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スルタンイブラヒムという魚を煮付けにしてみるという冒険

魚は、特別なごちそう

オランダ、スケーフェニンヘン。海辺のランドマークは、クラシカルなホテル、クールハウス

もともとはそんなに魚好きではなかったくせに、このごろの私はいつも新鮮でおいしい魚介類を渇望していて、魚というと断然ごちそうで貴重な感じがする。外国暮らしもかれこれもう20年ばかり、しかも近年は海のない国での生活が長かったせいなのかもしれない。ウズベキスタンに3年、ルワンダに2年。鶏も牛も羊も山羊も好きだし、なんならビーガンを目指した時期もあったけど、魚は特別。タシケント郊外の川のなまずを揚げて食べさせるお店には喜んで出かけたし、キブ湖のサンバサという小魚を買いに何時間も車を走らせたり(夫がだけど)。

思えば、私は北海道の釧路という港町生まれだ。そんなに魚好きではなかったものの(しかも刺身や鮨が苦手だった)、幼い頃の食卓にはいつも魚があったし、家庭の味として思い出すのも魚料理が多い。小さい頃の食習慣が、こんなふうにひっそりと、でもしっかりと自分の中に根付いているのって、すごくおもしろい。

真夏のビーチはとてもカラフルで、賑やか。

今暮らしているここ、アゼルバイジャンのバクーも海辺の街なので、もちろんいそいそと魚屋さんやバザールに通っている。カスピ海は、塩分量が1/3くらいの汽水なので、とれる魚も淡水と海水の魚の両方で、大きな鯉のような魚たちや、川のカマスのような魚、そして海の鰊に似た魚や、ボラみたいな魚をよく食べる。キャビアの養殖が盛んなので、各種チョウザメの身も売られていて、こちらはなかなかに高価。なんとなく食感が鶏むね肉に似ていて、ぷりっとしていて旨味があって、もちろんおいしいのだけれど、この値段なら鶏肉でもいいやと思ってしまうこの庶民魂。他には、トルコから運ばれる黒鯛とか鰯、ヨーロッパから来る鮭や鯖、そして海老や帆立などは、冷凍で手に入る。冷凍の魚介類は、お手頃だし、いつでもどこでも安定の味。

それから、カスピ海沿いのビーチには、海辺にテーブルを並べて焼き魚を食べさせるレストランがいくつもあって、そんなお店に天気の良い日に出かけるのは、なんとも特別な気持ちがして好きだ。好みの魚を選んで、炭火焼か素揚げにしてもらって、柘榴のソースつけて食べる。すごく高価なわけではないのだけれど、なんだかいつもごちそう、という満足感がある。

だから島や海辺に旅する時などは、とびきりわくわくする。海辺のシーフードレストランのレビューを、ごく切実な熱意を持って熟読して厳選するし、魚市場やスーパーマーケットの魚売り場があれば、嬉々としてのぞきにゆく。新鮮でぴかぴかした魚介類を見ていると、気持ちがこんなに盛り上がるのは、(どこかに眠っていた)釧路の女の気概なのだと思う。だから海辺にゆくとなると、いそいそとキッチン付きの宿を予約したり、スーツケースにこっそり小出刃を忍ばせたりする。しめしめ。

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