日記を書かなかったので昔の自分を晒す 2023.2.3

ウイイレ2013をやっていたらこんな時間になってしまったので、今日の日記はありません
代わりに私が高三の頃に書いた詩?掌編?を載せます。
載せるにあたり意味の伝わりにくい部分をいくつか編集しましたが、表現の部分は変えていません。飛び回る場面や、くすぐったくなる表現を存分にお楽しみください。

『瓶』

 近頃至る所で空き瓶を見かける。先週は大学の教室、三日前にバイト先で、昨日に至っては部屋の中に転がっていた。
 そして今、行く道のちょうど中ほどにも空き瓶がポツンと立っている。
 いつものように無視しようと行きかけたが、空き瓶に目をやった時、突然足が止まる。空中に放り出された右足がどうにか着地を済まそうと四苦八苦する間でさえ、私は瓶から目を離すことができなかった。
 その空き瓶は今まで見た中でも一等素晴らしいものであった。降り注ぐ太陽光を一身に吸収し尽くし、眩しいほどに輝く。それはさながら暗闇の月であった。
 辺りを見回しても、慌てて拾いに来る者はいないようである。
 私はそれを外套のポケットにねじ込むと、またゆっくりと歩き始めた。
 少し歩くとポケットの中で瓶が少し揺れる。空き瓶はむくれたように黙っていた。

  私と空き瓶の沈黙を破ったのは、道の端でビー玉を使って遊ぶ子供たちの歓声だった。
 ビー玉は子供たちの手から離れ、仲間たちが散らばる地面へ真っ逆さまに落ちていく。癇に触れるか細い声をあげながらビー玉同士はぶつかりあい、弾かれた瑠璃色のそれが私の足元に転がってきた。
 私は何故かキラキラと光るその球体を、無性に空き瓶に入れてみたくなった。
 少年たちは一つも見逃すまいと目を光らせ、散らばったそれらを拾い集めている。一通り拾ったあとその中の一人に貸してくれるように頼むと、少年は怪訝な顔をしながらも、地球の青が浮くビー玉を渡してくれた。
 受け取るやビー玉を空き瓶の口から流し込むように入れる。かろんかろん、と小気味良い音をあげながら、瓶の中で跳ね回った。
 小さなビー玉は広い空き瓶の底を転げ続ける。
 私はその様子を眺めるうちに、最初に感じていた愉快さは何処かに消え、その滑稽な有様に恥ずかしさを感じ始めていた。
 急に嫌になった私はすぐにビー玉を追い出すと、心配そうにこちらを見ている少年にビー玉を押し付け、瓶の中で跳ね回ることのないくらい大きなビー玉はないかと尋ねた。
 少年は瑠璃色のビー玉をポケットに隠すと、ルビー色の大きく美しいビー玉を私に差し出した。
 私は礼を言ってその大きな宝石を受け取ると、空き瓶の口に押しつけた。ーービー玉は瓶の口より先には入っていかなかった。
 少年はあからさまに不機嫌になった私の手からビー玉をもぎ取ると、他の少年たちとどこかへ駆けて行ってしまった。
 私はまた歩き出した。しばらく歩くと賑やかな声が響く公園があった。
 公園では桜が見ごろのようで、多くの人々が集まっている。私は、花見をする人々の中を泳ぐようにすり抜け、一際開く桜の真下まで辿り着いた。落ちていた花びらを一枚、おもむろに空き瓶の中に入れる。かなりの期待を持って眺めていたが、瓶の壁にピタッと貼りつき存在を主張するその姿は、いかにもあからさまな、露骨な様子で、嫌になった私はすぐにそれを空き瓶の中から振り出した。
 次に私は桜の木に目をつけた。そっと手を伸ばし、良さそうな枝を一本見繕う。力任せに折った。それはとても素敵で、きっとこの瓶に似合うだろうと差し込んでみたが、やはり、なんとも不恰好で、なんとも言いがたい姿を私に見せつけてくる。
 私は呆然としてしまい、横から手が伸びてきていることに気がつかなかった。ゴツゴツとした手は空き瓶から伸びる枝を掴むと乱暴に引き抜き、手の主人の元へと運んでいった。
 驚いてそちらを見ると、手の主人は酔って赤くした顔をさらに真っ赤にして、回らない舌で怒鳴りつけてきた。
 何を言っているかは半分も聞き取れない。空き瓶に似合わないものを差したことを怒っているのだろうか。するとこの男は瓶の持ち主なのだろうか。私は恐ろしくなり、その場から逃げ出すことにした。
 公園を離れる前に空き瓶に似合うものが周りにないことを確かめると、私はとにかく駆け出した。
 男が追ってきている様子はなかった。それでも私はかなりの時間を歩き続け、じきに日が暮れてきた頃、一人の友人に出会った。彼は二言三言で世間話を済ませると、私を飲み屋に連れ込み、何やら説教じみたことを言いながら酒を飲みはじめた。
 彼が一人喋り続けるのをよそに、私は辺りを見回し、ふと気がついた。空き瓶と言うからにはやはり、酒を入れるのが正しいのではないか。
 思うが否や私は酒を空き瓶に注ぎはじめた。注ぎ終わると私はそれを手に持ち掲げる。これが私の求めていたものだと強く感じた。友人が私の行為を不思議そうに問いかけてくる。
 私はそれを友人にも見せてやろうと思い体ごと彼の方を向くと、友人は酒を入れた空き瓶の中で歪んだ笑みを浮かべゆらゆらと揺れていた。
 私は急に嫌になり、空き瓶の中の酒を飲み干すと、猛然と飲み屋から出て行った。
 しばらくの間ふらふらと道を歩いていると、また別の公園があった。私はそこのベンチを借り、少し横になることにした。
 月が綺麗な夜であった。その公園に花はなく、新緑が闇の中で輝いていた。私はふと空き瓶を覗き込んだ。そしてスルスルと中に滑り込んでいった。瓶の中は快適で、窮屈なことも広すぎることもなく、いい気分であった。そこでは私は唯一人であった。

 私は自分が寝ていたことに気がついた。起き上がると空き瓶はまだ傍にあった。拾い上げようとしたが、危うく思いとどまる。それは月の光で満たされていた。
 私は急に瓶が私のものではなくなったような気がして、拾うのをやめて家に帰った。
 次の日行ってみるとその公園に空き瓶はなく、また、生活で空き瓶を見ることもなくなった。




終わり方がいいですね。完全に授業でやった安部公房のパクリなんですが、終わりがいいので許します。途中から改行を思い出してるのも面白いですね。

これを書いた頃は受験が終わり、父親が妙に張り切って「これから卒業までの2週間は君たち(私と妹)の挑戦の時間だ。お金なら出すからなんでもやるといい」と言ってきたのを覚えています。
そんなこと言われてもつい先月まで鬱病でろくに動けなかったんだぜ私は。と思いましたが、それを伝える体力すらなかった時期なのでその後は部屋で椅子に座って2週間を過ごしました。
その2週間が終わる最後の日に、あんなこと言ってたし流石に何もやらないのはかわいそうか……と思って書いたのがこれです。結局父親に見せること(そもそも見せる気が)はなかったので、多分何もやらなかった人として記憶されてるでしょう。
別にいいです。
おやすみなさい

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?