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「広告」がなくなる日。

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※この記事は、2018年に書いたもので、書籍「広告がなくなる日」のきっかけになったものです。本に関してはこちらに書いているので、もしよかったらご覧ください!

「広告がなくなる日」特設サイト

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新卒で博報堂に入社し、広告の仕事をはじめてから九年が経ちましたが、近頃は「広告」がなくなる日のことをいつも夢想しています。

広告というのは、基本的に「コスト」です。プロダクトやサービスを生みだす本業の「生産」とは違います。とても残念なことに、社会のよりよい成長に広告が貢献することは、とても稀です。

テレビで目にするような15秒のCMを一本つくるのに、数千万円の制作費がかかります(たった15秒!)。メディア費用は数億単位で使われます。数が多すぎることもあり、ほとんどが誰の記憶にも残らず消えていきます。屍の山を乗り越えて話題になったとしても、一週間もすれば「あぁ、そんな動画もあったね。で、何の商品だっけ?」というのが関の山です。


LUSH マーケティング以上の意義

石鹸ブランドのLUSHの「マーケティング以上の意義」というステートメントがあります。広告に携わっているすべての人(クライアントや代理店の人)に一度読んでもらいたいメッセージですが、あまり知られてはいないようです。

ラッシュは、余分なパッケージ、広告、手の込んだマーケティングなどにお金をかけません。たくさんの在庫を保管する設備にお金をつぎ込み、規模の経済性で収益を高めようとすることもありません。 ラッシュのコスメは、エシカルバイイング(倫理的な買付)で調達した最上品質の原材料、そしてできる限りオーガニックの原材料のみを使って丹念に手作りされています。ですからラッシュのお客様は、こういった素晴らしい原材料にお金を払っていることになるのです。

この考えこそ、広告の理想形ではないかと思います。言い換えると、「広告」を「コスト」としてではなく、「生産」として活用し、それが結果「広告」として成功するという考え方です。

しかしそのような提案ができる広告マンはとても少なく、実行するのは骨の折れる作業であり、実現するのは困難に等しい偉業です。大差のない商品スペックをどう伝えるかという狭い視野の中で、よってたかって徹夜しながら誰も見ない広告を作っているのが現実です。

PATAGONIAやREDBULLのコミュニケーションも素晴らしいものが多くあります。PATAGONIAは、自然への貢献や社員の休暇や活動などを支援することに力をいれています。

REDBULLは古くからマイナースポーツや音楽へのSponserdを広告の基点にしています。2009年には162分野の500人近いスポーツ選手を支援しているそうです。


これからの広告について

この先、広告は変わらなくてはいけません。そのために、広告に携わる人々の思考を一度リセットしなければいけないように思います。まだまだ時間はかかりそうですが、これから「広告」というものは2つに分かれていくことになるだろうと考えています。

「広告は、プレゼントへ。」

その一つが「広告=プレゼント」という考え方です。 "Presented by" というのを見かけると思いますが、まさにあれです。メッセージの押し付けではなく、生活者が求めるものに、広告側が歩み寄るような、REDBULLがマイナースポーツアスリートを支援しているようなスキームです。

スポーツでも映画でも小説でもアニメでも音楽でも。そういった、人々の拠り所となる文化コミュニティに企業が参加させてもらい、支援をすることで、ファンとのつながりをつくっていく努力です。広告がそういった「文化へ貢献=生活者へのプレゼント」になれば、社会がよりよいものになっていくはずです。

この点に関して「さとなお」さんが最近出版された「ファンベース」がとても勉強になります。

一過性の「キャンペーン」ではなく、長期的にユーザーと向き合うことに「投資」していくべきなのだと、何度も提唱されています。

広告は、プロダクトへ。

とにかく、自社のプロダクトやサービスをよくしていくために広告費を活用していくことです。味を少しでも美味しくできないか。サービスのUIを少しでも改善できないか。使っている成分を少しでも社会によいものに変えられないか。空間を少しでも居心地の良いものにできないか。

企業の本業とは「生活者の課題解決」であり「笑顔を作ること」なのだ。
そういう意味において商品が長く安定して売れ続けることは、企業ができる「最大の社会貢献」なのである。(ファンベース 佐藤尚之)

本業を少しでも改善していくこと。それこそが、企業がすべき投資なのだと思います。例えば、「採用広告」のために、数百万円を外部に支払うくらいであれば、社員の給料を1円でもあげたり、よりオリジナリティのある福利厚生を考えることに試行錯誤すべきです。


「広告がなくなる日」に、広告マン(広告クリエイター)が不要になるのか?といえば、全くそうではないと考えています。広告クリエイターはとても特殊な能力を持っています。課題解決とコミュニケーションを両立するアイデアを生み出し、形にするデザインの技術です。

彼・彼女たちの才能や技術や情熱を駆使して、日本で使われていると言われている「年間6兆円の広告費」が、「プレゼント」か「プロダクト」に使われるようになり、広告業界がよりよい社会づくりに貢献できる日を夢見ています。

僕も仕事を通じて、一つずつ実現していこうと、全力で努力していきます。


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※この記事は、2018年に書いたもので、書籍「広告がなくなる日」のきっかけになったものです。本に関してはこちらに書いているので、もしよかったらご覧ください!

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