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「なめらか」には軽く見積もって10万円の価値があるらしい

あなたにも、今日から「なめらかが気になってしかたない呪い」をかけてあげよう。

「なめらか」には軽く見積もっても10万円以上の価値があるらしい。

何を言っているか分からないかもしれない。大丈夫。私も分かるまでに1ヶ月かかったから。


いい企画は、なめらかである

「いい企画とは誰も思いつかないようなすごいアイデアから生まれるわけじゃない。いい企画とは、なめらかである」

そんな話が飛び出したのは、コルクの佐渡島庸平さんの講義でのこと。(1月から福岡ではじまった「編集の学校」に通ってます)

はじめて佐渡島さんの話をリアルで聞ける機会に胸を高鳴らせていた私だったが、

なめらか・・・
なめらか・・・?

いや、ちょっとよく分からんな…と思った。

もちろん、「なめらか」という言葉くらいは知っている。ほら、あの、「なめらか」だよ。滑りがいいとか、スルッとしているとか、ツルツルしてるみたいなそんなやつだよ。プッチンプリンみたいなやつだよ。

でも、「いい企画がなめらかってどういうことだ…?」ー
ポカンとしてたので、どういう文脈でその話が出てきたかも完全に忘れてた。

このnoteを書くために見直しているメモによると、映画「THE FIRST SLAM DUNK」が”なめらか”であるという話だったっぽい。

一般的な漫画原作の映画は、2時間という枠に収めるためにどうしてもダイジェスト版になりがち。漫画を読んでいるファンはそれでも楽しめるけれど、映画から見た人は置いてけぼりになる。

THE FIRST SLAM DUNK」では、2時間という限られた時間の中で山王戦をなめらかに観せるために宮城視点になっている、ということだった。

(へー、ほー、ふーん?)

分かったような分からないような感じのまま話は進み、結局私の興味は別の面白いテーマに移っていった。

「なめらか」には10万円以上の価値がある

講座のあとは、懇親会があった。ライターや編集界隈の方が多く、かなり踏み見込んだ話も飛び出して、とても有意義な会だった。実際、すぐにでも仕事になりそうな会話もあった。

「いや〜、今日1日だけで、受講費の元とったった!って感じですね」

と、同じテーブルの人と言い合っていた。ちなみに全4回の講座で10万円である。安い、安いよ。

そんな少し興奮気味の私に、ある参加者が言った。

「あの『いい企画とはなめらかである』の話のところだけで、もう元取れましたよね!」

ギクッ。

私がよく分からずに流そうとしていた「なめらか」がその人にはブッ刺さったらしい。なめらかなのに。

その場はなんとなく愛想笑いで流したものの、「彼に分かって、私には分からない『なめらか』ってなんだろう」と理解できないもどかしさを抱えながら、帰路についた。

なめらかの呪い

そして私は、「なめらか」の呪いにかかった。「なめらか」のことが気になって仕方ない。

繰り返すようだが、「なめらか」という言葉の意味は知っている。なんとなくイメージはある。でもそれは視覚だったり触覚だったり、物理的な何かに対するイメージでしかない。

企画のような目に見えなくて、漠然としているものを形容するための「なめらか」ってなんだろう?

それから、家で、まちで、とにかく「これはなめらか?なめらかじゃない?」と考えるようになった。

階段はなめらかではない。スロープはなめらか。

階段とスロープって辿り着く先は同じだけど、階段のほうが大変だし、人によってはゴールにいけないこともある。

でもスロープって「ここがスロープです」と書いてあれば分かるけど、ただのなめらかな坂だったらそこにあることも気づかないわけで。

となると、「なめらか」を探す前に、「なめらかではないもの」を考えて、その逆と考えればいいのかもしれない。

つまり、なめらかとは
・抵抗とか摩擦とか、妨げになるものがなく
・そこにあると気づきにくく
・気づいたころには受け入れちゃってる
ような感じなのではなかろうか。

そして見つけた最強の「なめらか」

そして、ある日「うわ、これめっちゃなめらかな企画じゃん!」というものをついに見つけた。

それが、大谷翔平選手による、全国の小学校に対してのグローブ寄贈。

娘の小学校にも届いていて、1000人以上いる全校生徒が一人ひとりグローブをはめて記念撮影したらしい。野球なんてしたこともない娘がニコニコしてグローブをはめて写っている写真をみて

「いや、この企画…天才じゃね?」

と気づいてしまった。

ジュニア用のグローブって結構高くて、1つ1万円〜3万円くらいするらしい。それを全国にある約2万の小学校に3個ずつなので、仮に3万円×6万個として、約18億円。

私めのような庶民には一生かけて稼げるかどうかというレベルの金額ではあるものの、もしこれがが「子供たちのために、関連団体に18億円寄付しました!」だと全然違ったと思うわけですよ。

子どもたちの喜びとか、社会への影響とか、大谷さんの好感度とか、全部ひっくるめて影響度は雲泥の差のはず。

※繰り返しますが、18億円を現金で寄付するというのもとんでもないことですよ(もはや規模感がバグって感覚がおかしくなってるだけで)。

グローブ寄贈企画のなにがすごいのか

今回の企画の凄かったポイントを整理してみたい。ちなみにこれは遠巻きに見ているただの一般人が感じたことであり、実際の意図かどうかは知らないのでご了承いただきたい。

①贈られた側の幸せの最大化

日本全国、約600万人の全小学生が大スターと自分とのつながりを感じることとなった。なんだか自分も特別になった気分になれた子どもも多いことだろう。子どもたちが嬉しいと、周囲の大人もみんな嬉しくなる。

②大谷さんの好感度・イメージの最大化

みんながキャッチボールできるように右利き用2つ、左利き用1つという個数設定で、もともと「良い人」のイメージが強い大谷さんの配慮の奥深さがうかがえる。

さらに、全国、全小学校にもれなく配るという圧倒的規模感で大谷さんのタダモノじゃなさ、「オオタニサンやべー!!」も最大化されている。

企画全体を通して「有名人が売名で寄付してる」みたいないやらしさを感じさせる隙がない。これだけ大々的にやっていて、批判の声がほぼ聞こえない。

③大人たちへの影響の最大化

今回の企画のニュースを見て、「自分も大谷さんまではいかなくても、何か人のためになることがしたい」と思った大人もきっとたくさんいる。

著名人が寄付をするときに、あえて公表してやるのか、ひっそりやるのかみたいな議論はよくあるけど、少なくとも今回はたくさんの人と会社と団体とを巻き込んでこれだけ大々的に行ったことで、勇気をもらったり鼓舞されたりした大人も多いんじゃないかな。

また、寄付行為に対するイメージも上がったと思う。

④スポンサーのプロモーション

「今回の企画、天才だな」と思った一番のポイントはここ。

大谷さんの話題で盛り上がっている裏で、ひっそりと認知と利益を爆上げしているのがスポンサーのニューバランスですよね。

そもそも今回の企画は大谷さんの寄付がメインなのか、NBのプロモーションがメインなのかも気になるところで、NB側も結構お金払ってるんじゃないかなと邪推してるんですが・・・

仮にプロモーションだとして、これやられて嫌な人いる?

で、この企画の何がなめらかなのかというと、こういうポイントが全部めちゃくちゃなめらかに違和感なくつながっていること。

圧倒的な結果を出している大谷さんによる、圧倒的な規模感の企画
「さすが大谷さん!」

「わ〜大谷さんのグローブだ!うれしい〜!」
「子どもたちが喜んでいて嬉しい〜」

「野球、やってみようかな?」

「うちの子が野球はじめたからNBのグローブを買ってあげよう」

「大谷さんってすごい!僕も/私も大谷さんみたいになるぞ!」

この流れがめちゃくちゃなめらかなんですよ!!川を流れる水のように、あまりにも当たり前に流れていくんですよ。

これじゃん、これじゃん、なめらかってこういうことじゃん!

私たちの仕事には「なめらかじゃない」ものがたくさんある

ということで、ついに掴んでしまった「なめらか」の正体。

その輪郭がつかめてくると、「なめらか」って企画以外のさまざまな場面でめちゃくちゃ大切な働きをしていることも分かってきた。

例えば習慣。習慣化のコツの1つに「すでに習慣になっているなにかに繋げる」ということがある。トイレに入って、便座に座ったら、英単語帳を開いて、英単語を1つ覚える、みたいな。

そういう小さな行動の連続の中に習慣化したいものを組み込んでいくんだけど、これもまさに、いかになめらかにできるかみたいな話になってくる。何もないタイミングで、自分で気づいていきなり行動を起こすって、全然なめらかじゃない。

他にも、日常で「めんどくさいな」と思うことも、なめらかにするという意識で見直せばかなり改善できる気がする。

家に帰ってきて、ご飯をつくりはじめる。このとき、米を研ぐところからやろうとするとかなりめんどくさい。米を研ぎ、少し置いておいて、浸水させて、と行動がぶちぶち切れるからだと思う。

後はぴっとスタートボタンを押すだけ、状態まで先に仕込んでいれば、帰ってきて手を洗い、流れるように調理をはじめられる。

仕事もそうだ。自分の普段の仕事の中で「なめらかではないポイント」をみつけて、そこをならしていくことで、生産性があがったり、めんどくささが改善されたりすることが多いに期待できる。

個人的には最近、「Zoomのアーカイブを観る」という工程が、1つのつっかえになっていると気づいた。

・Zoomを切って、アーカイブができるまでに間が開くので、打ち合わせ終了後にすぐに作業に入れない

・録画されるフォルダがメインで使っているものと違う上に、Zoom>●月●日>動画ファイルみたいに階層が結構あるので、めんどくさい

・自分が話している様子を見聞きするのがストレス

・結局、大事な話してたのどこだっけ?となりピンポイントで情報が見つけづらい

など、いろいろな理由があり、なめらかな仕事を阻害していたのだ。

気づいてしまえば、あとはこれを改善する方法を考えていくだけだ。上に挙げたようなポイントをならすのもよし、「そもそもアーカイブを見ないようにすればいいじゃない」という考え方もよし。

他にもECサイトの導線とか、お店の予約とか、なめらかじゃないポイントはたくさんある。とにかく「なめらか」を使いこなせれば、めちゃくちゃ可能性が広がりそうだ。

もちろん、ときには「なめらかを理解した上での、あえてのでこぼこ」がいいときもあるとは思うけどね。

さ、ハイキュー観てこよ。


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