3通目のお手紙 * 旅乃屋 a:kumo

残暑お見舞い申し上げます。いかがお過ごしですか。
長崎も西国ですから、まだまだとっても暑いです。今年は特に、朝から晩まで暑くって、わりと身の危険を感じるレベルの日が多いです。
でも元気にやってます。これを書いているのは8月16日なので、足元が真っ赤に染まっています。



物騒な表現をしたけど何のことはない、ただの爆竹の名残です。
あれ?物騒か?(笑)


長崎のお盆の風習に『精霊流し』があります。テレビで取り上げられる機会もけっこう多いので、ご存知の方も多いかもしれません。

『精霊舟』と呼ばれる、舟の形をした山車のようなものを海に流します。
(近年では環境問題とかあるので流してませんけれども)
初盆の人を送るための舟で、これ、自分達で作るんですよ。
土台から飾りつけまで、そして舟を引っ張って歩くのも親戚総出。
だから長崎の初盆はとっても大変です。

私も祖父が亡くなった時は精霊舟を出しました。お酒の好きなじいさんだったので、「しかしそのまま酒を押し出すのは さすがに品がなかろう」ということで、花札の『月見て一杯』の絵を、舟に置く灯籠に描きました。
二十歳の小娘に花札は分かんなくてねぇ、携帯で調べながら描きましたよ。
「それじゃギャンブル+アルコールじゃない?余計悪くなってない?」と思ったものですが、出来上がったものを見て親戚の爺婆連中が「おぉ風流になった」と言っていたので良かったんだと思います。

「もやい舟」と呼ばれる、その地域の共同で出す舟もあります。
舟を出すのは大仕事ですから、出したくても出せない人もいますし、もう身寄りのない人もいます。
そういう人達を地域みんなで送るのが「もやい舟」。
「もやい」ってのが、『共同』とかそういう意味です。「(一着の服を)もやいで着る」とか言います。今風に言うと『シェア』みたいな感覚に近いのかな。


爆竹はこの精霊流しに欠かせない道具。魔除けの意味を持っていまして、控えめに言ってドン引きする量を鳴らしまくります。わりと真面目に爆撃です。
鉦や掛け声と大量の爆竹の音が、8月15日の夜には長崎のまちを埋め尽くします。
中心部の大きな道路も遠慮なく交通規制かけて通行止めにしますからね。一大事です。

舟の数は年々減っているけれど、うちの母が若い頃は「翌日は爆竹のかすで靴が埋まるほどだった」とか。やわらかい砂浜を歩くのと、似たような感覚だったみたい。
(現在は、深夜に警備員さんとかが清掃してくれてます。その違いも多少はあるかも。)
「昔は夜火矢でん何でん飛ばしよったけんねぇ(訳:昔はロケット花火でも何でも飛ばしてたからねぇ)」という、けっこう危険なイベントです。笑。
今はさすがにロケット花火とかは規制されてますが、普通に道を歩いてるだけで足元で爆竹が弾けまくるのでサンダル厳禁です。


何でこんなお祭り騒ぎを、と思われることも多いですが、たぶん「賑やかにしたほうが故人も喜ぶだろう」というのが長崎人の基本的な考え方なのだと思います。
湿っぽくしんみりされたら悲しくなっちゃうから、出来るだけ晴れやかに、盛大に。
長崎はお墓で花火するんですけど、あれもお迎えのためなのです。
楽しく歓迎して一緒に騒げたほうがよかやろう、って、そんな気持ち。

そういえば昔のお正月は、今で言う遺影を床の間に飾ったそうです。
亡くなった人とも一緒にお正月を祝ってたのですね。
長崎はそういうふうに死者との距離が近くて、生きてる者と死んでる者が共存してるところがあります。


それでも生きてる人と亡くなった人とは当然違っていて、「生きてた人」が「亡くなった人」になる境目が精霊流しじゃないかな、と私は個人的に感じています。

精霊舟は自分達で作りますから、どこまでも工夫することができます。
その人が好きだったものの絵を描いたり、思い出のものを飾りに使ったり、好きな色をメインに使ったり、「あの人と言えばこれだよね」みたいなものを置いたり。
「どうすれば本人が喜んでくれるかな」「どうすればあの人らしい舟になるかな」って考えながら、みんなで作ります。

そうやって出来上がった舟は、ぜんぶ違います。
大きい舟、小さい舟、派手な舟、落ち着いた舟、伝統的な舟、舟っぽくない形の舟、親戚みんなで作った舟、お友達も集まって作った舟、家族だけで作った舟、地域の舟。たくさんあります。
だけど どの舟も全部、心からその人のことを考えて、自分達に出来る精一杯を費やしている舟です。
そんな舟たちがひとつひとつ列になって港へ向かってゆくのを見ると、私は胸がいっぱいになって、ぽろぽろ泣いてしまうのです。


どの舟も、その人への最後の贈り物です。最後の餞です。
お盆には毎年 帰って来てくれるけど、その時ってもう「亡くなった人に対して」のことしか出来ない。「故人を偲ぶ」ことしかできない。
「その人そのものに対して」は、もう出来ることがなくなっちゃうから、これが終わったら ほんとに最後のお別れなんだなって私は思っていて。

それは悲しいことじゃなくて、生きていれば当たり前のことで。
その人と もう会えないのは悲しいことだけど、それもひっくるめて私たちは生きていかなきゃいけなくて。死人が生きてていいなら死ななくていいからね。

生きてきたものは みんな死ぬ。
それを悲しいことにしないで最後のお別れをするって、とても素敵なことだと私には思えます。
最後の決別、のような凛とした舟の空気が、とても好きです。


でも本当に爆撃だから、見に来る時は気を付けてね。隣の人とも話せなくなる音量だからね。
(長崎では、この時期 えげつない量の耳栓が売れます。)
初めての人は18時くらいに行ってみるのが おすすめ。まだ舟の数も少ないけど、雰囲気を味わうことができます。
精霊流しは19時頃からが やっと本番なので、「これより すごくなったら無理じゃない?」って感じたら素直に退避しましょう。
まだまだいけそう、寧ろ迫力満点なところも見たいわ!って方は ぜひそのままでお楽しみください!

あと公共交通機関を利用する場合は、運休とか路線変更とかが めちゃめちゃあります。事前に必ず確認しておいてください。
そしてサンダル厳禁!!!もっと言えば長ズボン推奨!!!でよろしくどうぞ!!!

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小李ちさと

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