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続・「チケットの取扱いに役者名を指定する」という演劇業界の習慣について、かんたんに説明します。


お待たせしました。本日のノートでは、以前に執筆したこの記事のもう一つの側面を簡単に書いてみたいと思います。

チケットの取扱いに役者名を指定するという演劇業界の習慣について。今回は制作者側の理由・都合をちょこっとだけ。とはいえ、私自身このあたりは明るくないですし、団体や公演によって差がある部分ですので絶対ではありません。こういうケースもある、という参考程度のお話です。

今回も「ピンと来ないんだけどどういうこと?」と思われる方に向けて記します。(プレイヤーや制作者寄りな知識や経験をお持ちの方は、業界のシステムやルールなども既にご存知かと思いますので。)

どういう事情・システムがあるのか

チケット取扱窓口の話をする場合、役者や制作の事情として「チケットノルマ」や「チケットバック」という言葉が出てきます。「チケット」という部分を省略し、「ノルマ」「バック」とも言われることもあります。チケットノルマはどなたも比較的イメージしやすいかと思うのですが、これも含めて簡単に説明します。

チケットノルマとはどういうものか

ノルマという言葉は一般的にもよく使われる言葉ですので、どなたもイメージしやすいと思うのですが「役者本人が売り切らなければならないチケット」です。これは演劇公演において必ずしも発生するものではなく、廃止している団体・企画もありますが、多くの現場では今もって採用されているというのが現状です。

チケットノルマがある公演の場合、お客様がご予約の際に推しの名前を指定すれば、その役者に割り当てられたノルマから差し引かれる事になります。たとえばノルマが20枚であった場合、役者名での予約が15枚入れば、役者自身が営業を掛けて売らねばならぬチケットは5枚になります。

逆に、その役者のファンの方々がノルマの規定となる20枚分の予約をしてくださったとしても、取扱窓口の指定(役者名の指定)をしそびれた場合、役者は自分で20枚を売らねばなりません。たとえば2,500円のチケットだったとしても、20枚を売ることの難しさは想像に易いかと思います。

また、売れなかった場合は役者自身が自腹で売り切れなかった分のチケット代を支払うことになります。巷で度々話題・問題になる「自爆営業」ですね。仮に2,500円×10枚だったとしても25,000円ですからね……、んまぁ、エグいよね。(※ちなみにチケット料金、現在は小劇場でも3,200~3,700円あたりが主流です。)

上記は極端な例ではありますがそういったことも起こり得るということ。役者にとってファンの皆様の力が必要不可欠で、かつ取扱者の指定を付けていただけるよう必死に呼びかけるのはこういった背景があります。

チケットバックとはどういうものか

独特なのはチケットバックという制度。「チケット〇枚売ったら〇円お支払い」というシステムです。たとえば「役者の名前でチケットが1枚売れたら、その役者に500円支払われる」とかね。これだけ聞くと「え?自分の名前で予約が入るだけでお金が入るの?」と思われる方もいらっしゃるかと思うんですが、いえいえ、演劇業界の闇はここにも……。ということで、公演によってはギャラが無く、チケットバックこそがギャラになるというケースがあります。恐ろし過ぎるけど本当の話。というか、正直、ままある話。少なくない話。

「1ステージあたり〇円」というギャラがあり、その上でチケットバックがあるならまだしも、「ノルマ有り・バック有り・固定のギャラ無し」とか、割と涼しい顔して存在しますから。これが現実。

ノルマとバックの合わせ技みたいなのも

あとは役者名での取り扱いの枚数によってギャラの設定が変動するケースもありますね。「〇枚以上売ったら1ステージあたりギャラとして〇円」みたいな。この場合、ギャラとして一定の金額は約束されているけれど、予め設定されている基準となる枚数を下回れば最低額、上回ればちょっとだけアップみたいなイメージ。ちなみにアップしたところで潤いはしない金額だったりします。ツライ。

「役者=貧乏」というイメージにはこういう事情もある

いずれにせよ、役者に還元される金額・ギャラとして考えた場合、個人的には「ほとんどの企画(特に小劇場まわり)はブラックなりグレー」だと思っています。役者とは人気商売、「それはもう人気によるところ」という話もあるのですが、それにしても。そしてまた今回お話ししたのは単純に本番についての話であって、その前のお稽古期間中のことも考えるとね……いやほんと、「役者ってなぜそんな苦しい思いしてまで役者やってんの?ドMなの?(真顔)」と思わずにはいられないのですがいやまぁ、何をして生きていくのか、どういう戦略を立てて人生に挑んでいくのかは好き好きですからね……。

さいごに

そんなこんなで本日はチケット取扱窓口の指定をゴリ押ししてくる役者の事情についてお話ししました。切実なんだけど、お金に絡むことだから言いにくいんですよ。で、肝心なところを濁した結果お客様にとって最悪のイメージになるという悪循環。いや、この辺りは役者が表現や伝え方を考えうまく立ち回らないといけない部分だなと思うんですけど。実際できるかと言えば難しいのでしょう、お金と企画・契約・制約に絡むところだから。

それにしても。このチケット周りの縛りは演劇業界の悪習の最たるものだなぁと思う。一方で、改善するとなるとなかなかに難しいことであるとも。ノルマなどは廃止している団体も増えつつあるようだけれど、それでもまだまだ。こればっかりは関わるすべての人・業界全体が意識を変えないと変わらないシステム。

改善に向け既に動いている企画や団体はあるし、なにか打開策は無いだろうかと私も考える。役者一人ひとりには「お客様を大切にする」「お客様の心情に配慮する」「自分のファンを作る」ということを真剣に考えて欲しいし、お客様一人ひとりには制作者側の配慮不足や至らない点を心苦しく思いつつも環境が改善されるまでどうかお付き合いいただけますようにと願う。

そんなわけで、根深く難しい問題ではあるけれど、少しずつ改善に向かうことを祈りながら記しました。扱い者を指定することを求める役者の執念に対して訝しく感じていたお客様と、なぜ協力してくれないのだと憤る役者。ときにその視点の違い・ズレから生じる溝や争いが緩和されることを祈りつつ。

長文にお付き合いいただきありがとうございました。

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