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「2024年cocoonからの旅」VOL.3~インナーテンプルへの小舟~

私たちは次の寄港地に向かう為、大型観光船に戻った。
もちろん、旅だけがツアーの目的ではないので、この大型観光船内でも、必要の都度、それぞれのはたらきを提供することになる。そうでないと、いくらセントローズ財団からのデジタル決済があるとはいえ、私たちだって米は買えないし、おしゃれもできない。

今日は、深堀博士が担当するクライアントで、年単位で乗船している女性へのプログラムがある。先生の愛犬、否、パートナーのMr.アンダースタンドもセラピー犬として同席する。そう、これらは私の心の中だけのニックネームである。
この空に浮かんだ大型観光船内には様々な民族がまさに「同舟」しており、お互いの名前はオリジナルの言語で正確に聞き取れるものではなく、再現を諦めてスルーされている。会話については、多言語が自動翻訳され、コミュニケーションがとれる。

やってきたクライアントは、40代後半の女性。一人旅で、リトリートという大義名分で観光を楽しんでいる。そういう風でいて、しかししかし。
実は、昨晩、見かけた女性だった。私が憶えていたのには理由がある。ディナーでアルコールを飲んだ後、甲板に出て風にあたるカップルは実に多い。だから、記憶する必要もない、自然な風景なはずなのだが、二人が穏やかでなかったのは、まず、男性の方のぞんざいな非難と別れ口調である。そして、それに対する「買ってあげた時計が気に入らなかった?」「料理が美味しくなかったの?」と言った彼女の執着を含んだ声。機嫌を取るように、それでいて事実確認をして相手を追いつめる言葉。寂しさ、防御、波。そういったワードがざっと浮かぶ女性の姿であった。

深堀博士から、送られてきていたカルテによると、彼女の近親者がヒーリングプログラムを受けさせる為にツアー参加に申し込み、彼女は観光目的という大義名分があることでやっとプログラム参加を受け入れたという背景があるということだった。
私はグループセラピーのピアサポーターの役割と、タロットカードセッションで彼女の自己洞察を深めたり、後半には靈氣ヒーリングで想い癖の改善などの役割を深堀博士より与えられた。
ピアサポーターとは、当事者同士、共感から得られる氣づきや癒しをもたらす役割であり、私自身の過去の共依存体験がここでは活きてくる。私もそういう意味で回復の仲間であり、彼女は私であり、私が彼女であることを理解し、安心してもらうのだ。また、その後にカードセッションで深く潜在意識に触れ、彼女自身のさらなる自己洞察を促し、彼女の殻を割る重要な係を命じられたということになる。
アバターは2体。ピアサポーター役には、アクアのイメージで、ジェル状の華奢なボディを設定した。そのボディをふくよかにして薄いすみれ色と葉緑のグラデーションをつけて、セッション用のボディにした。

今日のファシリテーターは、深堀博士。客観的な立場で淡々とした姿勢ながら、修正と深掘りを繰り返しながらの進行となる。
グループセラピーには、さらに船内のティールームで働く、同じような年代の女性スタッフが参加していた。質素なアジアンビューティという感じの彼女を、仮にソラソバティを縮めてソラソバと呼んでみよう。まずは、ソラソバの分かち合いである。
ソラソバの国では、生まれたときに占星術の記録を樹皮に記して生涯持ち歩くのだそうだ。小さい頃から、寺の教えがあり、学校に通うようになっても、日曜には寺院の中の寺子屋のような場所で、大学に匹敵するような学力を得る機会があったという。日曜礼拝とまさに寺子屋塾のような習慣を持っていたわけだ。国の仏教徒は5つの戒律を守ることで、人生のイベントに大きく落ち込むことも、舞い上がることもなく、フラットな感覚を得れるようになり、そのことで、自他の幸福が得られると信じているという。聖人の教えを実践して生きるような国なのだ。
私やクライアントがそれぞれ育った国では、どうだろう。今や経済活動が重視され、合理的に生きること、表層部分で変化するスピード感が必要であったことを思う。また、社会通念といった目に見えない掟があって、それが支配者のようでもあったと。そこでは、成人して自立するとは、経済的自立を果たし納税をすることを意味するようで、ある意味、貨幣経済の奴隷契約にサインするようなものであった。
そいうった社会下で、さらに、クライアント(や私)が抱えてきた、原家族におけるマインドコントロール、機能不全の問題が、次々にそれぞれの口からシェアされていった。Mr.アンダーソンは基本的にクライアントの傍で、撫でられるままに横たわっている。
私たちは、常に不安やおそれを抱える心癖があり、それが自分の心に不正直な生き方を選ばせてしまうことがわかる。不正直に生きることを、なぜ私たちは自ら選び続けけたのか?クライアントの現状の不健全さの本質はこの辺りにあった。
コントラストとしての、ソラソバの健全さは、生きる智慧と魂の修練によって得られた安定感に裏打ちされているように見える。安定の中に身を置いて、自分の影響する範囲で笑って暮らせることが最終目標という、ぶれない信念の軸が育て上げられているように。

もちろん、誰もが幸せを感じて暮らしたい。
あるいは笑って暮らしたい。

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