GPSロールオーバーと、その後の話

 日本時間の2019年4月7日、人類は歴史上2度めとなる「GPS週番号のロールオーバー」を経験しました。この背景を解説します。


1024週ごとにゼロリセット


 GPSは独自の時刻体系(GPS時)で時刻を管理しており、そこでは「週と秒」だけで時刻が表現されています。GPS時の週番号(WN:Week Number) に割り当てられているのは10ビット分、すなわち1024です。カウント開始から1023週めに週番号の2進数表現は1が10個連なる11 1111 1111となり、週をまたぐ際に繰り上がって(繰り上がれなくて)00 0000 0000に戻ります。これが GPS Week Number Rollover です。「GPSリセット」と表現するメディアもあったようですが、同じ事象をさしています。新元号「令和」の発表(4/1、改元5/1)と時期が重なったのは、たまたまです。

 1回目のロールオーバーは、GPS時の起点である1980年1月6日から数えて1024週目の1999年8月22日に起きました。ノストラダムスの恐怖の大王が来るとか来ないとか言ってた頃のことです。
 今回(2019年)のロールオーバーについて、一度は経験した想定内の事象であるのに影響が懸念されていたのは、1)位置と時刻を受け取った側のシステムで情報の不整合が起きる。2)想定よりもはるかに多くのシステムで、GPSによる高精度の時刻情報が利用されるようになったから、ではないかと思います。


なぜ10bitしか割り当てなかったのか

 そもそも、測位に利用されるのは、機上時刻と受信機時刻の差分から求められる「電波の到達時間」、すなわち「衛星から受信機までの距離」の情報です。なので測位に限って言えば、時刻がいつであろうが関係はありません。受信機単体で測位が完結するなら、問題は起こりようがありません。

 GPSの設計者たちが週数カウントに10bitしか割り当てなかったのは、他にもっと伝えるべき情報がたくさんあり、時刻情報の重要性は相対的に低かったからではないでしょうか。本来の目的である「測位」にはそれほど影響はないわけですから。

 ロールオーバー後にTwitterのハッシュタグ #gpsrollover  で見る限り、大きな問題があったようには見えませんでした。「俺のGarmin、1999年に戻ってるよw」とかありましたが、これは不具合報告というより、クラシックGPSデバイスの大自慢大会、Geekの習性みたいなものではないでしょうか。米国政府のGPSポータルサイト、GPS.GOV のカウントダウンタイマーも無事ゼロになり、その後消え去りました。

今後はもっと長いサイクルで

 ちなみに他の衛星測位システムでも「週と秒」のみでの時刻表現は変わりませんが、週数への割当ビット数が増えているので、ロールオーバーのサイクルも長くなります。また「うるう秒」の処理も微妙に違っていたりします。

 欧州のGalileoでは、GPSの最初のロールオーバー時点である、1999年8月22日を起点とし、週数の表現に12bitを割り当てています。起点から4096週後、すなわち2078年2月20日まで、繰り上がりなしに週数をカウントできます。うるう秒についてはGPSと同じく、UTC(協定世界時)との差が何秒分あるかの情報を別立てで送信しています。

 中国のBeidouは2006年1月1日を起点とし、週数カウントには13bitが割り当てられています。起点から8192週後の2163年1月2日まで心配(?)ありません。うるう秒は別立てではなく、中国が管理するUTCに同期した時刻情報を送信しています。

 ロシアのGLONASSも、うるう秒の処理は同様で、UTC(SU)+3 という自国で維持管理するUTCに3時間を加えた、モスクワ時間を放送しています。ちなみにSUとはSoviet Unionの頭文字。歴史の遺物がこんなところにも残っていました。

 GPSは今後、L1Cなどの新たな信号体系で週番号により多くのビット数を割り当てており、日本のみちびきもこれに合わせています。週番号を13bitで表現するので、最初に戻るのは8192週後。起点である1980年1月6日から数えると、西暦2137年に最初のロールオーバーがやってきます。不思議なことにその日付は、起点と同じ1月6日となるようです。

(了)

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