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演劇と、遠距離恋愛中。

会えない時間は愛を育てるのか。
自然消滅の可能性だって無くはないし。
なんか最近、以前よりマメに向こうから連絡くれる(配信とかw)ようになってる気がするけど。

いち舞台演劇ファンが、2月末から現在まで千々に心を乱しつつ考え巡らせたことの個人的な記録です。文中の作品名は私が観たもの・観る予定だったものです。

😷2/26・27

学校の休校と「イベント開催は控えてね」という政府の方針が出たことを受け、大きいところを中心に多くの公演が2週間程度の自粛を発表。
『ねじまき鳥クロニクル』東京公演打ち切り。
『カノン』全公演中止。
公共劇場だから仕方ないか。
"不要不急" のものとして劇場が槍玉にあげられてしまったな…という感覚だった。
クルーズ船など政府の初期対応が拙かったためにこんな事態になっちゃったという憤り。
ライブハウスからクラスターが発生したということも影響大だったのだろう。
そんな状況でも『天保十二年のシェイクスピア』での一生さんのご挨拶は決して恨み節ではなく、「想像力」に言及して私たちを励ましてくれた。これは今振り返っても神スピーチだったなぁと思う。
でもこの時にはまだ長期化すると思ってはいなかった。3/15ねじまき名古屋大千穐楽を取ってて良かった♡と思ってたんだもの。
コロナ自体に対しても、高齢者や持病のある人以外はそんなに怖れなくても大丈夫じゃん、という認識だったな。

😷2/28

ねじまき名古屋まで全て中止、『デスノート THE MUSICAL』も静岡終わったところで流れ解散。
あゝ3/20頃までは無理なのね…という雰囲気。
ねじまき終了は、今回私が実質的に受けた一番のショックだったかもしれない。喪失感。

😷3/9〜3/27

3/9、小劇場は開けている所も多かったが大手は軒並み自粛という中、宝塚と梅芸『アナスタシア』が公演を再開、しかし3/10政府による2度目の「大規模イベント自粛の要請」を受け3/12〜19は再び休演に。
こまつ座は遅らせていた『きらめく星座』初日を3/10に開け15まで走り切った。
この時期、主催側は「大規模イベントの自粛要請」をどう受け取りどう応じるか、あるいはもっと社会的責任というレベルで、みんな悩みつつ自らの判断で公演実施するか否かを決めていたし、観客も各々の考えで行動していた。
そして各所で、見解の違いによる分断が生じ始めていたように思う。
3/20には『ピサロ』『サンセット大通り』が幕を開けた。
『三月花形歌舞伎』は3/18時点で全公演中止を決めた。
開ける所は、サーモグラフィーや消毒液の設置・ロビー滞留やトイレ混雑緩和のための措置・こまめな換気・マスク着用や咳エチケットの呼び掛け・看護師常駐など出来得る限りの対策をとり、健康への懸念を理由としたキャンセル・払戻に応じもしていた。
私がこの時期に観た演目は、3/4『グロリア』、3/13『きらめく星座』、3/21『その鉄塔に男たちはいるという+』、3/25『ピサロ』。
映画館は普通にやっていたので3/9と19にはNTLを視に行ってる。
観たいものがあれば劇場へ行くのは私にとって大切な日常だったし、開けているところを応援したい気持ちもあった。"同調圧力" なんて言葉が頭に過ったりもしていた。
ねじまき名古屋や桜姫が観れなかった精神的埋合せをしたい衝動もあったり、払戻の分で買えるじゃん!てことでお財布事情もそれを許した。
うちには高齢者や小さい子どもはいないし、自分が感染することが怖いという気持ちは正直あまり無かった。
実際どこの劇場も、観劇を取りやめる人たちが多かったのか客席は空いていたから全然「密」ではなかったので、感染リスクに怯えながら客席に座っていたとかでは全くない。(3密というワードは3/18頃から登場したのね)

でもまぁ、劇場へ行くことを世間に対してあまり大っぴらには言えないなぁという気持ちはあったよ。感染拡大に加担し得る行動は本当は慎むべきなんだ(自分がキャリアーだと思って行動せねば)という意識にも段々なってきたし。
それこそ、劇場から感染者が出たなんてことになっては一大事だよな!という緊張感もあった。
そうね…2/28ねじまき終了のショックと天保からの勢いできらめくをポチった時点では、役者さんスタッフさんの無念も想い「演劇が奪われてしまう」という悲しみ・不満が強かったけど、数日後野田さんの発言を知った時には既に私の中にも「演劇への愛を叫んでも世間には受け入れられない」「これはマズイ言い方なのでは?」という認識があったし、3/13きらめく観劇時にはオデヲン座の面々のようにヌルッと飄々と演劇・観劇を続ければ良いんだよなぁと思うようになっていた。
でもこの頃はまだ、4月には大丈夫になるだろうと思ってたんだよね。3/17成河さん『VIOLET』出演決定のニュースは嬉しかったもんなぁ。

😷3/28〜4/7

3/24オリンピック延期決定を機に国や自治体が本格的に対策に乗り出した感。そして世論の潮目も変わった。
東京都は3/23に、4/12までの「大規模イベント自粛要請」を出した。3/25には更に「今が大事な時だからみんななるべく外出しないで」となり、まず手始めに(?)「週末の外出自粛要請」が出た。
どの劇場も一斉に閉めてるねっていうのはこの時が初めてだったんじゃないかな。映画館やデパートも休みになった。
そうか、主催者による公演自粛ではなく、劇場が自主休館しますということになったのはこれが初めてだったのかも。
サンセットは27で打ち切り。ピサロは3/23におそらく初日遅れた分の取戻しとして4月下旬の追加公演を発表したところだったが、28・29の週末休演の後、4/1には13までの休演を決定。
VIOLETは3/31に、初日延期(4/16)と5月初旬にまで掛かる振替公演設定を発表。
『反応工程』『桜の園』も初日を4/14に延期。
しかし感染拡大はおさまる様子もなく、生ぬるい対策ではダメだ!という世論にもなってきて…

🏠4/8

緊急事態宣言(5/6まで)によって劇場は休業要請の対象となり、前述の公演は全て中止に。
芸劇『スカーレット・プリンセス』も文学座『熱海殺人事件』も当然中止。
『ウエスト・サイド・ストーリー Season3』は4/13に開幕延期となっていたところを更に延期して5/20に。望みは残した。
そして『エリザベート』帝劇も中止…までは想定内だったけど…なんと同時にツアー公演(8月まで)も全て中止と発表。
5・6月帝劇『ミス・サイゴン』も、9月ツアーまで含めた全公演中止。
この2つには大規模ツアーだとか海外スタッフとか特別な事情があったのだが、いやもしかしてこれに限らず長期化するのかも…という予感にクラッと目眩が。

一方で、この頃の気持ちとしては、この未曾有の事態に何をすべきか・何を優先させねばならないかという政治的判断から劇場公演はしないでくださいねと言われることは至極当然、致し方なしと思っていたよね。
むしろ、いろんな意味でホッとした。
演劇は、医療や食品生産や物流や公共交通機関なんかとは違う。
そして、当初は恨む相手を間違えていたなぁと思った。観劇を一定期間我慢することくらいで文句を言ってる場合ではなかったのだと。
勿論、特にVIOLETの中止はとても悲しかったけど、この時にいろんなことを差し置いて「演劇が観たい!悔しい!」と叫ぶ気にはなれなかった。
たぶん3月からずっと、買い占め・犯人探し・自粛ポリス・他者への暴言などに(演劇絡みでもそれ以外でも)日常的に出くわしていて、利己主義・想像力の欠如・不寛容・分断・断絶が蔓延っていることに絶望的になったり、心は荒んでいた。
4/14  柿喰う客『夜盲症』
4/18『ある馬の物語』
4/23『ジョン王』勉強会 (以前から延期にはなっていた)
4/24  イキウメ『外の道』
次々と中止発表。ですよね。今、稽古できないんだもんね。
もはや驚かないし予測はついてたけど、思った以上にメンタルには来てたっぽい。
会いたいなぁと思った。

🏠ステイホームでの思索

演劇は不要不急のもの…
無意識のうちに肩身が狭いような気持ちになりストレスを感じていたんだろうか。
私にとって・社会にとっての演劇の意義を探し始める。
いや、これまでも私は度々その思索を繰り返してきているけれど、今回は未だかつて無い程に日々それを考えているかもしれない。

「#自粛と補償はセットだろ」のご時世、演劇人たちも窮状を訴えるが、それが世間の反発を買う様が浮き彫りになる。アマヤドリ広田さんが「温度差がエグい」ことに気づいたというツイートをしてくれて「そうそうそう!」と肯いたのは4/1のことだったんだな。
オリザさんの発言は4/27頃から炎上案件になっていたようだ。「は?何言ってんの?」という声、「余計なことを言ってくれるな」という演劇ファンの反応、それを見てショックを受けてるっぽい演劇人たち…
私が演劇の意義について考える中でオリザさんの言葉はそのトーンも含めて割と腑に落ちていたところだったので、この様子を目にしてまたとても苦しくなった。
分断。境界の越えられなさ。不寛容。
異なる価値観や異質のものと同居する技術の欠如。
そういうことに気づき考え挑み続けることを、私は演劇から教えてもらったのに。
「演劇(芸術)を届かせたい人のところに届かないジレンマ」というオリザさんの話にも納得しているんです。
"演劇界・演劇ファン" と "その外側" という分断はあってはならない。いやでも現状どうよ?既に「共感サークル」になってしまっていたから、今こんなことになってんじゃないの?それは何より演劇界・演劇ファンにとって不幸なことだよ!という考えに至ったのは、4/14オリザさんの文章を読んでのことだったんだ。

👛力になりたい

ステイホーム期間に入ってからずっとそんなことを考えていて、
更にこの時期多くの過去作品や俳優が企画作成した動画などの配信を楽しませてもらっていて、これらの殆どが無料であることにふとそれでいいのか?って思ったのね。いや確かに無料だから視てるというのもあるんだけど、長い目で見てどうなんだろう?とか。
「民衆の歌」動画なんてめちゃくちゃ集金力あるコンテンツだろうに投げ銭もできない。窓口がないからね。
そう言えばNTLやアンドリュー・ロイド・ウェバーの配信は明確にドネーションのお願いとセットになっているけど、そういうことをやってもいいんじゃないの?

と思っていたら、4/27ナタリーさんがクラファンや募金活動をまとめた記事を出してくれた。知らないうちに多くの活動が立ち上がっていて、それらはよく読むと性質も特徴も様々だった。私は演劇界を広く垣根なくカバーするものがいいなという観点で、早速吟味して2つのところに微力ながら寄付。少し以前から注目していたconSeptさんとこのはもうすぐ詳細が出るというから待ってた。

そう言えば、これら「客席から支えよう」という動き(裏を返せば「お客さんに助けを求めることしか思いつかない」とも言えるか…)と別に、稲盛財団がポーンと3億円出したという事例もあった。
以前成河さんが歌舞伎の一幕見を例に挙げて言ってたけど、所謂パトロンて言うか "粋な旦那衆" が居てくれるといいよねぇ。そういう層が居ない場合、大口では出せなくてもそれを好きな人たちで協力して支えましょうよという試みが、成河さんのカルチケだったんだけど。

で、4/28 みらい基金。
宋さんや板垣さんの言葉から、演劇と社会を繋ごうとしていることが読み取れて感銘を受けたし、継続的な公益基金である点にも賛同できたので即寄付。今の演劇業界への疑問から端を発してるようだし、勿論コロナ関連支援のためのクラファンではあるけれども、もっと先の未来のことを見据えてる。去年のカルチケイベントでの話と通ずるところがあって胸熱。
この基金には、いち演劇ファンである支援者としてしっかり参加していかねばと思っている。一緒に考えさせてください!という気持ち。

緊急事態宣言は、おおかたの予想通り5/31まで延長に。
5/7『ジョン王』『すこたん』
5/13 WSS全公演
先々の公演中止の報が続く。
うぅ…マジで長期戦だ。

配信は結構たくさん視てるし、Zoomを用いたリモート演劇というトレンドに注目もしている中で、
舞台作品の届け方として配信や映像化にもっと積極的に取り組んでいくべきではないだろうか、生観劇への入口にもなり得るし、いやでもやっぱり「絵を見る行為」と「人に会いに行く行為」の差は大きいでしょう、けど映像で伝わる演劇の魅力もある、そもそも演劇たる要素って何ですか?、「同時性」って結構なキーだよな…
こんなこともグルグルと考えてる。

5/14 緊急事態舞台芸術ネットワークという新しい動き。演劇業界大手のほとんどが名を連ね、緊急事態にのみ結成されるもののようだが、これだけ横断的に集まるのは初めてということで注目度も高い。
行政に対して補償を求めていくために手を組むのだろうが、同時に、今後劇場再開の時に業界内でスタンドプレーがないよう牽制し合う意味もあるのでは?という印象も受けている。

5/15『ビリー・エリオット』7・8月分、『ジャージー・ボーイズ』『アルキメデスの大戦』
中止発表は続く。
稽古のこともあるけど、劇場の休業要請解除には客席を減らす条件が付くだろうから、採算を考えたらスッカスカの客席で幕を開ける判断にはならないよなぁと思う。(上記の3つなんかは既に目一杯チケット販売してしまっているから今更座席の見直しはできないよね)
客席数を減らして開けるならその部分についての補償が必要で、緊急事態舞台芸術ネットワークはそれを考えているんだろうな。(5/27から申請受付が始まった経産省J-LODlive補助金はここら辺が意識された内容になったらしい)

5/21、既に(4/27)署名活動として発足していた#演劇は生きる力です(私はこれを大上段から来るなぁと感じて引いてしまったのだが)演劇緊急支援プロジェクトが、映画(ミニシアター)・音楽(クラブやライブハウス)と手を組み#WeNeedCultureを謳って「文化芸術復興基金」の設立を求める動きに出た。文化芸術振興議連に働き掛け、関係省庁に要望書を提出(5/22)。1千億円単位の話になるようなので、うぅ…やっぱ桁が違うよなぁと思わざるを得ない。(5/25 議連による要望は500億円だったようだが)
3業界とも、小さくて体力が無くて大変な部分を支えてほしいという感じで、業界大手とは行動を共にしていない。(演劇業界、例のネットワークとは連携しないのかな)
議連メンバー枝野氏の話によれば、どうも文科省(文化庁)マターと経産省マターがあるようで、そうかそれも訴え方として面倒くさいことになる一因か…と思ったりする。
記者会見も行われ、欧米の事情に詳しい諏訪監督がフランスでは映画のTVCMが禁じられているという例を挙げ「競争の原理で突き進んで行くのか見直してみようとするのか、今私たちの社会はその岐路にある」と言っていたのが印象に残った。

🌱再開の兆し

5/22 東京都が緊急事態宣言解除後のロードマップを発表。劇場は段階的緩和のステップ2だと。
5/25 緊急事態宣言解除。
東京都では翌26より休業要請の緩和。
5/29 休業要請解除は6/1からステップ2へ移行すると発表。つまり劇場を開けられる見込みが。
さて条件は?採算などを考えた実際のところ可能なのか?チケット代高騰するのか?
映画館は早速再開するようだが、劇場はすぐには無理よね。だってコンテンツが準備できてない。やっとこれから稽古が始められるというところなんだから。最初にお客さんを入れて幕を開けるのはどこだろう…?

緊急事態宣言下で生まれたZoom演劇は、果敢に取り組んでみた先駆者たちの間でその感触やノウハウが惜しみなく共有されているようだ。彼らの話を聴いていると、これは演劇と映像どちらの要素も併せ持った新ジャンルだね!という総括が為された感。
数々の団体が様々な試みをした。私は『未開の議場』『12人の優しい日本人を読む会』『門外不出モラトリアム』をみたけど面白かった。
この時期私たちの日常でもZoom=人と会うことだったから「これは演劇だ」と感じたのだ。
サイモン・マクバーニーの『The Encounter』配信でバイノーラルを体験したことも手伝い、
映像・配信の技術はすごく進歩している、今後もどんどん進化して、いずれ劇場と配信との体感の差は小さくなるのでは…という実感を得た。もはや両者の違いは、演者から観客の姿が見えるか否かだけになる?
配信が劇場公演に完全に取って代わることはないとは思うが、リモート・配信演劇あるいはそこに端を発した何かが、新ジャンルとして継続され定着していく可能性はあるような気がする。
そしてまた私は "劇場へ演劇を観に行く意味" を求めることになるのだけれど、とても素直な今の気持ち…「やっぱりリアルで会いたい」に帰結するのかな。

6/1 今夜、本多劇場再開。
一人芝居を無観客で配信。
これを "再開" と言ってよいのかどうかは疑問だけれど、まずは第一歩。

「遠距離恋愛」だと、柿喰う客の中屋敷さんがいつかのトークで言ってて、フフッと笑ってしまった。
愛を育てることになるのか。
自然消滅の可能性だって無くはないし。
なんか最近、以前よりマメに向こうから連絡くれる(配信とかw)ようになってる気がするけど。
次に会った時「あなた変わっちゃったわね」なんて思うことになるかもしれない。
あるいは「あなた相変わらずそんななのね(残念)」とか思ったり「君、変わったね」って言われちゃうかもしれない。

会えない時間はまだ続きそう。

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