21世紀最高(暫定)のスポーツ漫画『DAYS』を読みながら考えた、「傑作の四条件」

つい先週のことです。週刊少年マガジンで連載中のサッカー漫画『DAYS』が、僕の中で『SLAM DUNK』を超えました。

正直言って、はじめは好きになれませんでした。

ボールをカットする時に胴体と足がありえない角度でくっついてたり、ボールの軌道がちょっとおかしかったり、人間工学的に不可能な鋭角で切り込んだり……。ツッコミどころが満載だし。サッカー経験者としては、その描写のありえなさに敬遠していたところが正直あります。

そんな『DAYS』が、気付いたら20世紀最高のスポーツ漫画『SLAM DUNK』に迫る勢いでおもしろくなっております。

特に現在進行系(※2018/4/3時点)で試合が進んでいる聖蹟桜ヶ丘高校(主人公在籍)vs梁山高校(相手校)は、ファンの間では湘北高校vs山王工業高校を思わせるほどに白熱した戦いが繰り広げられています。

選手権最強の相手と、全国2〜3回戦目で当たること。相手は世代最強の常勝軍団であること。相手に「日本の至宝」と言われるエースがいること。味方に「眠れる才能」を持つ怪物がいること。それぞれのチームに天才・怪物を支える柱がいること。試合中盤まで圧倒的な実力差を見せつけられること。サッカー歴数カ月の素人がキーマンになること。勝利の鍵は「繋がらなかったパス」が初めて繋がること。中心選手が試合中に困難を乗り越えるがあること。どれも必然として物語の中に組み込まれていて素晴らしい……。

読み進めていくうちに、当初苦手意識を持っていたツッコミどころ満載なシュートフォームや極端な身体の曲線も、すべてのコマが試合のハイライトのように美しく輝いて見えるようになります。どれを切り取っても絵になるという点では、全然画風は違いますが松本大洋先生の『ピンポン』の描写に近しい感性を感じます。

試合の具体的な内容については伏せますが、この梁山戦を一つの区切りとして、『DAYS』は21世紀最高のスポーツ漫画と呼ぶにふさわしい傑作へと上り詰めるのではないかと思うのでした。

記憶に残るスポーツ漫画とは言ったものの、それってどういうものなんでしょうか。せっかくなので、これを機会に一度まとめてみたいと思います。

記憶に残るスポーツ漫画「傑作の四条件」

僕が今まで読んできた中で、記憶に残るスポーツ漫画といえば、『キャプテン翼』『シュート!』『俺たちのフィールド』『ファンタジスタ』『DAYS』『キャプテン』『ダイヤのエース』『クロカン』『あひるの空』『SLAM DUNK』『ハイキュー!!』……etc. 枚挙にいとまがありません。

それらが記憶に残り、なぜ傑作だと思うのか。条件として挙げるとしたら、以下の四つではないでしょうか。

1. 主役以外のキャラに物語がある
2. 得点に至るまでの「綱引き」が多い
3. 勝つための「最後の引き出し」
4. 「負け」を経験する

1. 主役以外のキャラに物語がある
スポーツ、特にサッカーや野球、バレーにバスケットなどの球技は一つの試合に関わる人数が多い。おもしろいスポーツ漫画はすべからく主人公以外の選手のキャラが立っていて、それらのキャラがかぶることなく融合し、見事に群像劇として描かれている作品はそれだけでおもしろい。漫画はキャラクターがすべて、と言われることもありますが、プレースタイルから性格、口癖、家庭環境などのバックグラウンドまで、主人公以外の人物描写を丁寧に描けているかが、物語に厚みをもたせる大きな鍵となる。(その点『DAYS』は連載と同時並行で各サブキャラたちの「外伝」が描かれていてすごい)

2. 得点に至るまでの「綱引き」の質が高い
スポーツは、「相手より多く点を獲る」という極めてシンプルなルールに則っている。しかし、その一点がわりと遠い。友人の漫画家さんとも話していたが、スポーツ漫画において重要なポイントは、「何点獲ったか」ではなく、「その一点をどうやって獲ったか」だ。それはつまり、ボールを誰と誰がどのタイミングで奪い合い、どこでチャンスメイクし、防ぎ、こぼれ球を広い、クロスボールを上げ、ゴールを決めるのかということであり、一直線のように見えるゴールまでの距離を綱引きのように行ったり来たりすることである。綱引きが多ければいいというわけでなく、必然性や深みの方が重要で、ドラマのない得点に価値はない。(これはスポーツ漫画に限らず格闘技や恋愛漫画とかでも同じことが言えると思います)

3. 勝つための「最後の引き出し」
それが監督なのか、戦術なのか、選手一人ひとりがその舞台に到達するまでの物語なのか、試合前のMTGなのか、何でもいい。接戦であればあるほど、試合が拮抗していればしているほど、それまでに積み重ねてきた(過去に描いてきたor同時並行で描く過去の)エピソードをラストワンピースとして抱えていたチームが勝利する。『SLAM DUNK』で言えば、最後に試合を決めたのは流川と桜木のホットラインで、今まで一度も桜木にパスを渡さなかった流川が「左手はそえるだけ」とスタンバイする桜木に向かってパスを出すという「最後の引き出し」が勝利を決定づけたんだと思う。伏線の回収にも近いが、読者の潜在的な期待値を超えられるような劇的ゴールを描けるかどうかが傑作の大きな鍵。

4. 「負け」を経験する
これは正確な情報を取っていないから分かんないけど、2010年くらいから?挫折感や悔しさを味わわせるために主人公たちに「負け」や「挫折」を経験させるスポーツ漫画が増えてきているように思う。高校野球漫画『ダイヤのA』では主人公・沢村栄純が所属する青道高校も神宮大会でライバル・稲城実業に惜敗し、甲子園出場を逃した。栄純はその後イップスになりエース争いから一時離脱することになる。『あひるの空』は一応勝ち続けているのに「敗北までの道のり」として描かれてる(ようにしか思えない描写)。『ハイキュー!!』でも主役の烏野高校は負ける。『DAYS』はまだ作中で負けてはいないが、主人公の柄本つくしと彼をサッカーへと導いた風間陣は、精神的な挫折を経験することで大きく成長を遂げた。主人公が若い世代で、先輩たちが負けた悔しさを次の代で昇華するという展開も、高校スポーツを構成する上では典型的だが大切な要素なのではないか。

とまぁ軽い感じで書き始めたら思いの外時間が掛かった……。もし異論反論、追加要素などございましたら優しく教えてください。

今日僕が伝えたかったこと。それは『DAYS』が本当におもしろいってこと。梁山戦を終えた後の物語がどこへ向かうのかがすごく気になるところではありますが、一読者としてこの先の展開を楽しみにしています。

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