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「前年比95%」の政治を突破するイマジネーション ~おしゃべり: 安田サニーさんと(前)

今日、2019年7月4日は参議院選の公示日ですね。
というわけで、しがないフリーライター/インタビュアーのイノウエエミと、零細自営業でさすらいのアーティスト安田サニーさん。徹頭徹尾、かよわい一般ピープルの2人で政治についておしゃべりしてみました。
政治と言いつつ音楽とか映画の話もいろいろ。かかわってるんだよね、いろんなことが。

写真はすべて、安田サニーさんによる撮影です。

◆1.世界からグラデーションが消えかけている

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―――サニーさんは時々、「世の中、この1,2年で急速に悪くなっていってる」と言うよね。あれはどういう意味?

なんか積極的なNOを感じるんだよね。
たとえばちょっと政治や選挙の話が出たとする。
以前なら、興味がなくても「あ~なるほど」ってその場ではうなずいたり笑ったりしてたと思うんだ。
でも最近は「そういうの結構ですから」って、はっきりシャッターを下ろす人が増えた気がする。

―――いわゆる ” ドン引き ” されるんだね。

反対に、そういう話に関心が深い人は、すごい勢いでぐいぐいくる。
どちらにしても、グラデーションが少なくなってるよね。とても良くないことだと思う。

―――どうしてそんなふうになっちゃったんだろうね。

そうね~、なんか勝ち負けがはっきり見える世の中になったからじゃない?
体制に反対するイコール負けてる側につくのが怖いんじゃないかな。

あとさ、反対する人は強い口調で言うやん。
そのことに対する拒否反応もあるんだよね。
若い子が言ってた。反対してる内容より、まず「声を大にして言う」姿を見ると応援したくなくなるんだって。

反対してる人たちにとっては、圧倒的不利な状況だから必死なんだけど、それが怖い感じに見えて届きづらくなってる部分はあると思う。

―――自分が関心ないこと・考えたくないことについて怒ってる人を見ると、すごく居心地が悪かったり嫌悪感を覚えることあるよね。
自分が怒ってることについて一緒に怒ってもらえるのはうれしいんだけどね。人って勝手な生き物。

そもそも、主張することを良しとしない文化で育ってるからね。
「どうですか?」「同じでーす」という文化だから。


◆2.デモも怒りも効果なし?

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―――デモはどう思う?

うーん、デモすることでガス抜きになっちゃってるとこもある気もするし…

鳴り物を鳴らしたりして「デモも楽しくなきゃ」もわかるんだけど、海外のデモを見るとそうじゃない印象もあるんだよね。
大きな声や音がなくても、ただ歩くことで「主張する側にいる」感じというか。

―――デモのコールも、どうしても主張や反対色が強くなっちゃうよね。
「アベやめろ、アベやめろ」ってコールを見ると、「私は言いきらん…」と思うのもわかる。
だからといってデモする人がいなくなったら怖いなと思う。
「日本でデモなんかしても意味はない」という意見もあるけどね。

デモはなくならないと思うよ。やりたい人は必ず一定数いると思う。たとえ法律で中止しても。
報道されない限り、ほかの人にとってはいないのと同じなんだけどね。

―――現実的に、怒りの声を上げることに意味がないどころか逆効果になってるとすると、どうしたらいいんだろうね? 

そうね~。ああ、サンドイッチマンがやる総理のモノマネおもしろかったな。
何をたずねても、「アメリカのトランプ大統領と…」って言うやつ。

―――しゃべり方のマネも、かなり特徴的でね。

直接的に批判したり「反対」って言わずに、その存在を笑う。茶化す。

―――風刺だね。伝統的な。

あれはやっぱり、表現する側に、余裕と実力があるからできることなんだよね。俺なんか余裕がない側の人間だからわかるけど(笑)

―――反対に、政権側が人気タレントを使うのも効果あるんだろうね。ジャニーズとか、お笑い芸人とか。

いっぱいいるよね。あれを見て「総理、いい人~♪」と思ってる人。


◆3.「前年比95%」に慣れさせられてる

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―――人には「そこまでひどくはならないだろう」と思いたい心理があるじゃない? 正常性バイアスの一種というか。
「おとなしくしとけば自分は大丈夫だろう」って。

悪い人たちが悪いことをして金儲けしても、別世界だしね。直接的に自分に被害はない。
そこへいくと、年金の問題が出てきたのはちょっと大きいんだろうけど。

―――広告宣伝も功を奏してるよね。

「改正しても平気だよ」とずっと言われ続けたら、平気な気になるもんね。

じわじわ悪くなってるのがポイントじゃないかな。10年前と比べるとすごく悪くなってるけど、去年と比べればちょっと悪くなっただけ、って程度だから。

―――「前年比95%」なら耐えられるもんね。

巧みだよね、コントロールが。

―――そうやってだんだん麻痺して、もはやどんなことが起きても受け入れる世の中になってしまった気がする。

大臣も官僚も、以前なら明らかに辞めるレベルの失言や失態でも、今は辞めないもんね。権力側にいればほとんどすべてが許される。
そして、それを「おかしい」と思える感性がなくなってるのが怖い。

私は日本の政権はカルト的になってしまったと思ってるけど、大半の人は消極的な与党支持でしょ。野党じゃダメだからっていう消去法。
そういう人には、昔のままの自民党のように見えてるんだよね。


◆4.想像力をつくるもの

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―私の政治的関心は歴史オタクに原点があるんだけど、サニーさんの場合は、映画好きなのが大きいのかな。

そうだと思う。イスラエル、パレスチナ、キューバ危機…全部映画がきっかけだもんね。

―――映画も小説も、具体的な出来事を知るだけじゃなく、世の中の構造とか、人の普遍的な心理が分かってくるやん。いろいろ見ることで一般化できるようになる。
それを現代にスライドさせて、将来を想像するんだよね。

あと、ドラマチックなものを感じるからかな。
触れちゃいけないものに触れるってこと。

―――なるほど~。言われてみればわかる気がする。
タブーを避けようとするのは動物的本能だけど、タブーに触れたいと思うのは人間の本能かも。アダムとイブのころからの。

タブーや想像力って人間らしいでしょ。

―――そういう意味で「生活と政治はつながってる」路線のアピールに限界があるんだろうね。全然ドラマチックじゃないもん。現実的すぎて暗澹とするだけ(笑)。現実なんだけどさ。

俺だって、政治的発言なんかしないほうが絶対嫌われないと思うよ(笑)。
でも、10年後、まだ生きてる可能性がまぁまぁあるから。今より悪くなってる世界を想像しちゃうもんね。
想像するかどうか、その違いは大きいと思う。

―――若い人…私みたいな氷河期世代も含めてだけど、今より良くなる想像ができない世代なんじゃないかな。いい時代を知らないもん。

「何とか食べれるし、you tubeも見れるし、LINEで友だちとつながってるし、十分でしょ?」って思ってるんだよね。

―――「変わると、ガラガラポンでひどいことになるんじゃないか? それなら今のままのほうがいい」っていう…。権力による刷り込みでもあるよね。

この10年くらい、マンガ原作の邦画の全盛期だもん。あれ大きいよね。

―――福岡のミニシアターも、KBCシネマ以外、軒並みつぶれちゃったもんね。

ベストセラーと大ヒット映画と視聴率のいい番組だけ見てたら、何も考えなくなるんじゃない?

―――大ヒット作品がダメだと言いたいわけじゃないけど、あれは行間を読む必要がないから万人受けするんだよね。すべて受け身でいられて楽だから。

日本は、子どもの頃から「ひとりぼっちっていいことだよ」って全然教えないもんね。
友だちと一緒にいること、仲良くすることしか教えない。

体が弱かったのもあって、俺はそれ全然できなかったから。
「人と違うんだな」ってことと向き合って、悶々と考える時間がたくさんあった。

(後編に続く)

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