好「反戦」映画『小さいおうち』レビュー

☆原作は直木賞☆2014年1月公開作

 タキの甥の息子。戦前は暗黒時代だったとの「知識」をタテに「おばあちゃん、嘘書いちゃダメだよ」と再三言う(当時の会社員中流家庭における「女中」も彼には理解の外)。

  「小さいおうち」の「女中」だったタキが自叙伝に綴っていたのは「本当」のことである。市井の人々の暮らしには戦前にだって喜び楽しみがあったと。
  だが最後に「嘘」を書く。正治の方から「おうち」に会いに来てほしい旨、手紙を書くよう「おくさま」に進言。その手紙を彼に届けなかったことを自叙伝でも伏せた。
  正治の出征前日だからこそ、「おくさま」が浮気を重ねていた彼の下宿に行かせるべきか行かせぬべきかの二択で悩んだ末に勧めた手紙だった、と綴る。
 はたしてどこからが「嘘」なのか。 タキ自身にとっての憧れの人との逢瀬の妨害の含みも? あるいはそれが最大の目的だった、がゆえに届けなかったか。そして憧れの人は正治なのか「おくさま」なのか。「嘘」に生涯苦しんだタキは、独身を通した。「本当」の気持ちは自分でもわからないのかもしれない。
  人々の哀歓。戦争という「変数」(為政者にとっては「定数」か)に曝されて「哀」ばかりがどんどん増えていく。取り返しがつかないほどに。「変数」が強大なだけに人間の奥深さ複雑さが一層浮き彫りにもなる。
  そうしたさまが見事に描かれている。そうであった原作に忠実に。出演者たちの好演もあり、映画表現ならではの味わいも加えて。
  「おうち」の日々に戦争の罪深さが静かに表れているので、最終盤の米倉斉加年の反戦セリフはない方がよかったように思う。
  原作ではこのセリフは目立たない。声高に反戦を訴えるのではない全体と調和して収まっている。印象強い米倉の渋さゆえか、セリフそのものは感動的であるにせよ(だからこそ)かえって既視的な「反戦映画」色が濃くなってしまったのではないか。