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『フリー・コミティッド』 ふりかえり ~戯曲を読みつつ~


フリコミ、観劇後の後味があまりに素敵だったのでむしろ迷ったがやっぱり戯曲読んだ。
読んでみたら、成河さんの芝居が脳内再生されて楽しかったのと、ここからあれを作ったのかぁ〜という、翻訳・解釈・演出・表現の妙が実感できて面白かったーーー!

以下、劇を思い出しながら戯曲を読んで目にとまったこと/気づいたこと/考えたことを。

みんな大好きブライスちゃん、原文ではグウィネス・パルトローのアシスタント。サムくん気に入られてるよねー。電話番号おしえる時あんな感じだもんね笑。何度も電話掛けてくるのは、戯曲の設定にあるようにすごく緻密に仕事する人だというのも勿論そうだけど、サムくんにちょっと興味あるのかも。切り際がThanks a million! → trillion! →gazillion! てなっていくの笑っちゃう。ブライス感激ー♡

劇ではカットされてるMidwestern Secretaryとの会話から分かる料理コンセプトやメニュー名…気取ってて奇妙で、シェフのナルシストぶりとか俗っぽさが伺えるなぁ。いかにも"そういう"感じのレストランなんだな。シェフが提唱する"molecular gastronomy"って、ウィキによると調理温度を科学的に云々みたいなやつらしくて…もしかしてあの高齢者クレイマーの言ってたことと関係あるかも?

あれ?ワタナベさん出てこない。
そう言えばクウェートからの人も。(後で名前は出てくる)

冒頭からの予約電話の連続…文字で読んでると特に、みんなそれぞれ何かに駆り立てられてる、って感じがすごくするなー。(劇ではキャラの面白さに目が行くけど)
お父さんだってエクスペディア予約期限に急かされてる。

うわぁー!リンカーンセンターのオーディションはマルヴォーリオ役なんだ…『十二夜』のマルヴォーリオですよね?めっちゃ惨めでかわいそうな役じゃん!😭
この役を掴んだサムくん…大団円なラストにひとりだけ惨め、っていうのを演じることになるのね…。
きっといい芝居をしてくれるだろうなぁ☺️と今回の上演を観たから思うけど、そうでなかったら「やっぱり惨めなヤツか😔」と思ってしまうかもしれない。

カーティス I didn’t know you were back there.
Yes, I’m back.
サムくん今までずっと鳴かず飛ばずだった訳ではなく、一度はバイト生活から抜け出せそうだったのに…というやるせなさ😢

ん?サムくんゲイなの?もしかしてその辺りでお父さんが微妙に気を遣ってる空気がある?新しい彼を連れて来てもいいんだよ…とか言ってた…

サムくんの苗字はCallahan…アイルランド系。
なぜ劇ではペリチョースキーに変えたんだろう? Pilichowskiだとポーランド系。分布を調べたらPilichowski姓はイリノイ州に多いようで、サムくんの故郷インディアナ州South Bend(シカゴに近い)でも珍しくない苗字なのかな。その点はCallahanと同じかも。
そっか…Callahanはポピュラーなアイリッシュネームらしいので、アメリカの観客はこの苗字を聞けばサムくんの出自が分かるんだ。日本の観客が耳にしただけでなんとなくアングロサクソンではないなと感じられるようにPilichowskiにしたのかな。

ちなみにヘクターはドミニカ出身という設定。NYにおけるその感じを日本の観客に感じさせるために、成河さんは中国人ぽい芝居にしてた。

へぇ、サムくん『ピピン』のツアー公演に出てたの?
役に足りてない…lack of entitlement

ほぉ、一緒に住んでたMikeが最近出てっちゃったから家賃払うのも大変なんだって。
お兄ちゃん(a real straight arrowという設定になってる)、お母さんが亡くなって最初のクリスマスなんだからみんなで帰らなきゃダメだろって…マギー(妹かな?)だってロンドンから来るんだぜって…サムくんの今の仕事の状況についてもなかなかキツいこと言うなぁ…
そっか、hold on…hold on…の連続な毎日か。
サムくん何だかんだ小器用にこなせちゃう(成河さんの動きだから電話さばきとか華麗に見える時さえある)んだけど、大切なことがhold on…な状態になってる。そんなんでいいのか?って…

ネッド・フィンリーはCorporate Doucheと書いてあるけど"ウザい感じのビジネスマン"てとこかな?台詞から見て、なんか自己啓発セミナーとかめっちゃ行ってそうな意識高い系みたいな?
で、サムくんも最悪に弱ってる時だからペースに乗せられて結構ここで吐き出しちゃって人生相談みたいになっちゃってる。(先週ボーイフレンドが出てっちゃったとも言ってる!)
電話を切った後に気づいて動揺して、ネッドの予約を受けてしまったとヘクターに言っちゃってるけど、これは観客に理解してもらうための台詞だと思うけど、サムくん一人で揉み消しちゃうという日本版の方が断然いいと思う。後でボブにこの件をなすりつけるにしても。(なすりつける台詞が戯曲にはある)

Mr.デコステからの2度目の電話で初めて封筒が出てくるけど、これも2幕冒頭で一度見せておくあの演出はとてもナイスだよね〜。クリスマスツリーとサンタを光らせるのも!(戯曲には一切指定ナシ)

演出の妙と言えば、サムくんが業務の中のちっちゃい達成感に満足する様子を演技で見せてくれたり、ビクトリー💪🏼✨モードになった時の音楽とテンション上がってダーツやるのもいいよな〜と、改めて。
そうやって自らを鼓舞しながら日々を生き抜いてますよね、私たち。

シェフの「スズキ」は、戯曲ではあん肝!

ラストまたいろんな電話が掛かってくるけどその全てにBob will be right with you.と言って自分はもう関わるのをやめ、ジャンクロードには250ドル(295ドルじゃないのね)を条件に「今そっちへ行くよ」とは言うんだけど…
荷物をまとめながらThe Lady Is a Trampを歌い、階段の上方を見上げ、そして駆け上がって捌けて行くサムくんは、ここでのすべてを捨て去って「そっちへ」…上のステップの世界へ行くんだなという感じがするね。
What are you waiting for?
I’ll be right there.

封筒のお金をどうするかについてのト書きは無い。
金で動いたりコネがものを言ったり、選ばざるを得ないものばかりを選ばされhold on…の連続で本当に好きなこと大切なことに力を注ぐことが出来ない、そんな現状すべてにNo!を言って違う世界へ行く…
そんなラストに確かに見える。

今回の再演ではそうではなくて、
「いいから上がって来いよ!」
「いま行きまーす♪」
という遣り取りの後、サムくんはお盆を鏡にして髪を整えながら歌を口ずさみ、胸に薔薇を挿し、サンタに1ドル置いて出て行く。
ここの芝居がホント大好き!終幕の歌がサムくんなことまで併せて、今からベッチーニさんのテーブルへ歌いに行くことが分かるもんね。サムくんきっとこれから上手くやっていくんだろうな☺️って思うもんね。
晴れやかで、だけど切なく、ほろ苦くて…
やっぱりこれが素敵な後味になったもんね🌹♫

全体通して、人名や固有名詞を変えるなど日本の観客向けにするための工夫がたくさん必要だったことが伺えますね。
以下羅列。
- 冒頭に(後から出てくる)クウェートの富豪やワタナベさんを挿入して日本のお客さんが理解しやすい・笑えるようにしてくれて、尺の都合でミッドウェスタン秘書はカットしたのかな?
- イノウエさんも戯曲にはなかった(最後にオマケみたいに出てくるのはスペイン語で話すSofia Vergara…女優さんだ)。日本人の名前はヤマグチだけよね。3つも出てくるのは多いなー(ちょっと散るなー)と思ってたんだ。
- ネコちゃんはナイス味付け!ニャー!
- キャロランが芸能関係のVIPを連れて行こうとしてることは戯曲前半で言及されていた。これは敢えて出さずに終盤まで取っておいて正解かも。
- 元は男性用トイレなのになぜわざわざ婦人用トイレにしたんだろ?より理不尽な感じにするため?
- 戯曲では私用電話はちゃんと携帯に掛かってくるようになってるけどこれも変えてる。なんで予約電話を保留中に私用の携帯に出るの?と思わせないためかな。予約電話だと思って取ったらお父さんかよ!っていう方が面白いしね。
- 細かいことだけど、同郷のラッパポートさんに発声のアドバイスをするのは戯曲どおり身元を知ってからの方が自然かもなぁ。劇ではザガット(戯曲ではHeston Blumenthal…有名なスターシェフなのね。サムくんの上司のシェフは彼のことをhe was my fucking mentorと言ってる)の予約を受けたのがボブだと判明してテンション上がってる勢いでサムくんの親切心が全開になってるふうに見えて、それも良いけど。

などなど。

とっっっても楽しかった観劇の余韻をまだまだ味わってる♪
こんなご時世だけど、サンタはロックダウン対象外だってね!笑
メリークリスマス!✨🎄🎅💵✨


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