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『Defiled-ディファイルド-』 戯曲を読んでみた


※ 個人の感想・解釈です。妄想も含まれます。
※ ネタバレ全開です。
※ 2020年『Defiled-ディファイルド-』リーディング公演でこの物語に初めて触れた後に原文戯曲を読みました。
※ 訳は主に雰囲気的な意訳なので正確ではないかもしれません。リーディング公演の台詞とも違っていると思います。
※ 因みに私が観たのは 7/26章平×千葉、7/31成河×中村、8/9成河×千葉 です。


DEFILED
or
The Convenience of a Short-Haired Dog 

これがタイトル。
副題がこれなんだ🐶 面白い。

冒頭、ハリーはセットした起爆装置を確かめたり、リモコン操作の予行練習みたいな動作をしているらしい。あぁ…電気工作とか得意そうじゃないし、手先が器用そうでもないよなぁこの子(ってアラフォーだけどね)。リモコンを床に落としてアワアワしたり(笑)。

電話が鳴るのがうるさくて発した第一声が
Oh for God’s sake…
なのがいきなり印象に残る。

外した電話のフックを「戻してくれ」と外から拡声器で言われてちょっと迷ったり(結局言うこと聞いてあげちゃうし)、肝が据わった様子にはとても見えない。
電話を受けてまずHelloって言うのも律儀というかなんと言うかかわいい。
交渉はしないぞ!(警察の手口はドラマで視たことあるから知ってるよとか言うのもかわいい)と言って切ったけどまた掛かってきたのを取っちゃうし。それが全然関係ないセールス電話だし(笑)。

このかわいい感じ、ブライアンには伝わっちゃったんだろうな。だから堂々と正面ドアを開けてきた。鍵掛かってなかったしさ(笑)。
このブライアン登場、アメリカの観客なら爆笑シーンなのかも?

ここから暫く戸口に立ったままのブライアンと部屋の中のハリーの会話。
俺の仕事は図書館じゃなく人の命を助けることだ、だから俺が図書館に親しんでる人間ではなくたっていい、という論理で近付こうとするブライアン。人命なら一昨日救ってる。
え?すげっ!っていう反応しちゃうハリーかわいい。うわっドラマみたい!とか思ったかな(笑)。

ブライアンが一昨日助けたアーティストの話からヒトラーのことを持ち出す…ハリーくんこの後もたびたび本で読んだ知識とかちょっとアカデミックな語彙とかを持ち出してくる。ここではSo shortsighted!!!!ということを糾弾したいためにこの例を挙げたのだけど。
あと、自殺志願者を思い留まらせる方法についてハリーは一家言持ってる。suicidalの姉貴を僕はいつもこう言って止めるんだ、と。そういう人たちには「現実を分からせてやることが必要なんだ」って。
えぇぇ!ちょっとハリーくん!😭
ここ、朗読では省かれていたので衝撃でした。
お姉さんってそういう人だったんだ…

今ブライアンがしたいのは、交渉の糸口を見つけるため、ハリーがどういう了見でこの行為に及んでいるのかを探り出すことだから、会話しながらも話題はしっかりリードしてる。
ちゃんと説明してくれないで爆破しちゃったら、よくいるキ◯ガイたちと同じだと思われちゃうよ、って。
で、まず「図書館を救いたい」と聞き出した。そこでI wanna find a way to help you out.と寄り添う。Find a way out of this messって。(寄り添っているようで実はこれ誘導だと思うけど)
わかってる、交渉しようというわけじゃないよ!最初からハリーは交渉はしない!と繰り返してるから、とにかく逆らわない作戦。
君の要望を詳しく聞かせてもらって、それを叶えるために手伝いたいと。それが俺の仕事で、それを済ませたら俺も家に帰れるんだ、と。
味方になれる人間だと思わせようとするのね。
で、まんまと部屋に入ってくる。

ハリーが愛しているらしい立派な図書館の建築を褒める。
ストッカーフィールドの名前でハリーが不機嫌になったことをチェックしつつ、俺は彼サイドじゃなく君サイドの人間だと、距離を縮めようとする。ストッカーフィールドのことを悪く言う方針もここで決めたね。君の話が聴きたい、コーヒーでもどう?と。妻の話題も出してプライベート感を。世間話として最近のコーヒーはさぁ…という話題をちょっとだけ。
で、またひとしきり素晴らしい図書館の話をハリーにさせてから、で?君の要求は?と切り出す。

ここで初めてカードファイルにフォーカス。
これをコンピュータに換えることがハリーにとっての問題。
でもカード維持の要求が通らないので図書館ごと爆破するし自分も死ぬなんて到底理解できないから、もっと深い動機があるのだろうとブライアンは思っている。探らなきゃ。だからまずはじっくり話そう、と。

You would leave here for another emergency?とか聞いちゃうハリーかわいい。ジョークだと思ってるんだろとか、キ◯ガイだと思ってるでしょとか、僕の考えを正しく理解してもらいたいな…この刑事さんならもしかして話になるかも…という気持ちがだんだん漏れてきてる。

聡明な君にはきっとちゃんとした理由がある筈だ…と、何とか共感して見せようとするブライアンに、ハリー「交渉しようとしてる!」
「いやそうじゃないよ。なぜカードがそんなに重要なのか教えてくれたら君の手伝いができると思うんだ」
で笑っちゃうハリー。だから何にも解ってないじゃん。何が可笑しいかきっと解らないだろうから言わないよ。
でも君は理解してくれる人に話をしたいんだろ?ストッカーフィールドがいいのかな?いやダメだろ?俺は君の話を理解するのが仕事だし、俺自身もたぶんそれに向いてるよ。うちのかみさんはdifferent person every dayという感じの人だけど、俺はかみさんとうまくやってるんだから。かみさんと君は似てるよ。
興味を示すハリー。
よし、もそっと距離を詰める作戦…プライベートの話。
ハリーもブライアンの人となりを探り始めてる。ゲイにあまり肯定的ではないことを見てとる。
ここでハリーが語るお姉ちゃんのこと…she just sucks you into her lifeって…彼自身が経験してきたことだと思うと胸が痛む。

ストッカーフィールドとも違う、部長とも違う、俺は君を理解するためにここで君と話してる。その様子に好意を持ち始めたハリー。コーヒーもらう。砂糖の話で更に好感。奥さんにも好感。
ブライアンの趣味は釣り。いいね。
メリンダの話…別れた後も彼女はクリスマスカードを送ってきていたようだ。去年のカードを開けて見たら印刷だったからゲンナリしたって。
一匹狼の話。

あの手この手で近付こうとしてもやはりハリーの要求への理解には至らないので、思わずブライアンが失言。
「こんなもののために」「!」「ごめん」「いいんだよ」…やっぱりそうだよな…と内心ではがっかりするハリー。
カードの重要性が解ったら、今ぼくがやってることに賛同する筈だよ。

よし試してみよう。って説得を始めたのか?
目録カードが如何に素晴らしいかを述べる。
そしてここ以降、ブライアンもハリーに気を遣うのではなく納得できないとか俺はそうは思わないけどなっていうのを割とハッキリ表すようになっていく。
本・図書館・目録カードの歴史を語るハリー。目をキラキラさせてたね。人類の叡智の蓄積であるこの管理検索システムは完璧なんだ。

いや、でも件数が…というブライアンの指摘からpracticalの話へ。
金物屋だったハリーのお父さん。(hardwareという語からは今やまずコンピュータを思い付くというのも面白いポイントじゃない?) ハリーはお父さんの店に並ぶ道具類を「昔から変わらぬ機能と形で受け継がれ残っているもの」として見るのが好きだったけど、convenient dogの一件以来、道具類=practicalの象徴=お父さん、として嫌悪の対象になっちゃったんだな。
ここらへんの話も懐疑的に聴いてるブライアンに、またハリーはFine. いいよ、どうせ分からないだろ。と言う。分かって欲しいから喋ってるくせに。

想像だけど、きっと店を継ぐのは絶対嫌だって言ったんだろうなハリー…
で、今は狭いアパートで無理矢理コリー飼ってんのか…
そんなハリーと対照的に、若い頃欲しかったスポーツカーなんてもう欲しくはなくなったと言うブライアン。オトナ的practicalに哀愁も漂う。
スポーツカーなんかより引退したらアイルランドのリフィー川で釣りをしたいという話、そんな平穏を無事に手に入れたいという話は、自身の哀愁から出てきてはいるけど「君は行きたいとこないの?」って次の作戦にちゃんと繋げてる。さすがベテラン交渉人。
「それなら助けになれるよ」
You’re negotiating.
Yes. Yes, I am. but don’t take offense.ってほらね、もうぶっちゃけてる。「そんなつまらないこと」と口走っちゃって以降、取り繕うことはもうやめてる。俺の言うことには理があるぞ、と説得を始める。
Harry, you can’t stop it. It’s progress. なんて諭そうとしたり。

ハリーの「古くから受け継がれてきてるものを途絶えさせるというのは決して取り返しのつかないことだ」という主張も明らかになった。新しいものを作っても、歴史の重みには絶対に敵わないという主張か。あるいはお粗末な紛い物になってしまったりすると。
その主張…コンピュータ検索が如何に当てにならないかを、"A Modest Proposal"という本を例として実証してみせる。ブライアンの疑問や反論も聞きながら、ハリー鮮やかなお手並み。(カッコイイ見せ場だったのに、朗読ではカットされてて残念だったね笑)
で、それは結局カードの内容を技術的にデータベース化できない(コンピュータが劣っている)ということではなく、そんな情報は必要ないと思われている(時代がそれを求めてない)とか、データベース化の作業に当たる人たちが本の知識を持たない単なる打ち込み屋だとかっていう問題で。
ここで、最近のDIYストア店員と違って金物屋のお父さんはちゃんと導いてくれる店主だったという評価で語られているのには、へぇハリーお父さんのこと尊敬してる部分もあったんだね…と思った。

話しながらハリーはちょいちょい手の中のリモコンをデスクに置いたりまた持ったり、多分これハラハラポイントなんだけど、話の流れでもぉコンピュータ全然ダメじゃん!ってなってきて、We are undereducated and over entertained. This is progress? This is insanity!って昂っちゃって、とうとうリモコンを向けるのね。
それに対して、ちょ待て待ておかしいだろ!って感じかな…なぜハリーの思いが図書館爆破へ繋がるのかブライアンはまだ納得いってない。
俺と俺の家族だって巻き込まれてるんだから関係ないとは言わせねぇぞ。
僕だって何故あんたがこんな仕事するのか解らないよ。
俺だって君みたいなことはしない。
ふたりの「違い」がクローズアップされる。育った環境のことも。
ブライアンの現実。煙草を吸うことに対して、ブライアンがハリーにFine. It’s okay. 別に分かってくれなくていいよみたいに言ったりもする。
煙草の箱を脇にやって、子どものケンカみたいな調子で「おい君もそれ脇にやれよ」「Sure」って素直にリモコンを手放しちゃうハリー(笑)。そして催眠術の話を始める(笑)。この辺りとても軽妙で笑える感じね。

いい感じで2人が打ち解けたところで部長から無線。邪魔しないでくれよ。
ハリーOf course. He has his priorities. なんて言っちゃって。
部長についての愚痴。なんも考えてない。以前の事件でも酷かった。
そこからhard or easyの話に。
easyとは…を語ってる時、完全にハリーに対して君はそれだよって言ってたと思う。
でも、僕は泥沼から出たがってる人じゃないよ。僕は出たくない。だから僕はeasyではない。でもhard=maniacと言うのならそれも違う。なぜなら僕の動機はworthy causeだから。刑事さんには分からないだろうけど。
いや、worthy causeらしいってことは分かるぞ。
I’m being…difficult. Am I difficult? ああこれが「こんなこと言われても困っちゃうよね…ねぇ僕って困る?」か。かわいい。
僕はなぜhardなんだろう?キ◯ガイじゃないのに。なぜ分かってもらえないんだろうって切実に尋ねてるっぽい。
You live in your head. I don’t live in your head, so I don’t know what’s going on there.

もう話題を変えたいブライアン。君の要望は?って聞いたら「トラックをどかしてストッカーフィールドに誓約書を取ってくれたらあんたは家に帰れるよ」って、当初より噛み砕いて示してくれたハリーはブライアンに同情してくれてるよね。
それならできる!早速!って出て行こうとするブライアンに…
でもな…書面だけじゃ怪しいから、僕が話すからストッカーフィールドを連れてきてよ、なんて言うのね。ちょっと驚き。説得できると思ったのかな。ストッカーフィールドが持ってる司書のイメージはwimpy intellectuals.
イメージが悪いんだ…ホロコーストの時ユダヤ人がそういう言われ方しただろ…とハリーが口走ったのに対し、聞き捨てならないという感じでブライアンは踵を返して戻って来る。
half Jewish half atheist の話。
「息子として」のくだり。
日頃シナゴーグへ行くかどうかでユダヤ教徒かどうかが決まる訳じゃないよって…ハリーは神を信じる気持ちは持っていたけど、現実世界の諸々を見てたらその存在を疑わしく思ってしまう。まさにhalf Jewish half atheistだった。
お母さんに会いたくてシナゴーグへ行く…
シナゴーグの建物とお母さんが一体化してるって、図書館とハリーが一体化してるのと一緒だね。

深い話をしてると部長からの無線がそれを途切れさせる。メリンダ登場!ちゃんと台詞が書かれていて声だけ出演することになっています。(あ、部長も同じくです)
なんとハリー、無線に出てメリンダと言葉を交わすんだよ。
メリンダはあまり理性的・知性的ではなく、ハリーとの会話はおそらくコミカルな感じに表現されるんじゃないかな。
ハリーはメリンダを愛してたから論文を手伝ってあげた。メリンダは手伝ってくれるハリーを愛した…嗚呼。
しかも専攻と関係なく旅行会社なんかに勤めてるんだって。ブライアンが刑事になったことも不思議に思ったくらい、ハリーの中では「なりたいものになる」首尾一貫してるのが当たり前だから、そういうのって許せなくて…しかも会話の最後に「旅行の予定ができた時は電話ちょうだいね」とか言うし。
泣いちゃったねハリー。
もぉ!クソ部長!

ハリーが弱ってる今、今だブライアン!と観客に思わせろとト書きにある。そうね、初演ではブライアン役の人が主演だったようだし (追記:うわぁよく調べたら『刑事コロンボ』のピーター・フォークだったんですね。そう言われるとブライアンのキャラ設定は明らかにコロンボに寄せられていますね笑)(追記2:ピーター・フォーク自身はユダヤ系だそうです。先程のシーンに作用する要素かもしれません)、観客は主にブライアン目線で観ることが想定された戯曲なのかな。
でもギリギリ手を出さないブライアン。
なんか、この子を理解しないまま丸め込んだり強硬手段で取り押さえたりするのは嫌だなって思ったのかな。遺恨を残すべきじゃないというのはきっと自分への言い訳。ほんとは職務を超えたところで、この子ともうちょっと関わってみるべきだという心の声が聴こえてるんじゃない?
ちょっとモジモジした後、It’s not like I don’t entirely understand you.と言って、奥さんが曽祖母から代々受け継いでいるcookbookは確かにhistoryだと思うという話をする。つまり目録カードが唯一無二のものだってこと分かるような気もするんだよと言ってるんだな。あと、ブライアンは妻のことをもっとちゃんと知らなきゃなという気持ちと、ハリーを理解したいという気持ちを重ねてもいるかも。奥さんだけでなく、疎遠らしい息子のことも思ってるかもね。
ふたりでしんみりとコーヒーを飲む。recovery cupが必要な境遇は、ふたりとも其々に持ってるよね。共感の空気。
でも、ハリーがI love Italians. と言ったのに対してブライアンがI love one of them.と言ったのは、頭の中の世界に生きてるハリーと目の前の実際を持つブライアン…やっぱり異なるふたり…を表してると思うんだよな。ブライアンはハリーに部分的には賛同する点もあるが全面賛同ではない。

ハリーはブライアンに縋り始める。図書館と本がいずれはすべて死んでしまうんだ…目録カードの廃止を発端として、the slow deathが既に始まってる。世界は均質になって、リフィー川で釣りをしたりイタリアのマーケットでカップを買ったりなんていうことの全てが無くなっちゃう。そんな世界で生きていたい?孫の世代にもそれを残してあげたくない?
それにはブライアンも同意してる。何とかできたらいいなぁと。
でもね、We can solve this problem instantly if you tell (中略)that I’m right. って…
え〜そんな簡単じゃないでしょハリー…
そんな局地的なことで、さっき君が言ってたみたいな大きな流れは食い止められないだろうよ…
でも君にはそれが全てなんだなハリー…
それ視野狭窄なキ◯ガイの域に入っちゃってるよ…
ブライアンはハッキリ言うよ。It’s not my job to agree with you.
君に賛同してfilesを守ることなんかで歴史は変えられない。武器を手にしてその力を持った気になるなんて間違ってるぞハリー!
あゝとてもオトナの視点。
ハリーはもうブライアンのことを、きっと僕と同じように均質的でない世界が好きで、僕の考えを理解して同じ側に立ってくれる人に違いないと期待し、すがり、説得する。

急にMr. Mendelson呼びして親密度を断ち切るブライアン。いろんな修羅場を見てきてる刑事だ。甘っちょろい考えの奴は嫌いなんだ。
ハリーがユダヤ人のことを言った時やダイナマイトを持って権威を得たなんて言った時のたしなめ方にはブライアンの芯が見える気がする。本当にすごく、人の命の重さ尊さを身に沁みて大切に思ってる人なんだと思う。目の前で人が死ぬのをたくさん見てきてるんだよね。
My job is not to change history!!!!
俺の仕事は君の命と図書館の命を救うことだ!
This library is doomed! もう図書館は死んじゃうんだよ!建物だけあっても意味がないんだ…食い止めるため味方になってよ…。(泣いてたよね成河ハリー…)
Okay. って応えながら、ブライアンにはもうハリーに寄り添うつもりはない。歴史を変えるなんて、大それたことを考えやがって。俺はそんな器じゃない。それを哀しくも思った。そうね、ブライアンは「歴史」に対して神の御心みたいな、畏怖みたいなものを抱いているかも…それこそcontrolできないものだし。
ちょっと冷静さを欠いて、外へ出て行く。
「ねぇ今すぐ引退しちゃって僕の味方になって僕と奥さんと3人でイタリア行こうよ。奥さんにお会いしたいよ」なんてハリーが言うのを背に受けながら。

ひとり取り残されたハリーは、なんとお姉ちゃんに電話するのだ!さよならを言うために。もう死ぬ気なんだわ。
でも姉ちゃん相変わらず自分勝手で全然話にならない。惨め…
…だけどさ、姉ちゃんの前でのみハリーは現実的で、suicidalを阻止する立場なんだよね。ハリーにとっては本当に人生の重荷で可哀想ではあるんだけど、もしかしてハリーを図書館から連れ出すのにいちばん有効なのはお姉ちゃんをここへ連れて来て「あんた何してんの!」って言わせることだったんじゃないだろうか。捨てることができないから重荷なんだもの。お姉ちゃんを前にしたらハリーは人生から降りられなくなる。まぁ可哀想だけどね…

ブライアンはあれから、自分に出来ることに最大限力を尽くすことを考えた。ハリーの命だけは救ってやろうと思った。
戻って来てハリーに、航空券を手配してやるから外へ出ろと言う。This is the deal. もう取り繕っても仕方ない。俺たちは合意できない。だから取引だ。カード廃止を食い止めるのは無理だ。つまり君の言う図書館の命を救うのは無理だ。でも君の命だけは救わせろ。人が1人死んだって世界に何の影響も与えないということ、ブライアンは実感として知ってるんだよね…。何が何でも応じてもらうぞ。だからゴメンな、銃も持ってきた。
ハリー悲しかったね…分かってくれると思ったのに…
賛同する部分もあった。でも君の命を投げ出すのは間違ってる。ここは譲れない。言うことを聞け。
撃てよ。
なぁハリーお願いだから。俺には大切な日常があるんだ。
それでも意志が変わらず跪くハリーを見て呆気に取られた隙に…
ハリーが銃を奪った!!(え?ブライアン1杯飲んじゃってたの?)
がっかりだよ。
ブライアンは自分に対してあまりにガッカリしてキレ気味。君のガッカリなんて俺のガッカリに敵うもんか!守るべきものはカードじゃない。real lifeだ。ブライアンの価値観では、離婚を許す風潮の方が食い止めるべき。結婚して子供を持ちその家庭を維持する「真っ当な人生」こそ守られるべきものだ。
正に、時流に逆らうこと言ってる。
progressに逆らってるいう点ではハリーと同じ。でも価値を置く点・守りたいものは異なる。
ハリーは、ブライアンに自分の要求が受け入れられないことを理解した。再度、自分の主張をする…僕は図書館が蹂躙されるのを見たくないんだ。

ここで一騒動あるのよ!
爆破するから出て行ってくれ(ハリーもブライアンを傷つけたくはない)と言ってもブライアンが聞いてくれないから
やるぞ!I swear to God!
やってみろよ!(ブライアンも捨て身じゃん)
で、リモコンのボタンを押すけど…利かない!
もぉ!ってブライアンに銃を向けるハリー。

この緊迫した流れから奥さんに電話かよ(笑)。
奥さんには会ってみたい話してみたい気持ちが膨らんでたからなぁハリー。
It’s up to us to hold onto these things.ってすっかり奥さんに対しては仲間気分。

このシーンもそうだし、戯曲全体を通して所々に緩和・笑いをまぶしてくる感じ。これを翻訳上演で出すのは難しいと思うけど、私が観たペアは皆さんちゃんと観せてくれましたね。さすが。

でもやるよ!もう終わりにしたいんだ。
ってまたシリアス展開に戻る。
リモコン利かなくても起爆はできるんだ。
ブライアンは出て行く素振りでサーモスを取りに帰ったりカップを探したり時間稼ぎ…
そして最後の足掻きの提案。よっベテラン交渉人!
でもね、もうこれホントに最後の悪足掻きで…
実は新しい視点でも何でもないし、今まで散々話してハリーが譲歩できないと言ってるポイントをクリアできてる訳でもない。
ただ勢い。もうトボけたフリして畳み掛けるように、ノリでどうにかできないかという最終手段。話の中に奥さんも登場させてハリーの心情にも働きかけて。ド・ゴールの訳わかんない例えとか、You’re Irish. And your garage is England.とか、電話しといた方がいいんじゃない?とか、また笑いポイントも。

大丈夫だ!信用しろ!約束する!と風呂敷を広げたブライアン。
そしてね…とうとうハリーは銃を置いてブライアンと握手して、そして…胸に抱きついて泣くんだよ。
It’s gonna be all right kid. It’s gonna be fine. You did the right thing. ってブライアンは言ってあげる。お父さんみたい。

でもハリーは既にここで死ぬことを心に決めてたよ。握手して抱きついたのは最期のお別れのつもりだった。
ブライアンはこの時交渉成立だ、気持ちが通じた!と思ってたけど。観客も多分そう思わせられるけど。
ブライアンの最後の足掻きも、足掻きだなぁと思いながらハリーは聴いてた。ブライアンがこんなに一所懸命になってくれるのは嬉しかったし、この人の意に添えないことは残念だったけど。最期にこの人と奥さんに出会えて良かったななんて思って。よくやったぞって抱き締めてもらえて、この生涯の餞だ…ありがとう。この本持ってて。僕のこと覚えてて。
あとはこの人を無事にここから出して帰すだけ。

ブライアンを外へ出すと、ハリーは鍵をかけドライバーを持ってきてダイナマイトの配線をどうにかしようとする。でも電話には出ちゃうの。
ブライアンが大急ぎで掛けてきた電話。ごめんね刑事さん。せっかく捻り出してくれた最後の提案、最初から乗るつもりはなかったけど、なぜダメなのか一応言っとくよ。あなただって分かってたと思うけど。
妥協はできないんだ。
この電話の途中で狙撃されちゃうのね。

倒れて、ダイナマイトに近付けないハリー。リモコンを何度も押してみるけどやっぱり利かない。
Oh God. Please. Please, if there is a God, please. Please!
Shit. Shit. Shit. Shit. Fuck technology!!!
ここでもGodを連呼。そしてとうとう絶望して投げつけたリモコンが壁に当たって…
爆発!

ラストこんな状況になっていたとは、朗読劇では分からなかったね。
「クソッ…何がテクノロジーだ」と成河ハリーが嘲笑うように言ったのは、いざという時やっぱ役に立たねぇなーというテクノロジーへの嘲笑だったのかという発想を戯曲読んで初めて得た。これを知らなかった時は、あれは惨めな自分への笑いだと思ってたから…ちょっと救われたよ。

最後のト書きには何千枚もの目録カードが雪のように舞う、自らの終焉を彩るように…と書いてあるけどどういう演出するんだろう。
そして音楽は "The Vivaldi Gloria" と指定されている。「アヴェ・マリア」とはだいぶ印象が変わると思う。
Gloriaだと、ハリーが死して終に勝利を得た喜び、その栄光を讃える!という感じになるかな。殉教者が天に召されたイメージ。ハリーはキリスト教徒ではないんだけどね。
「アヴェ・マリア」は、残されたブライアン(私たち、でもある)の哀しみ…ハリーの霊魂をどうぞ救ってくださいと祈る気持ち。しかもこの「カッチーニのアヴェ・マリア」はその曲自体ちょっと紛い物であったりもするから意味深な余韻も残す。好き。

更に巻末にはAlternative Endingとしてハリーがブライアンと共に図書館から出て終幕、というバージョンが載っていてビックリ。どこかで上演されたことあるのかな?

ハリーとブライアンふたりの気持ちの距離が近づいたりまた離れたりする様子がスリリングな、とても面白いホン。いつか朗読ではなく上演されるのも観たいなぁ。


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