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BEGIN ライブレポート

郷愁(ノスタルジア)が優しく寄り添う音楽体験。
思い出のしおりを挟んだ場所へ訪れ陶酔した日。


BEGINビギンとは

左から: 上地 等(Pf&Vo)比嘉 栄昇(Vo)島袋 優(Gt&Vo)

メンバー全員、沖縄県石垣島出身。1990年『恋しくて』でデビュー。
その後も順調にリリースを重ね、数多くのステージに出演。
代表曲の「島人ぬ宝」、「涙そうそう」、「笑顔のまんま」などは老若男女に歌い継がれる楽曲となっており、最近では「海の声」が大きな反響を呼ぶ。

近年はブラジルやハワイで公演を行うなど国内外で活躍の場を広げ、ブルースから島唄まで多彩な音楽性と幅広い年齢層から支持を集めている。
また、サンバの起源となったリズムである「マルシャ」と八重山諸島の言葉である“しようよ”という意味の「ショーラ」を掛け合わせた「マルシャ ショーラ」でこれまでの日本の音楽の中にはなかった、老若男女誰でも楽しめる新たな参加型の音楽スタイルで多くのファンを魅了し続けている。

2021年3月21日でデビュー31周年を迎え、ますます精力的に活動の幅を広げている。

(BEGINオフィシャルサイトより)


第26回 BEGINコンサートツアー2023

仙台公演に行った/クールマイン的見聞録


日付:2023年3月26日(日)
会場:仙台電力ホール

天気は雨。
第26回 BEGINコンサートツアー2023、東北編のラストを飾るのはここ仙台。前回の仙台公演から約10ヶ月半振りという短いスパンでの来仙らいせんが嬉しい。
そう言えば前回の仙台サンプラザホール公演の日も雨だった。とは言え、日本はアジアモンスーン地帯に位置する世界有数の多雨地帯。フィリピンに次いで日本の年間降水量は世界で2番目というのだから、そもそも雨の日なんて珍しくないよな...。そう1人問答しながら『Blessing Rain』(祝福の雨)が脳内再生されていた。

開場時刻となると、次々に人が集まって来た。ニューノーマルの規制も緩和されたせいもあり、規律は守られつつも、グッズ売り場など場内は各所とも多くの方々の談笑で賑々にぎにぎしい。前回も書いたが、老若男女・親子三代で愛される現役アーティストが一体どれくらい存在するのだろうか。BEGINは紛れもなくその代表格だと思う。今日もご年配から小さなお子様まで様々な顔ぶれが揃っていた。何となしにその光景を眺めていると、不思議とちょっと懐かしいお祭りのような雰囲気まで感じて来て、楽しくなってくる。場内SEで流れるBEGINの代表曲に合わせて、楽しげに歌を口ずさむ人も見受けられた。


開演時刻17:00になるとホールは大勢の人で埋め尽くされていた。ステージ上に飾られた椰子やしの木が南国ムードをかもし出し、外の肌寒さをすぐに忘れリラックスさせてくれるようだった。

客電が落ちる。結成から35年、デビューして33年という歴史を積み重ねて来た音楽旅団の登場に沸き起こる大きな拍手。栄昇えいしょうさんが挨拶をした後に、「今回のツアーのテーマはノスタルジアです」と語る。「初めて行ったのにどこか懐かしい気持ちになる街はありませんか?居心地が良い、どこか懐かしい気持ちになれる空間を作れたらいいなと思います。」歴の浅いファンやコアなファンも等しく楽しんでいって欲しい、そう語りかけているかのようだった。

オープニングは往年のアメリカンポップスの極上カヴァーからスタート。あの曲この曲がBEGIN流のアレンジの効いた仕上がりで、早速心を鷲掴みにされる来場者。上地うえちさんの軽快な鍵盤から吹いているのか、そよ風に揺られた稲穂のように、自然と左右に揺れる頭がたくさん見れ取れた。

特筆すべきは今回の特別編成。日本屈指の名バイオリニスト、今野均こんのひとしさんの10年以上振りとなるツアー帯同。そしていつもはアコギを抱え歌う栄昇さんだが、今回はハンドマイクで歌に専念。元々高校時代からピンヴォーカルというこのスタイルだったのだが、”イカ天”出演を機に、ある種のパブリックイメージから抜け出せなくなってしまったそうだ。この話自体は冗談半分だろうが、今日は音の彩りがより鮮やかな音像と、全身全霊の歌が聴ける貴重なライブになる予感と期待でいっぱいだ。


メンバーそれぞれが若き頃の思い出を語りつつ、当時の情景を照らし合わせるかのように歌をつむいで行く。ユーモアを交えたMCで場を和ませながらも、しっとりとバラードを中心に進行していき、聴衆も耳をそばだて、正に聴き入っている状態。(聴き惚れている状態というのが正しいのかな?)特に栄昇さんの息子さんでもあり、ここ数年ツアーメンバーとしてもご活躍されている舜太朗しゅんたろうさんの誕生エピソードを紹介した後の、『灯り』は親子によるハーモニーが美しく、愛情に溢れていて素晴らしかった。
そして『誓い』ではまさるさんのチョーキングに、自分の中にわずかに残る、エレキギター少年の部分を撃ち抜かれたりしながら、中盤以降は少しずつギアを上げ、コンサートは”静”から”動”へとなめらかにシフトしていく。


ハイサイ California』のゆるやかなロックステディ/ レゲエ風の曲調は全身をほぐしてくれた。カリフォルニアや沖縄の抜けるような青空を連想してしまうし、昔旅をした時に見た、南国の切なくなるほどに青い空を懐かしく思い出したりもした。この曲はレゲエの本場、ジャマイカのTHE PARAGONSによる大ヒットナンバー、『The Tide is High』(皆さんもCMなどで聴いた事があるかと思います)に匹敵する琉球レゲエ?オキナワンレゲエ?かと思うし、平和を祈るメッセージが隠された名曲かと!生で聴けた喜びも大きい。
続く『』ではファニーな言い方で「ビートにライドンしてみないか?」との問いかけに呼応した来場者が総立ちでリズムを取る。ソウルフルな歌い回しが悶絶級にカッコ良過ぎたもんで、思わずこの時両手を挙げてステップを踏みそうになる自分を抑えるのに必死だったのはここだけの話。ホールは熱を帯びたまま代表曲の一つ、『笑顔のまんま』へとつながる。ポジティブなエネルギーに背中をバシバシと叩かれながら激励されてる気分に。「そうさ人生 生きてるだけでまるもうけ」。全ての人がこんな風に思えたらもっと世の中は息苦しくならないのになぁ。ちなみに後半のここに来て初めて栄昇さんは楽器(ウォッシュボード)を手に取っていた。


ヒートアップした会場をねぎらうかのように優しく着座を促し、栄昇さんは再び穏やかに語り始める。「多分、もうすぐ、のびのびとした時代がやってくると。そう期待してますよ。」奪われた時間は戻らないが、これからの未来が明るい光に照らされることを願い、『黄昏』が歌われた。再び柔和なアコースティックサウンドに、細胞に染み渡るような歌声がホールの隅々まで響いていく。
そして最後は『流星の12弦ギター』で一旦締めくくり。ストリングスを含めた鉄壁のバンドアンサンブルとエモーショナルな歌で曲のスケールを無限に広げていき、会場に爽やかな風を残していったBEGIN。実に感動的なフィナーレであった。

毎回趣向を凝らした内容で、ファンを楽しませる事を常に考えているBEGINは、誰しもが楽しめる音楽性でありながら、抜きん出たオリジナリティを体感させてくれる。そして長いキャリアにおいても常に今が最盛期であることを常に確信させてくれるバンドなのだ。

音楽は思い出のしおりだったりする。人生その時々でよく聴いていた曲が、当時の感情や情景、匂いまで呼び起こす事さえある。今日はテーマがノスタルジアだった。各々がしおりを挟んでいたページを久しぶりに開けて懐かしんだのではないかと思う。


【アーティスト情報】


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