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never young beach 「ありがとう」 / アルバムレビュー

でてでて咀嚼そしゃくして来た古き良き音楽への憧憬どうけい連綿れんめんと続いてきたミュージックヒストリーへの愛敬あいけいを、洗練された新しくオリジナルなネバヤン節に今回もしっかりと落とし込んだ名作の誕生!


never young beachネバーヤングビーチとは

安部勇磨: vocal, guitar  巽 啓伍: bass  鈴木健人: drums

2014年春に結成。2015年に1stアルバム「YASHINOKI HOUSE」を発表し、「FUJI ROCK FESTIVAL」に初出演。2016年に2ndアルバム「fam fam」をリリースし、2017年にSPEEDSTAR RECORDSよりメジャーデビューアルバム「A GOOD TIME」を発表。2018年に10inchアナログシングル「うつらない/歩いてみたら」をリリース。そして2019年に、4thアルバム「STORY」を発表し、初のホールツアーを開催。2023年6月、約4年ぶりとなる5thアルバム「ありがとう」をリリースする。また近年は上海、北京、成都、深圳、杭州、台北、ソウル、釜山、バンコクなどアジア圏内でもライブに出演。

(never young beach Official Webより)


「ありがとう」を聴いた/クールマイン的見聞録

never young beach(以下:ネバヤン)のニューアルバムを、有り難くもいち早く拝聴はいちょう出来る環境にあった。早いもので実に4年振りとなるニューアルバムだそうだ。ネバヤンと言えば 60年代、70年代の古き良き音楽をこよなく愛し、サウンドにも色濃く反映させた、温故知新おんこちしんを地で行くバンド。しかも和洋折衷わようせっちゅうが抜群にうまい。先行シングルを聴いた段階で現体制の充実っぷりはうかがえたので、新譜の内容が非常に楽しみであった。それではサポートメンバーを含めた6人が導き出した『ありがとう』に早速触れていきたい。


オープニングナンバーは『哀しいことばかり』。2020年に発表したシングル『やさしいままで』の収録曲、『ららら』のリアレンジとなっている。タイトルから想像したものとは真逆の世界線が広がる、人の温かさが染みるポジティブな歌詞。「クヨクヨしないで笑おうぜ」とばかりにお尻を小突いてくるようなバンドグルーヴが小気味良い。RCサクセションの極初期の名曲に、『悲しいことばっかり』という曲があるが、そこで叫ばれる悲壮感やささくれた痛みはなく、全く違うベクトルのエネルギーなのだ。勿論失ったものがないわけじゃない。それを乗り越えた先の幸せを見据えての”陽気”に心躍らせるのである。明るい未来しか無い!

あのとき あのばしょ
今はないけれど
リズムうきうき残っているの
絶やさず 響いていく

『哀しいことばかり』歌詞より

2曲目はロッキンなカントリーアレンジで耳障りの良い『毎日幸せさ』で軽快な流れ。痛快な皮肉や反骨精神も込められた歌詞の内容で、これはこれでまたタイトルに気持ちの良い裏切りがあった。とは言え暑苦しくロック魂を押し付けてくるわけでもなく、必要以上にしゃに構えることもなく、ごくごく自然体なので聴いている側もすんなりと入ってくる。牧歌ぼっか的な雰囲気の中に潜む毒っぽさが光る好ナンバーであった。

3曲目はテンポを落とし、『蓮は咲く』。はっぴぃえんどを初めとする70年代フォークロックからの影響を感じる、人間臭く温かなメロディ。ペダルスティールの響きが琴線きんせんに触れ、哀愁の増幅装置として機能。様々な人間関係をトレースすれば違う物語が次々と生まれる、溢れる優しさと芯の強さを秘めた名曲だ。

続く4曲目は『Oh Yeah』。デジタルミュージック主流の音楽チャートとはこちとら無関係!と言わんばかりにソリッドに贅肉ぜいにくを削ぎ落としたロックンロールを聴かせてくれる。ドゥーワップにも通じる中盤のテンポチェンジがまたたまららない。

そして5曲目の『風を吹かせて』も良過ぎて思わずうなる。土臭い60s〜70sブルースロックの薫りを内包ないほうしつつ、Bahamasのような繊細なヴォーカルタッチで静かな歩みを見せ、徐々に熱を帯びていく歌声は、サビで力強くりんと立ち上がる。洋楽的なサウンドデザインだが、ヴォーカルに関してはこういう歌い回しは日本人しかしない。つまりオリジナルだと思う。すぐ目の前で鳴る一際ひときわ抜けたエレキギターとオルガンの揺らぎも実に効果的に作用している。BOB DYLANの『風に吹かれて(Blowin' In The Wind)』から60年。答えは未だ風に吹かれているのかもしれない。


折り返し6曲目(LP盤ではB面1曲目)の『らりらりらん』は先行シングルでリリースされた本作中一番のアッパーチューン。植木等の『スーダラ節』、水前寺清子の『三百六十五歩のマーチ』のオマージュも含め、レトロな雰囲気も持ち合わせていて、お気楽で底なしに明るい。”元気の押し売り”みたいなたぐいだとこちらも勝手に疲弊ひへいしてしまう場合があるが、この曲は終始飄々ひょうひょうとしていて、無責任に楽観的なので胸がすく。アルバムリリース日の夜に公開されたMVは、メンバーが河川敷でひたすら草野球の練習に興じるという、昭和の青春ドラマさながらの映像にホッコリ!


7曲目『こころのままに』。昨年、香取慎吾主演の映画作となった”犬も食わねどチャーリーは笑う”の主題歌として書き下ろされた楽曲である。落ち着いたトーンでつむがれた言葉と歌心がジンと来る。意図的に音数を減らしたかのようなA〜Bメロがフリとなって、サビがより感動的に刺さった。聴いた後も優しい余韻よいんを心に残すような後味があり、この曲が誰かの大切な人を救ったり、悩んでいる人に寄り添っているんだろうなぁと想いをせた。アメリカ在住のイラストレーターMark Neeleyによるネバヤン初のアニメーションMVも素敵なので是非チェックをお願いしたい。


アルバムも大詰め8曲目に持って来たのは、これもキラーチューン『Hey Hey My My』。The Beatlesの『Get Back』なんかも想起そうきされるノリノリなリフが推進力のこの曲は、かつてNeil YoungがSex Pistolsをはじめとする、70年代後半に起こったUKパンクロックムーブメントの躍動に刺激を受け、ロックの衰退すいたいに危機感を持った事がきっかけで作られ、後世Oasisもカバーした楽曲『Hey Hey,My My』からのインスパイア、、、かどうかは不明だが(どちらもヤング繋がりでいかが?)、そんな想像も楽しい。とにかく音楽愛に満ちた多幸感溢れる1曲!快晴の休日は少し早起きしてこの曲をかけて小躍こおどりしたい気持ちになる。
ちなみに昨年の7月にこの曲は一部の歌詞とメロディラインが異なるA・B、2つのバージョンでシングルリリースされている。


アルバムの締めくくりは『帰ろう』で正に”大団円”、完璧なエンドロール。5月の先行シングル配信の際に一聴した際には、じんわりと「いい曲だなぁ…。」という感想が沸き起こり、と同時に郷愁きょうしゅうのようなものに駆られた。レトロヴィンテージな風合いの中、てらいの無い真っ直ぐな言葉が胸の奥で反響する。「帰ろう」という言葉には色々な意味が含まれている気がしてならない。悲しさや切なさや嬉しさや愛しさ、色々な「あなた」が浮かんでは「回帰」している自分がいた。

帰ろう 帰ろう
あなたのそばに 帰ろう

『帰ろう」歌詞より

【ありがとう雑感】

コマーシャルにかたむくことなく、音楽の持つ本質的な良さに力を注いでいる姿勢を随所から感じ取れる名作だった。でてでて咀嚼そしゃくして来た古き良き音楽への憧憬どうけい。それで終わることなく、連綿れんめんと続いてきたミュージックヒストリーへの愛敬あいけいを、洗練された新しくオリジナルなものまでに今回もしっかりと落とし込まれている。蛇足だそく無しに濃縮された歌は、口当たりは軽くともこだわりの強いサウンド構築が垣間かいま見れ、ユーモアと切なさを行き来するヒューマニティに心酔しんすいする。難解さは排除してあるから、こちらも脇甘々かつ腕ダラリのノーガードで聴いていられるのが嬉しい。仕事や学校に行く前に『らりらりらん』で景気付けし、帰路では『帰ろう』で心の安寧あんねいを求める。そんな日々の暮らしに寄り添わせての楽しみ方もまた一興いっきょうだ。


* * *


ここで朗報です!
最高のアルバムを引っ提げて、ネバヤンが仙台にやって来ます!!
時は10月13日金曜日、場所は仙台Rensa。過去の名曲の数々からチョイスされるのは?新作『ありがとう』からは何曲プレイするのか?今から想像を膨らませて楽しみにしていてください!!!
音源も素晴らしいですが、やはりライブならではのバンドマジックは最高ですもんね〜。
たくさんのご来場、お待ちしております!

◆詳細は下記【ライブ情報にて】


【作品情報】

アルバムジャケット

アーティスト: never young beach

作品名:ありがとう

発売日:2023年6月21日(水) 

フォーマット:12inch Vinyl / Digital

価格:¥4,400(税込)

品番:ROMAN-024

発売元:Roman Label / Bayon Production

流通:東洋化成 (Vinyl) / SPACE SHOWER MUSIC (Digital)


【ライブ情報】

never young beach 5th Album “ありがとう” Release Tour
2023年10月13日(金)
OPEN 18:00 / START 19:00
@
仙台Rensa
スタンディング ¥5,500(税込)
※1ドリンク代別途必要
※未就学児童は保護者同伴で入場無料。
小学生以上チケット必要。

▼公演詳細

9月末から12月まで全10都市11公演を巡る

【アーティスト情報】



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