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「日本一をめざすこと」

僕がコスモテックに入社したての時、さかのぼること15年ほど前ですが、箔押しの匠 佐藤勇と会社帰りにお酒を呑む機会があり、僕も匠もほろ酔い気分で過ごしていた時の一言が今でも忘れられません。

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箔押しの匠 佐藤は決まって呑みの席ではウイスキー。大好物!


「 青木、日本一をめざせよ。 」

僕はその時酔っていたし、話の前後ははっきり覚えておりませんが、その強烈な一言が今も胸に突き刺さってます。

入社当時は人も少なく、機械は老朽化し、経営的にも下向きのまずい状況でした。毎日を乗り切るだけで必死です。そんな中で発せられた驚くべき一言が 「 日本一をめざせ 」 だったのです。

今思えば、酔っ払った匠が戯れに口にしたことだったのかもしれません。
しかし、この一言は僕に大きな衝撃を与え、また、その後進む道へのヒントを与えてくれた重大な一言だったのでした。

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その当時のコスモテックには最新の機械設備はなく、人数もいない。
じゃあどうやって戦うべきか。匠と話しているうちに、今のコスモテックには人間力と知識、技術力向上しかないと納得したのです。

それからは 「 日本一をめざす 」 ことを大義名分に、無理難題の箔押し実験をバンバン 匠 佐藤に試してもらっては、それを仕事に活かせるようにお客様に提案することを繰り返しました。

佐藤は口では言いませんでしたが、さぞキツかったことでしょう。
箔押しのいろはを知らない僕が試したいと思いつく加工実験はめちゃくちゃな内容ばかりで、ベテランの箔押し職人の佐藤でも味わったことがない、奇想天外な世界が目の前に広がっていたはずです。

奇抜な内容にあきれられることはよくありましたが、なんだかんだ言いながらも、匠はしっかり未知の加工実験に向き合ってくれました。

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ひらひらの市販ティッシュに箔押ししたこともありました。
手作業で1枚1枚箔押し加工するのには困難を極めました。


僕は 「 日本一をめざせ 」「 貪欲になれ 」 という匠の言葉に支えられ、また、周りのたくさんの加工所の職人やデザイナーの方たちの生き様や仕事に向かう姿勢に感化され、キワドイ加工実験にどんどん没頭して経験値を積み上げていきました。

また、夜な夜な紙の見本帳と戯れたり、印刷加工の書籍や今まで興味がなかったデザイン関係の書籍を読みあさっては吸収することをライフワークとしました。

さて、 「 日本一をめざせ 」 について。

何をもってして「日本一」となれるのか。
売り上げが高ければいいのか、最新の設備があればいいのか…
それともサービスのことなのか?

はっきり言って未だに答えは出ていません。
そもそも 「 日本一 」 は自分が語るものではなく、お客様や周りの人が 「 コスモテックは日本一だ 」 と評価してくれてはじめて価値があるのではないかと考えています。

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「 日本一をめざせ 」 という言葉が発端で色々な試みを始めたものの、未だに 「 日本一なるためにはどうすれば良いのか 」 ということを考え続けています。

当時の僕は、今までどおりの毎日か、もがきながら何かを発見する毎日かを選ぶなら…と考え、後者を選びました。匠は当時の 「 日本一をめざせ 」 の真意を語ってはくれませんが、僕の解釈では 「 迷いながら生きろ 」 という意味があるんじゃないのかなと思っています。


下の写真はフォトグラファー三宅英文さんによるもの。
PORT 様のプロジェクトに参加させて頂いた際に撮影されたものです。
匠のお気に入りの一枚。

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今のコスモテックの箔押し加工には、既存の方法にとらわれない、当たり前ではない世界が広がっています。匠を見ていて、既存の方法にとらわれない仕事を受け止めるためにはある種の潔さや経験に基づく度量の大きさが必要だと気が付きました。

数々の加工実験という名の無理難題は、匠でなければ成しえなかったことでしょう。そこにあるのは、箔押しへの真っ直ぐな情熱であり、仕事への愛であり、仕事こそが生きがいであるという佐藤勇の在り方そのものだと感じるのです。

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僕のような若輩者に、その境地を理解できる日がくるのかは分かりません。

しかし、事実、僕とコスモテックが、未だに悩み、苦しみ、もがきながら進むことを選んだのは、酔った匠の 「 日本一をめざせ 」 という一言があったからに他なりません。

そして、コスモテックは今も 「 日本一 」 をめざし、あがき続けているのです。

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