年度の変わり目。瞬く間に時が過ぎていく。

2023年度が終わる。航海に出たような1年だった。新しい海でもがいてもがいて、ずっと浅瀬で溺れながらなんとか年度末に辿り着いた。仕事の感覚だけはめきめきと優れていく。手ごたえを感じる自分を肯定したい。けれど現実は苦しい。今もなお、ゆるやかに溺れている。

最近ようやく、さまざまな理不尽を「春ですねぇ」と笑うことができるようになった。

春は様々な記憶を呼び起こす。人生の転機はだいたい春に集約されていて、春はじゅくじゅくと心のかさぶたを刺激する。時には誰かを連れ去っていく。そんな脆くて儚い季節。だから理不尽を笑う。強がって。

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カベポスターを履修し始めた。

履修は唐突に始まった。仕事に気力と体力を奪われる日々の中、急な発熱で寝込んだ1月下旬のある日のこと。

その日、39度近い熱があった。つらさを紛らわすべくradikoを起動。たまにタイムフリーで聴くカベポスターの番組が生放送中であることを偶然発見した。ふらっと立ち寄る感覚で聴く。

番組では「我々は永見さんのことをよく知らない」というテーマで永見さんのことを掘り下げるトークをしていた。永見さんは相方と乗ったタクシーのお金を払ってくれる。マネージャーから見ても優しいので直すところはない。そんな話をしていた気がする。

結局、最後まで永見さんのことはよく知れなかった。けれど、途中で永見さんが言っていた（かもしれない）一言が耳に残った。

「おもしろくってありがとう」

相方・浜田さんに対する言葉。そんなこと言うのか……意外。いい意味で裏切られた感じがした。漫才やラジオの落ち着いた雰囲気からビジネスライクなコンビという先入観もあったのかもしれない。

確かに漫才はおもしろい。ラジオも聴きやすい。座王、探偵、その他もときどき見ている。好意的に見ていて、視界には確実に入っている。ただ、よく知らない。なんとなく好きだけどよく知らない。なんならその永見さんが面白いと思っているらしき人物である浜田さんこそよく知らない。

そう気づいた瞬間、なんとなくぼんやりと見ていた2人を「もっと知ったら楽しいかもしれない」と思うようになった。

そこから意識してラジオを聴くようになる。強く応援する決定打となったトークがほどなくして訪れた。

それはひらパーで行われたイベントの話。多数の一般客の中を要人とボディガードに扮した芸人が練り歩く催しで、カベポスターの2人はボディガードとして人混みの中にいた。その様子はSNSで拡散され、特に永見さんが小さな子を護衛する動画が話題となった。

ラジオではその動画について永見さんがコメントしていた。話によると、小さな子は混雑する現場の中でしばらく一同について来ていたそうで、放っておいたら危なかったため永見さんが本当に守っていたようだった。その様子を親御さんが遠くからカメラを構えて見ていたという。永見さんは言う。「いや、親が止めろよ」

ど正論を投げた。番組の空気が悪くなるのを承知で「何にも面白くもない話なんやけど」と前置きしつつ。そのとき思った。この人は真っ当な倫理観をもっている人だ、信頼して応援できそう。

そこから、解像度が急に上がっていった。

見たことのある漫才のネタを思い起こす。好きなネタは卒業文集かな、ゴマだれとポン酢のネタも声を出して笑ったっけ。もっと他のネタも見よう。過去に何度か聴いたラジオもYouTubeで聞き返す。幸運のタクシーの話とポケモンの話はよく覚えていたし、なんか直筆のレシピ配ってたな、そういえば。もっと聞き返そう。ライブの配信も見る時間を取れそうなものは買って見始める。ああ、conchichiとかバカ丸ライブってよく聴くけどこういうライブだったんだ……記憶の糸を手繰り、新しい情報とともに解釈のコードを紡いでいくこの最初の時間が楽しくて、今も履修はどんどん進んでいる。

最近は仕事がやや落ち着いているため、転職してから何年かぶりにラジオにメールを送っている。ハマったきっかけとなったラジオのステッカーを記念に持っておきたいと思ったのが最大の動機。

かつての感覚を思い出しながらメールを打つ。動物の鳴き声みたいでかわいいからこれでいいかと適当につけたラジオネーム。いい歳してラジオネームに「ちゃん」なんて付けなければ良かった……そんなことを思っていたら、初めて送ったメールが採用される。ほどなくしてステッカーと浜田さんの写真が届いた。なんならもうひとつの番組のクリアファイルと綿棒まで届くことになった。ラジオにメールを送る余裕があるのは仕事的にも3月いっぱいだと思うので、4月からはまた聴く専門に戻る予定。とか言って送るかもしれない。楽しいから。

履修し始めて分かったのは、どちらもちょっと変な人だということ。友達というよりどこか兄弟と同僚の間のような関係性であること。そして、とてもバランスの取れたコンビだということ。生で見てみたい。そう思うコンビがまたひと組増えた。

履修は続く。無理なく凪のメンタルで楽しみたい。

2100文字。

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