ファストファッション

「女装でも気軽に入れる店って意外と少ないのよね」
多機能トイレで化粧をなおしながら、私がつぶやくと

「あれ?そんなことを気にしているの?入った者勝ちよ」
隣でストッキングを四股を踏むように引き上げながら美女が答える。

結構、ストッキングがずれるみたい、この人。

まあ、そうなんだけど、向こうもサービス業なんだからなあ、でもね。

考えたら、多機能トイレでこうやって、男ふたりが仲睦まじくしているのも、普通に考えると怖い話だ。そもそも、トイレの個室にふたりで入らないし。

まあ、順番に使うより時間の節約なので社会のためにはなっているはず。

この美女おじさん(実は大学の先生です)の
「私が良く行く店を紹介するよ」
という甘い言葉に誘われて、で行動をともにしました。

場所は恵比寿、おしゃれな店が多い、そもそも、B面だったら、近づかない街。
入った店も、ひとりだったら、まず行けないという店でしたが、この美女おじさんは堂々としたもの。

「この指輪かわいいー」
などと大きな声で言うので、お客さんに笑われたのもご愛敬か。

夕方になり、この先生とレストランにはいりました、結構、良い買い物ができて私たちも話が進む。
「やっぱ、こういうブティックで買い物すべきなのよ」
と先生が言う。
「ユニクロ、しまむらじゃあ、ダメですか」
私が尋ねると、

「フィストはだめよ、フィストは・・・」
先生、声がデカい。

え、え、え、フィスト。。女装二人でフィスト・・・。尻がむずがゆくなる。

「そのようなエクセレントな体験は私のような若輩者はまだ経験しておりませんわ」

と心の中ではつぶやいたのですが、身体が反応できないでいると、先生は更に
「フィストも若い子ならいいんだけどね」
と断言した。

「よくねーよ」私は心でつぶやくのが精一杯。

「そうよ、我々の年齢だったら、フィストファッションで買うべきじゃないのよ、ちゃんと選ばないと」

氷解した、すべて。乱歩せんぱい。

「先生、それはファストファッションです」

「あー、ファーストフード」と同じね、何事もなかったように食事をする先生。おそらく内心照れていると思う。

まあ、それは笑い話で、

会社をさぼっての休日の午後でした。
ちゃんちゃん

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