DER WEG IST IN MIR

グレイの空の下、木枯らし吹く季節。                 慌ただしく駆け抜ける日々のなか、灰色の男が葉巻をくゆらしながら   こちらを見ていないかと、ふと窓の外を思う。             そんなとき目に浮かぶのは、くしゃくしゃ巻き毛の小さな女の子と    その傍らを歩く小さな亀のこと。                   幼い頃にきっと誰もが出会ったみんなのともだち。           遠い記憶をたどるように、ゆっくり大きく深呼吸したら思いだそう。   星の声と、時間の花と、小さなモモの後ろ姿を。

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Cotomono Exhibition _ Homage for MOMO 

“ DER WEG IST IN MIR  ミチハ ワタシノ ナカニ アリマス”

ミヒャエル・エンデの『モモ』へのオマージュ作品をメインワークに、Cotomono定番の柔らかい色合いの手染めのカバンや、 原点に立ち還ったようなシンプルな布合わせだけで作ったカバンなど、いろいろなキモチをいろいろなカタチにしました。 モモをグラフィックで象った紙ものや布ものも登場します。また、それぞれの展示会場で『モモ』にまつわる言葉やフード、音楽やアニメーションもお楽しみいただけます。

【全会場:期間中「ナツメ書店『モモ』のための10冊」】        ミヒャエル・エンデ『モモ』をイメージして10冊の本を選びました。本のどこかに『モモ』の一節を書き記したしおりを挟んでいます。心に響く言葉に出会えますように。

【場所と日時】:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

café à table:2019.1/26(土)〜2/2(土)】                                 〒804-0041 北九州市戸畑区天籟寺1丁目4−12                                 Tel : 093-884-9185 http://cafe.a-table.com                                   11時~18時・定休日:1/31(木)・作家在店予定日:1/26.27.2/1.2

1/27(日)15時〜「茶話会:モモとドイツとわたし」参加費:1300円
『モモ』のなかに出てくるマイスター・ホラの朝ごはんをモデルにしたハチミツを使ったお菓子とホットチョコレートを頂きながら、モモに導かれるように滞在したドイツでの暮らしのことなどを写真とともにお話します。

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ナツメ書店:2019.2/9(土)〜2/24(日)】  
〒811-0321 福岡県福岡市東区西戸崎1-6-21
natumebooks@gmail.com ・ http://www.natumesleep.com     10時〜18時(土日祝)/ 8時〜10時・15時〜21時(平日)                      定休日:水・木 / 作家在店予定日:2/9.10.11.16.17.23.24

2/10(日)「café à table:マイスター・ホラ 時間の国のスープ」
『モモ』のなかに出てくるマイスター・ホラの朝ごはんをイメージした温かいスープをsleep coffeeさんのパンとご一緒にどうぞ。

2/16(土)「LOOP CONNECTS+朗読」
アニメーション作家 馬場通友と音楽家 西村周平による映像と音楽のプロジェクト。ループする映像と音のキャンパスに2人が描き奏でる世界をお楽しみください。演目のなかに『モモ』をテーマにした朗読付きの作品もあります。
19時開場_19時半開演 / 2,500円+1dオーダー 
馬場 通友:http://atodi.org/
西村 周平:nishimurashuhei.com
朗読:シミズアイコ

2/24(日)9〜11時「日曜日、冬の朝のウクレレ」1,500円+1dオーダーzerokichiさんの奏でるウクレレをBGMに、温かいドリンクと一緒に日曜日の冬の朝をのんびりとお過ごしください。

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PERHAPS:2019.3/16(土)〜3/24(日) 】
〒840-0054 佐賀市水ヶ江1-2-16
Tel:0952-27-6262・https://perhaps.jp
時間:11:00〜19:00 (最終日は18時まで)              定休日:3/20(水)・作家在廊予定日:3/16.17.23.24

3/23(土)「LOOP CONNECTS+朗読」
アニメーション作家 馬場通友と音楽家 西村周平による映像と音楽のプロジェクト。ループする映像と音のキャンパスに2人が描き奏でる世界をお楽しみください。演目のなかに『モモ』をテーマにした朗読付きの作品もあります。                                19時開場_19時半開演 / 3,000円(1ドリンク付き)
馬場 通友:http://atodi.org/
西村 周平:nishimurashuhei.com
朗読:シミズアイコ

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〜展示会にあたり、覚え書きとして〜

2015年の5月、ミヒャエル・エンデの『モモ』が出版された街、ドイツのシュトゥットガルトにある「GEDOK HAUS」というパブリック・ギャラリーで海外初となる展示会を経験しました。展示会を計画する段階で、子どもの頃から好きだった『モモ』へのオマージュ作品をメインワークとして出すことは決めていましたが、『モモ』がシュトゥットガルトにある「K.ThinemannsVerlag」という出版社から出されていることを知ったのは、シュトゥットガルトに到着して3日後のことでした。当初、展示会をアレンジしてくれた親愛なるドイツ人の友人から、ドイツは著作権が厳しいので展示会で『モモ』へのオマージュ作品を出すことは難しいかもしれないと言われていたのですが、どうしてもあきらめきれずダメもとで日本から持参した岩波書店発行の日本語版『モモ』を彼らにみせたとき、ページを開いてすぐにその版元がシュトゥットガルトの出版社であることを偶然にも彼らが見つけてくれました。それからすぐに古本屋で初版本の『モモ』を探してき た彼らは、まだ驚きを隠せないでいるわたしに向かって“ Wir wünschen Ihnen alles Gute!”と励ましてくれました。そんな不思議な流れに導かれるように「GEDOK HAUS」での展示会は幕を開けました。

「モモのマント」と名付けたオマージュ作品は、カシオペイアという亀をモチーフにしています。カシオペイアは時間の国に住む時間を司る神様マイスター・ホラが遣わしたモモの相棒です。カシオペイアは30分先のことまで予見できる不思 議な亀で、甲羅にほんのりと光るサインを出してはモモに知らせます。“ツイテオイデ” “シンパイムヨウ” “シズカニ” そしてモモを捕まえようとする灰色の男たち(時間泥棒)からモモを守り無事にマイスター・ホラのもとまで導くのです。わたしはこのエピソードにインスパイアを受けてこのマントを作りました。このマントはわたしにとってのカシオペイアです。マントの色、深緑はカシオペイアの色であり森の色でもあります。このマントには大きなジッパーが付いていて大事なものを詰め込んで身体に纏うことができます。そしてマントの背中にこんな刺繍を施しました。

 " Nimm dich in Acht vor Zeit-dieben ” 時間泥棒に気をつけて!

「GEDOK HAUS」での展示会から遡ること半年、2014年の秋、わたしはド イツ人の友人たちと一緒に糸島の森で遊びました。その当時たくさんの仕事 を抱えまるで時間泥棒に追われるような日々でしたが、彼らと森で遊んだあと、たくさんのアイデアが溢れ出し生まれ変わったように元気になりました。糸島の森は素晴らしい世界を与えてくれました。そして思いました。もし、時間泥棒に捕まりそうになったらこのモモのマントを身に纏って森へ逃げよう。森はきっとわたしを助け守ってくれる。もちろんこれはわたしの空想の世界のお話です。しかし、ここにひとつの重要な事実があります。

1945年、第二次世界大戦当時16歳だったミヒャエル・エンデのもとに召集令状が届きます。エンデと同じ少年たちはたった一日訓練を受けただけで兵士として前線に送られ、彼の学友3人は戦死しました。そんな逼迫した状況下で エンデは召集令状を破り捨て、黒い森と呼ばれるシュヴァルツヴァルトの森を夜間のみ80km歩きミュンヘンに住む母親のもとまで逃げ切りました。エンデの生きることへの想像力と黒い森が彼を守ったのです。現在を生きるわたしたちにとって戦争は歴史に刻まれた遠い過去のものです。しかし、わたしにはそれが過去のものだとは思えないのです。それどころか戦争の足音すら聞こえてきそうです。わたしは恐れています。残念ながらこの世界はまだ灰色の男たちに支配されているようです。経済システムという顔をした時間泥棒はひとりひとり の時間をこっそり盗んでいきます。そうこうしているうちに、灰色の男たちはもはや 時間ではなく命を差し出すよう求めてくるかもしれません。そして多くの人がそれに対して無関心を装っています。そんな社会の空気に苛立ち、ぶつけようのない怒りでいっぱいになったわたしは、その怒りでこれ以上自分を傷付けないためにしばらく日本を離れることにしました。

このような当時の思いをドイツ語に翻訳してもらい、モモのマントと一緒に展示しました。結果的に展示会は大成功でしたが、終わった直後からひどい空虚感に襲われました。それはやり切ったという達成感から来るものではなく、これまで自分の原動力となっていた「怒り」に対する空虚感でした。一方で表現としてそれを出し切ったことで、そこから解放され抜け殻のようになってしまったのです。そして、もう二度と怒りを根源としそれに依存するような表現はするまいと決 めました。とっくに気づいていたことですが、怒りの根っこにあるものは「恐れ」です。これまで自分がいったい何に恐れを抱いていたのかを、展示会の後、あちこち旅をしながら自分を見つめ直す時間が必要でした。そんな3ヶ月間のドイツ滞在を終え、まったくの空白というか空っぽの状態で日本に帰国。もう何も作り出せないかもな、それでもいいなとすら思っていたのですが、子どもに戻ったように、ただ純粋に楽しいことや自分の興味が赴くことに素直に向き合っているうちに新しいイメージが自然と湧いてくるようになりました。

それから3年の月日が経った2018年の5月、西戸崎にある「ナツメ書店」さんを訪ねました。元々は時計屋さんだったという築百年の家屋に手を入れ直 し、新たな時を刻み始めたその場所にはナツメさんがひとつひとつ大切に選 んだ本が並んでいました。そしてそのなかに『モモ』がありました。まるでマイスター・ホラがそこでずっと待っていてくれたかのように。その瞬間、止まっていた 時間が再び動き出すのを感じました。そうだ、もう一度『モモ』で表現をしよう。3年前ではできなかった表現がいまならきっとできる。仲間たちとともに。そんな思いを手紙にしてナツメさんに届けました。わたしはようやくマイスター・ホラの 元まで辿り着けたような気がしました。

灰色の男や時間泥棒に恐れを抱いていたあの頃、それらは自分の外側にあるものだとばかり思っていました。でもいまになって思うのは、灰色の男も時間泥棒もすべて自分の内側に存在しているのだということ。だからそれらを排除しそれから逃げるのではなく、モモが時間の花を手に灰色の男たちと向き合い、最後はそれらを消し去ったように。かたく凍っていたひとりひとりの時間が解けだし、あたたかな春の嵐のなかを色とりどりの花々がくるくると空に舞い踊るよ うに。そして、ひとつとして同じものはないその無数の花々が、もともとは大きなひとつの命であることを思い出せるように。いまはそんなイメージを抱いています。

今回の展示会は2019年の1月から3ヶ月に渡り、同じく子どもの頃から『モモ』 が大好きだという戸畑の「café à table」さん、それからカシオペイアのような亀と暮らす佐賀の「PERHAPS」さん、そして今回のきっかけとなった西戸崎の「ナツメ書店」さんの3カ所で開催いたします。それぞれの場所で、仲間たちと一緒に『モモ』にまつわる表現ができることに、時間がまあるく巡るような不思議なご縁を感じています。

“DER WEG IST IN MIR”これは、モモがのろのろとしか歩けないカシオペイアに苛立ち思わず抱きかかえて歩き出そうとしたとき、カシオペイアが甲羅に 出したサインです。そしてこのサインに導かれるかのように、2019年の秋、わたしはカバンたちとともに再び「GEDOK HAUS」を訪れる予定です。

“ DER WEG IST IN MIR ミチハ ワタシノ ナカニ アリマス ”


Cotomono( 今村素子)
福岡市在住。キモチをカタチに…をテーマに、布でいろいろなキモチをいろいろなカタチにしています。これまでに海外を含む各地で展示会を開催しながら作品とともに旅をする日々。布がカタチづくる自由でちょっぴり不思議な世界を。

https://cotomono.wordpress.com

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