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「オンライン英会話」が英語力を上げる、言語学的な根拠とは?

なぜ「オンライン英会話」が学習者の英語力に画期的な変化をもたらす可能性があるのでしょうか?今回は、「たくさん話す」ことの効果を言語学から考えます。


まず、言語学は絶対正しいと全員が合意する理論がほとんどない学問だと知っておいてください。言葉の習得の過程は脳を解剖してもわからないし、言語の習得の過程は複雑すぎて、実験や検証をしても世界の人全てにあてはまると専門家全員が納得するような証明はできないからです。


有名で広く知られた理論でも、反対の立場の理論もあるし、批判的な学者もいます。私がこれから紹介するアウトプット仮説も世界的に高く評価されている学説ですが、たとえば学校の英語の先生は反論されるかもしれません。どの学説がいいかは、それぞれが考えて決めるしかありません。


私は、英語の学習過程には個人差が大きいことを、数百人の学生に英語を教えて実感しています。英語の上達方法には個性があります。つまり、万人に「一番いい」方法はないのす。だから、ひとりひとりがやってみて、しっくりする自分としてやりやすい方法を、自分にあった「一番いい」方法として選ぶのがいいと思います。


この記事では、専門的な参考文献はあげず、誰でもすぐ読めるインターネット上の情報を、Wikipediaを中心にリンクを張っておきます。興味のある方はWikipedia等に記載されている参考文献を調べてみてください。


言葉を使えるようになるには?
まず、英語を「コミュニケーションの手段」として考える時、語彙や文法を「理解し、覚える」だけではコミュニケーションができないというだれもが経験する現実問題があります。「英語の知識」と「英語を使う力」は、同じではありません。


たとえば、三単現sや複数のsは知識として多くの人は正しくルールを理解しています。しかし、英語を話し、書く時、どんどんとsをつけ忘れてしまいます。話す内容を考えながら英語を組み立てていると、sが欠けていることに気づきません。


どうしたらいいのか?sがつけられるように、もっと文法に意識を集中してドリルを繰り返せばできるようになるのか? そもそも文法とは理解し、覚え、ドリルを繰り返せば、自分で英語を使う時に間違わなくなるものなのか?

インプット仮説
従来は意識的に文法のドリルを繰り返すことが文法習得に必要と考えられてきましたが、30年ぐらい前にクラッシェンがインプット仮説を提唱し従来の常識が問い直されることになりました。彼は、文法の習得は大量のインプットによってのみ可能だと主張しました。

つまり複数や三単現sのドリルを繰り返すのではなく、複数や三単現sがたくさん使われている英語を大量に読んで、大量に聴いてはじめて、自分でも複数や三単現sをつけてコミュニケーションができると主張したのです。


しかもこのインプットは、自分がほぼわかるよりちょっと難しいぐらいのレベルの英語を、内容に集中して読んだり、聴いたりすることを指します。英語文が伝える内容に興味をもち、熱心に内容を理解しようとすることで、その文章に使われる文法も無意識に頭の中で「処理し」をする。この「処理」の大量の積み重ねがあって初めて、自分で話したり、書いたりするときに使えるようになるというのです。


インプット仮説は、それまでの言語習得の定説に挑戦し言語学の考え方に大きな変化を与えたばかりか、その後大論争を引き起こし今に至っています。その論争から2つの重要なヒントがあります。


一つは、言葉を使えるようになるには大量のインプットが必要だということです。このインプットとは学習者が心地良く理解できるレベルからちょっと背伸びをしたレベル、つまり、分からないこともあるが大筋はわかると言うレベルがいいらしい、ということです。



今や、英語学習における大量のインプットの重要性に反論する専門家はあまりいないと思います。英語学習で一番重要なのは、自分が気持ちよくわかるよりちょっと背伸びしたレベルの英語を、内容に興味をもちながら、たくさん聴いて、たくさん読むことです。


二つめは、インプットだけで話したり書いたりできるようになるというインプット仮説に対して、ただインプットするだけでアウトプットもできるようになるのは無理だろう、という懐疑の流れです。その結果、インプットだけでは不十分だとする多様な反論や、アウトプット強化のためのいろいろな仮説が生まれました。

アウトプット仮説
前おきが長くなりましたが、このアウトプット強化の仮説の一つが、オンライン英会話と関係のあるスウェインのアウトプット仮説です。


スゥエインのアウトプット仮説では、大量のインプットに加えて意味のあるアウトプットが重要だと説きます。意味があるとは、自分が伝えたい内容があって、その自分が伝えたい内容を英語としてアウトプットすることです。

つまりアウトプットと言っても、三単現sの練習として、主語や動詞を入れ替えて三単現sを繰り返し練習するようなドリルではありません。自分にとって「意味のない」英語の発話とは違う点が重要です。


ここまで読んでくださった方はお気づきと思いますが、インプット仮説にしてもアウトプット仮説にしても、日本の中学からの学校英語の環境ではなかなか実現しにくいし、実際実施されることが少ないと思います。


例外は、日本で最近10年ぐらい注目されて支持者を増やしている「多読」や「多聴」による英語学習で、まさにインプット仮説に沿ったものです。インプット仮説に大きな影響をうけているイギリスの小学校の魅力的な多読による英語(イギリスですから国語にあたります!)学習方法に触発されて、日本で生まれたのがこの「多読」です。

私も、「多読」や「多聴」は大賛成。イギリス在住時代には、子どもたちが経験していたイギリスの小学校の英語多読に感動して、「多読」や「多聴」のためのブログを書いていたほどです。

たくさん話す際に重要なこと
もう一歩踏み込んで、スウェインがアウトプットで何が重要と主張しているか、簡単に考えてみます。オンライン英会話をする際に、英語の上達を加速するヒントになります。参考に誰でも見られるスウェインのスピーチのファイルをリンクしておきますので、詳しくはそちらを読んでみてください。

スウェインによる、アウトプットによって生じる3つの効果(ファンクション)です。


1.気づきときっかけ効果(The noticing/triggering function)
英語で読んだり話したりとアウトプットをしようとすると、自分が伝えたいことが、英語で思い通りに表現できない、という問題に直面します。この時、私たちは自分の英語力の課題に気づきます。そして、この課題を意識しながら英語のアウトプットすることが、その課題を解決するきっかけになる効果です。


私の解釈によるオンライン英会話での応用方法を書いてみます。たとえば、「最近の東京は酷暑です。昨日の朝は涼しかったけれどお昼からはあまりに暑くなり、冷房のある部屋にずっとこもってました。夕方友達から夕食の誘いをもらった時にはちょうど水風呂をあびてました」と頭の中に伝えたい「意味」が浮かんだとします。


この「意味」を伝えるには、過去形だけでなく、過去の時間の経緯を表現するために過去完了や過去進行形も使いたい気分になります。しかし、すらすらとは使えない。その時、過去の時間の表現を「意識」し難しいと気づいたことをきっかけに、「過去の時間表現」について今まで学んだ知識を頭の中で棚卸して、総動員します。こうして過去の時間の流れを表現する英語を使えるようになる「きっかけ」にすることができるわけです。


2.考えてお試しする効果 (The Hypothesis testing function)
英語で書いたり話したりするとき、自分の伝えたい意味をどう表現するか、よくわからないことが頻繁にあります。この時、私たちはこういう表現でいいかなと考え、試して使うことになります。このお試し表現がうまく伝わらなかったり、相手からどういう意味か聞かれることで、私たちはより適切な表現方法を考え、相手から学んだりします。このプロセスの繰り返しから、より適切な表現を使えるようになる効果です。


「オンライン英会話」でもよくあることですね。生徒は言いたいことをどう英語で表現するかわからず、とりかえず自分で適当に英語を作って言ってみる。すると講師が理解できず、何を言おうとしているかと質問する。生徒がいろいろと言い換え説明して、やっと意味が通じる。ああ、そういう意味ね、と講師からもっといい言い方を教えてもらう。


この一連のプロセスが、考えてお試しする効果で、英語の習得にとても重要というわけです。こんな練習は、学校の教室ではなかなか実現できないけれど、「オンライン英会話」の1レッスン25分に何度もこんなやりとりがありますね。


3.振り返り効果(Metalinguistic (reflective) function of output)
英語を使ってみてあとで、頭の中で自分の英語や相手の英語を振り返って反芻することが、英語の学習に効果がある、ということです。


実際、「オンライン英会話」で思い通りに自分の気持ちが伝えられなかったりすると、「もっといい言い方はなかったかな」「あそこはもうちょっと、xxに言えばよかったな」「先生の使ったあの表現はカッコよかったな」などと、後々頭の中で思い出して考えます。この、頭の中で反芻し、他の人と英語でやり取りをしながら表現を教えてもらう、そのプロセスが英語の重要な学びになるというわけです。


難しい話を最後までよんでくださってありがとうございます。
記事をまとめるのは大変ですが、楽しいです。
明日は夏休みを使った「オンライン英会話」の30日チャレンジを提案したいと思います。

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