さぁ君に 隠れた名前を付けてやる/ここから未来は あたしの明日

「例え話だけど、みんな大事な写真はアルバムに入れておくでしょう?」
「うん」
「そんで、その写真を差し替えるじゃない」
「そうね、差し替えるね」
「私は差し替えきれないの。だからアルバムを何冊も何冊も増やしちゃう。それが私にとっての『大事にする』っていうことで、差し替えられてしまうっていうことは『もう大事じゃない』ってことだと思ってたんだよね」
「そうなんだ」
「うん。差し替えられたのが分かるとすごくショックだったし、『もう大事じゃないんでしょ』って言っちゃってた。手元に置いておかなくても大丈夫っていうだけで、大事な気持ち自体は変わってなかったのに。それがやっと分かったんだよ」


何年か前に、そんな話を親友にした。
とても『普通』の感覚を持ち合わせていて、そのくせ私のずれも敏感に理解してくれる彼女は、相槌を打ったり驚いたりしながら話を聞いてくれた。

私は感情や思い出に優劣を付けられない。
いや、もちろん誰だって付けられないとは思う。それでも時間が経てば変化するものがあったり、更に大事なものができたり、その時々の状況だったり、いろんな要因で無意識のうちに優劣が出来上がっているんじゃないだろうか。だってそうしないと、何もかも抱えていたら生きていけないじゃないか。

そう思うのに、私は写真を差し替えることができなくて、アルバムを増やし続けてしまう。重たくて歩けない。軽々と歩く人々がうらやましいけれど、今 自分の手の中にあるものと引き換えなら、しょうがないと思っていた。


過去を『過去』にできないのだ。
いつのことを振り返っても、感情や風景や言葉が体験したときのままに蘇ってくる。寧ろ時間が経った分、余計に鮮やかに貫いてくる。熟成なのか濃縮なのか分からないけど、そういう感じのやつ。

だからなのか、私はいっつも『細かいことまでよく覚えている人』のポジションで、同窓会なんかで思い出話をすれば「よくそんなこと覚えてるね!」とか「言われて初めて思い出した!」とかいう反応ばかりが返ってくる。
思い出が生きたままそこにある、と言えば格好はつくけれど、いつまでも過去にこだわり続けているようで ちっとも格好良くはない。誰もが歩き出した場所に いつまでも一人残っているようで、なんとも言えずにさびしい。かなしい。


思い出をひとつふたつだけ連れて、颯爽と歩いていられたらいいのに。
そんな想像とは正反対に、私はなんにも置いて行けない。少し離れてみることさえできない。手にしたものを いくつもいくつも、等しく並べて積み上げるばかりだ。それはまるで境界線のようで、壁のようで、大事にすればするほど、自分の中から出られなくなってゆく。ますます淋しく、かなしく、膝を抱えることになる。


このままではどこへも行けぬ、何にもなれぬ。

それでも私には並べて積み上げることしかできなかったから、黙々と並べて、積み上げてきた。頼りない手でひとつずつ、いくつも、いつまでも。


30年並べ続けて、ふと思った。
これはもしや、城ではないのか。

積み上げてきたものを見上げる。
並べてきたものを振り返る。
どこへも行けないほど多くて、重くて、難儀してきたものたち。こんなにある。
こんなにもたくさん、ある。
それらが全部ずらりと揃って、その内側に、私をそっと、大事に守っていてくれる。


城じゃないか、それは。
しかも、ちょっとやそっとじゃ崩れもしない、ものすごく強固な城。
すごい。私は城を作っていたのか。私にもこんなものが作れたのか。


嬉しくて泣いてしまった。
だってこんなに幸せな城だよ。思いもかけないプレゼントをもらったみたいだ。境界線や壁であったものたちが、年月を重ねて、こんな姿になるなんて。

それに私、どこにも行けないし何にもなれないと思っていたから。こんなものを作ってしまうなんて、すごいじゃないか、私。
他の誰にも作れない、私だけの城なんて。なんてすばらしいんだろう!


私には城がある。
そこには大事なものが詰まっていて、眺めつづけることもできる。誰かを招いたり、匿ったりすることもできる。どこかに出かけて、帰ってくることもできる。何でもできる。


私は何でもできる。

それって最高の祝福だ。
私が勝ち取った、君からの祝福だ。


そんなことを体感した、1月の終わり、2018年の始まり。
明日は皆既月食だよ。

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小李ちさと

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小李ちさと

a:kumoの じゆうちょう

すきなこと すきに かいていくよ。
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