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インタビュー: 「勇気」という言葉が好きです ~ キャリアコンサルタント いのうえともみ さん

女性のためのキャリアコンサルタントとして本格始動したともみさん。
ここまで来るには長い道のりがありました。
9度(!)の転職、自分を縛っていた「妻」「母」「女性」としての役割意識からの解放……
ともみさんが働く女性の優しく力強いチアウーマンになるまでの月日を振り返ります。
聞き手:イノウエエミ
撮影 :橘 ちひろ
(2019.3月取材)

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◆ 飛行機にあこがれて


―――紆余曲折というべきキャリアをお持ちですが、スタートは航空会社の地上業務員ですよね。それも納得! ともみさんはとっても洗練された雰囲気をお持ちで…。子ども時代はどんな子でしたか?

筑後市の自然の中で育ちました。周りは田んぼだらけで、夜は静寂の音が聞こえる気がするほど静か! 私はジャングルジムや木登りが大好きな、活発な子でした♪

―――大自然の中で育ったお子さんが空港の仕事にあこがれるようになったきっかけは何だったんでしょう?

父がよく飛行機で出張していたので、航空会社から月刊誌やカレンダーが届いていたんです。ほんの数回だけれど、空港のレストランに連れて行ってもらって、滑走路の飛行機の発着を見ながら家族で食事した風景が脳裏に刻まれたのも大きかったと思います。

もうひとつは、小学生のころ、日曜日に『兼高かおる 世界の旅』という番組をやっていたの。
女性である兼高さんが一人で世界中を旅して、訪問先でいろんな人と会ったりインタビューしたりするんです。相手がどんなスペシャルな方でも堂々としていて。オープニングで飛行機が飛び立つ場面とともに、大好きな番組でした。

―――どれもすてきなエピソード! 空港でのお仕事は狭き門。採用が決まった時はうれしかったでしょうね~!

とってもうれしかった! 本当はスチュワーデス(当時はそう言っていましたね)になりたかったんだけど、全社受けて結果は残念ながら・・・。
空港での仕事をあきらめていたところに、運よく地上職を担う新会社とのご縁があって。卒業直前の2月、本当に土壇場で決まったんです。

―――夢だったお仕事をすること8年、出産を機に退職されたんですよね。

チーフとしてやりがいを感じていましたが、「結婚したら女性は家事育児をするもの」という意識が染みついていたんですね。当時は、働く側にも会社側にも、まだ産休や育休についての知識や意識が今ほどしっかりしてなかったのもあるかな。

◆ 専業主婦からのリスタート、小さくて大きな一歩

出産後、専業主婦になったともみさん。慣れない土地で、お義父さんとの同居生活が始まります。
夫は毎晩 帰りが遅く、2人の子どもたちとお義父さんの4人で食卓を囲む日々。「私は誰と結婚したの?」 嫁、妻、母親としてのあるべき姿にとらわれ、そこから逃げ出したい衝動に駆られる日々だったとのこと…

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――― 4年間の専業主婦生活からのリスタートとして、パートを始められましたよね。
簡単には解決できない問題を抱えて鬱々と悩んでいるところからの一歩目。とても大きな変化だと思いますが・・・

そうですね…正直にいって、このまま夫とやっていくのか、それとも一人になるのかと悩んでいました。でも、一人になる選択をしても、今の私では子どもたちを育てられない。

―――せっぱつまった状況が原動力だったんですね。
保育園探し、高い保育料、たくさんの提出書類、それにもちろん職探し…。いざ動き出して、高いハードルに心が折れそうになったことはありませんでしたか?

あるある、たくさんある! 大泣きする2歳の次男を初めて民間託児所に預けたあと、私も泣きながら運転していました。「子どもを預けてまで自分の思いを選んでもいいのか?」と罪悪感に襲われて…。

―――職場が決まって預けるのでなく、今から仕事を探す段階で預けるって、より精神的負担が大きい気がします。

そうですね。当時は「とにかく収入を得たい、今の状況を変えたい」という一心で動き出しました。

―――夫婦関係について、本当に悩んでらしたのですね。

もうね、家庭内別居に近い状態。夫婦の会話もほとんどなくて。いろいろな原因があったのだけれど…。

ひとつは、自分の中の先入観もあったんだよね。
実家の父は、昔ながらの大黒柱で「俺が食わせてやる」「おなごは黙っとけ!」という感じ。それが嫌で、そうじゃない人と結婚したいと思い、実際優しい人と結婚したんだけど、不思議なことに結婚すると夫にお父さん像を求め出すんです。

―――わ~、不思議!  でもわかる気もする。夫婦や家庭の基準は、やっぱり自分が育った家なんですよね。

そうなの。もっと頼らせてほしいとか幸せにしてほしいとか、「与えてもらう」ことばかり考えて、気づいたらいつも夫を責めてた。夫婦は両親しか知らないから、自分たちらしい夫婦像がまったくイメージできなかったのね。そこに葛藤があったんだと思います。

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◆ それでも、夫婦関係は変わる!

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―――最悪に近いような状態から、どうやって回復していったんでしょう?

私が働き出してから変わっていきました。私は「やっぱり外で働くって大変なんだな」と夫を思いやることができるようになったし、夫も私が外に出たことで子どもたちや義父との時間、家事をする機会が増えて、私がどんなことにストレスを抱えているか体感できるようになったんですね。

―――それまでは、家事や育児もほとんど夫さんの手を借りたことはなかったとのことなので、最初は大変だったのでは?

彼は一人暮らしの経験もあって、もともと、ちょっとカレーを作ったりはできる人だったんです。でも、同居してからはしてもらってなかった。夫に家事をさせる姿をお義父さんに見られるのも嫌だった…というか、私がいないのに夫が台所にいるイメージがまったく想像できないわけです。
私がフルタイムの仕事で帰宅が7時ごろになるようになって、逆に夫は転職して私より早く帰れる日もあって。それでやっと彼にも出番が出てきたんです。

―――出番を作ること、大事ですね。今は、二人で一緒に台所に立つこともあるとか。

そう。楽しいですよ~! どちらかが火の近くにいたら、どちらかは洗い物をしたり、何となくあうんの呼吸でやっています。今日はどうだった?とかおしゃべりしながら。昔、古い台所で一人で料理をする時間がつらかったのが嘘みたいです。

―――夫婦関係って、変わるんですね~!

変わる変わる! 私たちも、ドカ~ン!ってぶつかりながらいろんな話をして、少しずつ理解して尊重できるようになって・・・そうやって自分たちのスタイルができていきました。ずいぶん、時間かかったな~。

そうそう、うちの場合、夫が地域の「父親の会」に入ったのも大きかったと思います。自分の子ども以外の子育てにかかわる楽しさを経験できたんじゃないかな。

―――先に智美さんが子ども会の会長をする姿などを間近に見ているうちに、夫さんも「自分もやってみよう…」と思われたのですかね。

そうかもしれないですね。
子どもを通じた地域活動をすると、集団の中にいる我が子を見ることができるし、我が子以外の子どもにちょっとしたことを屈託のない顔で話しかけられたりするのもとてもうれしいんですよね。私も、夫を子どもの頃から知る方に「あ~、●●くんとこのお嫁さんね?」と言われたりして。
夫婦で地域のことをいろいろと共有できるようになって、会話も増えていったんです。

◆ 無我夢中で一歩ずつ

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・20~28歳 空港で地上職(グランドホステス)に8年間従事、出産のため退職

【リスタートからの職歴】
・33歳  総合病院の受付事務 パート1年
・34歳  卸業者の営業事務 パート2年
・36歳  大手航空人材派遣会社入社
  航空券・旅行商品の予約案内 1年半で派遣切りに
  短期派遣社員 1ヶ月
・38歳  ゴルフ場秘書 派遣社員 3ヶ月
・40歳  県男女共同参画センター 嘱託職員5年
・45歳  市男女平等推進センター 契約社員2年
  厚生労働省指定キャリアコンサルタント資格取得
・47歳  若者就職支援相談員 契約社員1年
  国家資格キャリアコンサルタント登録
・49歳  高齢者就職支援相談員 契約社員(現在4年目)

―――専業主婦からのリスタート後、いくつもの職場を経験されていますよね。それぞれの仕事についてアヴァンティオンラインのコラムに詳しく書いておられて、読みながら何度も涙してしまいました。

ほんと~? 読んでくれてありがとうございます。

―――それぞれの職場で、必ず課題があり、学びがあるんですよね。

そうですね。そのときは無我夢中で、あとになってから気づくんですけどね。

―――ご自身のプライドの問題、次のステップに進むためのお別れ、セクハラやパワハラ…

本当に、いろいろありました!

―――いくつもの職場や、PTAなどのご経験がある智美さん。人づきあいで気を付けていることはありますか?

私、けっこう人間関係で悩んできた人です(笑)。

―――人間関係って、ある意味 永遠のテーマですよね。

いろんな人がいるよね。人に対して「自分とは違うけど、そういう考え方をもった人なんだ」って思えるようになったのは最近かも。アドラー心理学をもとにした『嫌われる勇気』という本も気持ちを楽にしてくれました。

―――母親の場合、PTAや子ども会などもあって、いろんなことを「ちゃんとしなきゃ」という呪縛のようなものもある気がします。

あるある。私の場合は、仕事、学童保育、子ども会のこと、子どものサッカーとか、やることが多すぎたのが逆によかったかもしれません。考える余裕がなくなるくらい忙しくていっぱいいっぱいのほうが、逆にうまくいったりする。同居の悩みも忘れてしまうくらいでした(笑)。

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――― リスタートから何回も転職をしながら、一段ずつキャリアを積んでいかれたのが本当にすごいなあ、と。

自分でも、よくこれだけ転職したな~って、おもしろい人生だなって思ったりします、今となっては(笑)。

――― なんたって、9回ですもんね!

派遣切りにあったときの「悔しさ」が原動力かもしれません。挫折って、飛躍するためのチャンスになることがあるんですよね。

―――遠回りしたように見える部分もあるかもしれないけれど、それだけの経験をされたから今があるわけですよね。

身をもって経験してきたから、他の人にも「チャレンジしてみたらいいですよ」って言えるんだと思います! 昔の私ならきっと言えなかった~。

―――なるほど~! 「経験者は語る」なんですね。

新しいことへのチャレンジって、やっぱり不安だしパワーが必要! 不満やモヤモヤを抱えていても、チャレンジしないほうが楽かもしれない。
でも、今と違う自分、変化を求めてるなら、違う行動をしないと変わらないんだよね。だから勇気をもって、気になる方向に「エイッ!」てやっちゃったほうがいいと今は思ってるかな。
そう、「勇気」という言葉が好きです。

―――すごく納得です。あの転職のキャリアは、本当に勇気の連続だったと思う!

◆ 「男らしさ、女らしさよりも、その人らしさ」

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―――福岡県男女共同参画センター「あすばる」でのお仕事は、大きな転機だったそうですね。

「男女共同参画」、もっとたくさんの人たちに伝えたい! 字面からして硬くて怖いイメージで、まだまだ誤解されている部分もありそうですよね(笑)。

たとえば、妊娠中に職場で肩身が狭かったこと。心の奥では仕事を続けたかったのに退職を選択してしまったこと。再就職の厳しさ…。
そういうことは「わたし個人の問題」と思いがちですが、男女共同参画を学んだことで「すべて社会的な課題なんだ!」とわかって、衝撃だったんです。

―――あすばるの面接では、面接官4人のうち3人が女性で驚かれたそうですね。

受からなかった会社も含めて、本当に数々の面接を受けてきたのですが、トップが女性という職場は初めてでした! 

当時の館長との出会いは、私の人生を変えた出会いのひとつ。
新人研修の場で中嶋さんから聞いた「男らしさ、女らしさよりも、その人らしさ」という言葉を心に刻んでいます。
この言葉で固定観念から解放されていくことによって、自分も生きやすくなったし、いろんな人を認めることができるようにもなったんです。

あすばるでは、とにかくたくさんの出会いがありました! 社会の中でいきいきと活躍している女性にお会いするたびに、「かっこいい! 私もあんなふうになりたい!」と思ってましたね。

―――ともみさんは、とても感情表現が豊かですよね。「うれしい!楽しい!大好き!(←ドリカム?)」って、言葉でも表情や動きでものびのびと表現されている姿がとってもすてきです。

それも男女共同参画を学んだからかもしれない。女性は控えめにおしとやかに、自分を出しすぎないように・・・どちらかというと昔はそう思っていた気がします。でも、今は抑えてません。私らしく!

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―――女性は職場でも家庭でもサポート的な役割を担うことが多いので、自分が持っている可能性や能力に気づきにくいように思います。

私は、あすばるで事業企画をしていたんですね。男女共同参画を学ぶための企画を考えて、講師に交渉して、チラシを作って広報して、当日は運営して、終わったら報告書とお礼を…という一連の業務すべてを担当していました。

―――嘱託職員とはいえ、任されているところはずいぶん大きかったんですね~。

そう! 任されて仕事をする経験って本当に大切。企業で働く女性にも、もっと職域が広がって、チャレンジする機会が増えたらいいな。そういうチャンスがあれば伸びる人ってたくさんいると思います! 

「ふくおか女性いきいき塾」(※福岡県とあすばるが2017年まで開講していた女性リーダー育成塾。智美さんはアドバイザーとして参加していました)の塾生たちも、卒塾後、たくさんの人が次のチャレンジをしてるの。チームで課題研究に取り組んで、対話を重ね、最終報告会までを経験して…。「私にもできた」という達成感がそうさせるんだと思う!

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◆ 働くことをフランクに。私のチャレンジも続きます

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女性にとって大切なのは、任されてチャレンジすること。そして、もうひとつ必要なのは応援してくれる人だと思う。

―――だから、いつもみんなを応援してくれるんですね! もう、本ッ当~に応援上手で、私もいつも励まされています。

専業主婦からリスタートするときって、昔の私みたいに、応援してくれる人や相談できる人がいなくて悩む人も多いと思うんです。
セミナーやハローワークに行くとなるとすごく勇気が必要で、足踏みをしちゃうような…。そんな人たちにアプローチできるキャリアコンサルタントをめざしています。

―――すごくいい~! ともみさんの応援力は、キャリアコンサルタントにぴったりだと思います!

ありがとうございます。
リラックスできる空間作りをして、初対面でも「この人になら話してみたいな」と感じてもらいたいですね。勇気をもって、わざわざ時間を作って相談に来てくれた方に、来てよかったなと思ってもらえるように。

そのためには、私がどういう人間で、どういうことをしてきたのか、オープンにする必要があると思ったんです。よくわからない人には相談したいと思わないでしょう? 
実は、今回、写真とインタビューをお願いしたのも、その一環。私にとっては勇気が必要なチャレンジだった!

―――とても、とても光栄です。

今まで、なかなかそこまでの気持ちはなれなかったの。
でも、3年間、お仕事を探しに来る高齢者の方の面談をしていて、「あきらめなければ何でもできる」っていうかね、いくつになってもチャレンジできるんだ、と思えるようになったんです。

ひとつ失敗しても、世の中に仕事はたくさんある。働くって、それくらいフランクに考えていいんじゃないかな、と今は思ってます。

どんな仕事も、きっと人生の通過点。私もいろんな道を通って今ここにいます。
働くことについて悩みや迷いがある人は、ぜひお話に来てほしいな。
人って、話す前と話した後では全然違う顔になるんですよ!

最後に、ともみさんが好きな言葉を紹介します。あすばるで出会った憧れの女性に教えていただいた言葉だそうです。
You must do the thing you think you cannot do. 
自分にはできないと思うことをやってみなさい エレノア・ルーズベルト

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(おわり)

キャリアコンサルティングCREER
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編集後記

こんなに姿勢よく、晴れやかな笑顔のともみさんに、まさか9度の転職という紆余曲折があったとは。苦しい日々があったとは。驚きのインタビューではないでしょうか。それでも人は変われる! 

ともみさんから出た「勇気」という言葉、「働くってフランクに考えていい」という言葉に、私自身が励まされました。話を聞いてもらったり、応援してもらうことで、想像以上のパワーをもらえます。女性ならではの「働く」の問題に悩む方、ぜひともみさんにアクセスしてくださいね! 私もまた会いに行きます!!       (イノウエエミ)

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