した品物がいくらか溜まったところで取りに行く・・ということをかれこれ数年前からやっています。
国境に近い町に住んでいるからこそできる芸当でもあります。

私はできることならば、書籍や音盤などは店頭で購入したい派です。実物を確認しないで何でもかんでもネットで買う・・というのには、いまだにちょっとした抵抗を感じなくもないのですが、そうは言いつつ特に中古の書籍や音盤では、アマゾンに圧倒的にお世話になっています

そこまでのヘビーユーザーではないにしても、年に何度かはけっこうまとめ買いをします。
対して、日本にいた頃はアマゾンをほとんど使っていませんでした。
それでふと思ったのが、

「最初にアマゾンで買い物したのはいつだろう?」
「その時の品物は何だったのだろう?」

・・でも自分の場合、はっきりと時期と品物まで覚えているのです。

しかもその品物が、日本から持ってきてまだ手元にあるのですから、購入以来ずっと大事にしているものということが分かるのですが、それがこちら。

だいぶ表紙に手垢がついてしまっていますね・・これは何の本かというと、「Evangelisches Kirchengesangbuch」という、ドイツ語の福音派教会賛美歌集。「エーカーゲー(EKG)」の略称でも広く知られています。
日本の文庫本サイズと比べてみると、縦はほぼ同じで、横はこちらの方が短いです。いずれにしろ、簡易なポケットサイズ
なぜこんなものを買ったかというと、そのいきさつは以下になります。

私は日本の大学一年生のときに、故・礒山雅(いそやま・ただし)氏による、バッハの音楽についての講義を週一で受けていました。(尊敬する礒山氏についてはこちらの記事で紹介しています!)

もともとバッハの音楽が好きで、人一倍入れ込んでいた時期もあります。
ところが高校時代までの自分のバッハの音楽に対する興味は、どちらかというと器楽曲・世俗曲に偏りがちで、カンタータや受難曲といった宗教音楽には、関心こそあっても背景となる宗教上の知識がかなり不足していました。

特に、礒山氏のバッハの講義には、バッハのカンタータの創作との関りでコラール≒ドイツ語による平易な賛美歌)に関する説明が次々出てきて、自分には馴染みのないことが多く、といってやはりこのあたりのことはもっと知りたいし、いずれは自分で調べられるようにもなりたい・・と思ったので、ちょうど教会カンタータを扱った講義の直後、果敢にも礒山氏のところへ行って、いかにも入門者丸出しという体で

コラールについて、何かおすすめ本はありますか?

とたずねたところ、礒山氏はぶしつけな私の質問にも丁寧に応じて、
ならばEKGはおすすめ。日本の書店には置いてないが、アマゾンをはじめネットの中古本を扱うサイトでたまに出ていて、チャンスがあれば買える

というようなことをおっしゃいました。記憶がちょっとあやふやながらも、この時の礒山氏が「アマゾン」という会社名を出したことはなんとなしに覚えています

ということで、当時まだ慣れなかったネットでの買い物に挑戦!
何しろ、固定電話の回線を外してネットにつないでいた時代のことです。

お目当ての品物を見つけ、注文して何週間かたってようやく手元に届いたのが、この本というわけです。
あらためてページを開いてみると・・

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Evangelisches Gesangbuch」とだけタイトルにあって、「教会の」にあたる「Kirchen-」は省略。まあ、そんなことは言わずもがなということなのでしょう。

さらに下には、この賛美歌集が使われる教会区が列挙してあり、ベルリン=ブランデンブルク州や、バッハの後半生の活動に特に関りが深いザクセン州の教会でも、現在使用されている版ということが分かります。

礒山氏が私に特にこの版を勧めてくれたのか、それとも私が知らずに注文したらこれが来たのか、今となってはよく分かりません。
でも、ザクセン州が入っている時点で「ドンピシャだ!」という気にはなります。

さて、キリスト教の教会に一度でも入ったことのある方ならご存知のように、こうした小型の賛美歌集は、教会の入り口に誰でも手に取れるように積んで置いてあります。

ちなみに今はちょうど、教会暦がはじまった直後の待降節(アドヴェント)の時期にあたりますが、賛美歌集はこのアドヴェント用の歌から始まります。
賛美歌集はいわば、歌による教会のカレンダーといっていいでしょう。

↑ ごく最初の方に載っている、アドヴェントに歌うための単旋律の賛美歌2つ。番号が若いだけありますね。

この賛美歌の中身と、通しの番号の振り方は、同じ福音派であっても、その土地によってそれぞれ違います。
一口にEKGといっても、現在のドイツ国内だけでも、たくさんの異なる版があるわけです

↑ もう少しページをめくると、別のアドヴェントの賛美歌が。

これは表彰式で流される音楽としてポピュラーな、ヘンデルの見よ、勇者は帰る(See, the Conqu'ring Hero Comes)」の旋律に、19世紀の前半にドイツ人の神学者が新たに宗教的な歌詞をつけたもの。

信者の方の中には、表彰式の音楽としてよりも賛美歌バージョンで先に知った、というケースが多いみたいです。

賛美歌のしおりに、直筆でこんなものが入っていました。

とても達筆ですね。
アマゾンの中古で買ったこの賛美歌集の、前の持ち主によるものでしょう。
捨てる気にはどうしてもなりません。

字にばかり見とれてないで、この聖書の引用箇所をかみしめるように読むと、これはとても重く響いてくるセンテンスです・・


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