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インタビュー: 自分と約束した日を思い出せるように ~ 「ピリカサク」 松本美夏さん

情緒あふれる井尻商店街の中にある小さな事務所「ピリカサク」
松本さんはその代表として、映像制作、写真撮影を手がけています。
モットーは「ありのままをキロクする」。そこには強いこだわりがあるようです。
しかし、そのお話は意外なスタートを切るのでした…。

(2019年5月取材)
聞き手: イノウエ エミ
撮影 : ピリカサク 李 政文

◆ 「あのとき、こんな気持ちだった」を思い出せるのが映像のすばらしさ

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――― 『ピリカサク』は、映像制作や撮影の会社ですが、カメラとの出会いはいつですか?

実は、会社を作ったときは、カメラもできないし映像制作の経験もまったくない状態でした。

―――え? ええっ?!

よく驚かれます(笑)

―――その状態で、なぜ映像の会社を…?

映像って、そのときそのときの沸き立つ思いが目に見える形で残る。それがすごいなと思ったんです。

―――それは、何かきっかけがあって?

きっかけというか…。きっとみんな、自分と約束した日があると思うんですよ。
私が最初に「起業しよう!」と思った日のように、こんなふうにしよう、自分のために生きるぞ、って決めた日。
「もう嘘はつかないぞ」とか、「明日からダイエットしよう」とか。
でも、日常の中で、その約束は色あせたり、あきらめたりしてしまいますよね。

―――本当に、悲しいくらいすぐ忘れちゃいますね。

それを、「そうだ、あのとき、こんな思いだった」と目でも耳でも感じられる形で残せないかな…って考えたとき「あ、映像がある!」って。

―――だから、「作りこまず、ありのままの記録」を大事にしているんですね。

それから、いろんな方が作る映像を見るうちに、直感で「この人だ!」というカメラマンさんとの出会いがあって、自分でも勉強して今に至ります。

―――ピリカサクの1分紹介動画、わかりやすかったです。

これ、思い立って数分で撮った映像です。
「クライアントさんの映像はたくさん作ってるけど、自分たちの映像がないね」と気づいて。
「えー、この格好で?」「化粧ほとんどしてないけど」って言いながら、即、撮影(笑)。

―――まさに、そのときのありのままの記録なんですね!

◆ 北海道から福岡へ、結婚出産から起業へ

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―――会社を立ち上げて事務所を構えて、人に報酬も払って…かなりの覚悟が必要だと思うんですが、起業のきっかけは何だったんでしょうか?

独身時代は会社員でしたが、やりがいのある仕事だったので、結婚してももちろん続けると思ってました。
結婚したらそれぞれ財布があってお互い生活費を出し合って、残った自分のお金は好きにできる…そういうイメージ。

―――そういえば私もそうだった、子どもができるまでは(笑)。

北海道で勤めていたんですが、結婚しようと決めたとき、彼は地元の福岡に戻っていて。
私が勤めていた会社は福岡にも支店があって、支店立ち上げのとき教育担当をした経験もあったので、「福岡に転勤したいです」と言ったんですが、会社の事情でそうもいかなくて…。

会社を辞める気は全然なかったんですけど、それ以上に結婚を辞めるという選択肢がなかったので、結果的に辞めることになったんですね。

―――ちなみにご結婚されたのは…。

28才になる年です。誕生日の前で。

―――若いですね!

だから、こちらで再就職も全然できたと思うんですけど、彼が自営業で時間がけっこう不定期だったりで、勤めに出にくくて。もどかしさを抱えつつ、30歳で出産…。

―――そうなると、仕事を始めようと思ってもしばらく動けませんよね。

こっちに友だちがいるわけでもないし、0歳の赤ちゃんを抱えながら、ほんとつまんなくて…(笑)

―――(笑)

すごくかわいい反面、つまんないんですよね。おむつとごはんの心配しかしてない! みたいな。

―――わかるわかる。気づいたら、子ども以外の話題もなくなってたりして…。

それで、1歳の誕生日を機に、初めてまわりに「働きたい」と伝えました。
お姑さんに「お金で苦労してるの?」と聞かれて、「そうではなくて、自分の時間を少し有意義に過ごしたいんです」と話したんですが、ショックだったんじゃないかと思います。

―――やっぱり、そこのギャップは大きいですよね。

ずっと主婦をやってきた人だから、自分の生き方を否定されたみたいに感じてもおかしくないですよね。でも「昔とは違うよね」と理解してくれて。

働きたいとはいえ、家事と仕事と自分の時間、いろいろ両立したかった。大好きな旅行に行ってもできる仕事って…? と考えたら、勤めに出るのではなく、起業しかないと思ったんです。

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(事務所の内装も、スタッフの手作り満載です!)

◆ へそ曲げた自分と向き合って「今の私をどれだけ好きでいられてる?」

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たまに思うんですよ。主婦をしてると、どうして「自分に価値がない」と思いがちなのかな?って。私、起業しなきゃいけなかったのかな?って。

―――おお~、すごく根本的なとこに戻るんですね。

起業しといて、続ける気でいるのにね(笑)。

私は自分を認めるために起業したけど、専業主婦をしているお姑さんや妹、もっといえば、結婚して子供を産んでごはん作って、ずっと地元で生きてきたおばあちゃんたち・・・そんな人たちを思うと、起業がすべてではなかったようにも思うんですね。

―――その気持ちを今でも持ち続けてるのがすごいです。

専業主婦って、報酬をもらうでもなく称賛されるでもない。でも、人ってそんなに評価されないと生きていけないのかな?って。

―――「お金を生み出していない」という劣等感や罪悪感があるのかなという気がしますが。

すごくへそ曲げた専業主婦だったころの私は、「私だって仕事したかったのに、もっと好きなことしたかったのに」と思ってた。結婚や出産を足かせのように感じてたんですよね。
でも今、へそ曲げてるときは仕事が足かせに思えたりする(笑)。

―――あるある(笑)

だから、どんな生活をしてても、どんなポジションにいても、自分がどれだけ自分を許せるか、どれだけ自分のこと好きか、そこがポイントなのかな。
実際、すごく自己肯定感高く主婦してる人もたくさんいると思うんですよ。

―――いるいる! 

結局、向き不向きなんですかね(笑)。

へそ曲げてた昔の私じゃないけど、自分の存在にあまり価値が感じられなくなっている人ほど、自分の映像や写真を記録してみてほしいですね。ありのままの自分を認めるために。

―――あーもう、ほんとわかる!

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◆ 縁が切れたりひっくり返ったり。コールセンターの衝撃

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―――秋田ご出身とのことですが、私ほんとにきりたんぽぐらいしか…

あと、なまはげでしょ?(笑)

―――そのくらい知識が貧困で…すみません。

いえいえ(笑)。山形との県境、にかほ市というところで、海と山に囲まれたなかなかの田舎です。

―――高校までは秋田で、就職してから北海道に行かれたのですね。やりがいを持っていたとおっしゃってましたが、どんなお仕事を?

コールセンターでした。ガチャンって切られたり、怒鳴られることもあったけど、でも “ 電話が切れたら縁も切れる ” のがすごくうれしくて。

―――(爆笑) その考え方、初めて聞きました(笑)

「こんなすごい仕事はない!」と思って。うち、実家が花屋で、しかも田舎でしょ。スーパーとか、どこに行っても「お花屋さんの娘」だったんですよ。

―――ああ~、なるほど!

だから、「こんなに人との縁が切れる仕事ってあるんだ」って。就職して1年半くらいで教育係のほうに立場が変わった時も、「上司を出せ」と言われて変わる電話がほんとに楽しくて…。

―――え、それってつまりクレーム対応ですよね? 

クレーム対応って、会ったこともない、今知り合ったばかりの人とすごく仲良くなれるんですよ。「ああ、そこにご立腹だったんですね~」「そうなんだよ~」みたいな。

―――理解してもらえたら、怒りの気持ちが劇的に反転するんですね!

わざわざ電話するほどのエネルギーがある人だから、仲良くなったらすごいファンになってくれるんです!

――― ” 電話を切れば縁が切れる ” 仕事は、その場のコミュニケーションに全力投球できる経験を与えてくれたのかもしれないですね。 

◆ 「素直だね」が何よりうれしい

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―――松本さんは自己肯定感が高そう!

ん~~~、疲れたり、うまくいかなくなってるとき、急に自己肯定感が低いほうの自分を応援しちゃうことありますよ。「あんた、ほんとできてない。ダメなやつ」「やっぱりね、だってあのときもできなかったじゃん」って。

―――黒い悪魔の声が…。

そうそう。さぼってた自分、同じ失敗をしちゃう自分・・・全部、自分が一番よくわかってるから、自分が一番言われたくない言葉で自分を責めちゃうんですよね。

―――そういうときは、一人で落ち込むのですか?

一緒に仕事してる仲間や、大事にしたいなと思ってる人には言います。「今日、もうホント最悪」とか。ぐずぐずぐずぐず言って、言い尽くすと「でも、これってつまり…」と前を向く感じです。

―――ボールがバウンドしたら自然と上がる感じですね。

まわりには、上がったり下がったり忙しい人だと思われてるんじゃないかな(笑)。

―――人に言われてうれしい言葉はなんですか?

素直だね、正直だね、と言われるとすごくうれしいです。

―――やっぱり「ありのまま」を大事にしているんですね。実際、よく言われるのでは? こうしてお話していても、そう感じます。

そうですね。ありがたいです。そんなふうに見てもらっていることが、また自分のエネルギーになります。

◆ だらだら、だらだらでエネルギー充填(笑)

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―――仕事を離れたらどんな人ですか? 

「お母さん、今日ごはんつくりたくなーい」って娘にぐじぐじと…(笑)。娘も6歳にして聞き慣れてるから「わかった。じゃあお父さんにカレーライス作ってもらお」みたいな感じです。

―――そんな感じか! で、だんなさん、作ってくれます?

そうですね、カレーとかチャーハンとか。

―――お休みの日は、アクティブに過ごすタイプですか?

んー、外向きの答えとしては「家族にキャンプに行ったりします」とか言うんですけど、実際どれだけ行ってるかというと、2~3か月に一度ぐらい(笑)。

―――あら、じゅうぶん行ってるじゃないですか。

彼も私も、やろうと決めたらスイッチが入るので、この前はどうしても棚を作りたくて、材料を買ってきて寸法を測って、木と塗料と電動ドリルで一日がかり。
そういうのも好きだけど、基本はだらだらしてます。
寝っ転がって、ケータイでゲームして、マンガ読んで、だらだら~だらだら~、とだらだらしてエネルギーをためてますね。

―――すごくシンパシーを感じる…(笑)


◆ 「あなたはそのままで、何も不足はないんだよ」と伝えたい

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―――起業して、仲間を作って、いろんな仕事をして。松本さんのパワーの原動力って何でしょう?

そうですねー、うーん。
たぶん、学生時代も会社員時代も、子育ても起業したときも、「私このままじゃ終わりたくない」という欲は強いなと思います。

―――そっかー! かっこいい!

今日、今このときは、ピリカサクですごく儲かってお金を回してるビジョンは、ちょっと…ぼやっとしてるんですけど(笑)

でも、同じ思いの仲間がいるわけだし、いい仕組みが回り始めたら、これから出会う誰かの役に立てると思います。私がこれまでいろんな人に助けられてきたように。

経営の学校で出会った先生やスタッフ、起業の先輩たち…。
きっとみんなネガティブな思考に陥って、悩んでクズクズしてやめたいなと思うときもあって、それでもやっぱり、いつか出会う誰かのためにがんばり続けてきたんだろうなって思うんです。だから私もまだまだ終われないなって。

―――「このままで終わりたくない」はキーワードですね。

よくばりなんでしょうね、きっと。もっともっと出会いたい。
たぶん一人でできることなんてたかが知れてるから、自分の輪を広げたり、誰かの輪におじゃまさせてもらったりすることで巻き起こるものに期待しています。

―――松本さんからは、「社会に貢献したい」「これから出会う誰かのために」という気持ちを強く感じます。ピリカサクを通じて、どんな貢献ができると思いますか?

それは、ピリカサクに出会った人が、出会う前より自分をちょっと愛おしく思えること。
自己肯定感が上がったときに良くなっていく社会問題ってきっとあると思うんです。

―――そうですね。すべて、そこからつながっていくような気がする。

ちょっと大げさかもしれませんが、社会問題が大きい渦みたいにずーっと動いてるとしたら、自己肯定感は渦の向きを変える力になるんじゃないかと思うんですよね。ネガティブからポジティブへ。

昔の私は、たとえば人より成績がいいとか、人より先に彼氏ができたとか(笑)、自分を認めるためにいつも人と比較していた気がします。

―――情報が多い現代なので、周りが見えすぎて比べてしまうこと、あると思います。

自己肯定感って、そうじゃないんですよね。「そのままの自分がここにあるだけでいいんだよ」ってこと。
「あなたはあなたのままでいい。何も不足はないんだよ」。それが、ピリカサクを通じて伝えたいメッセージです。

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(おわり)

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編集後記

いや~、未経験からの映像制作会社の起業にはびっくりしました! 
そんな豪気さもありながら、自分を大きく見せよう、かっこよく見せようというそぶりのない、まったく等身大の松本さんです。自己肯定感の話も出ましたが、自分をというより「人を」根っこのところで信じている人だと思いました。
事務所もとてもすてきなんです。みなさん、井尻商店街を訪ねてみてください。
「あなたのままを記録に残す」 私もそれがしたくてインタビューをやっている気がします。お互いにがんばりましょう~!  (イノウエエミ)

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