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妄想旅行(阿呆乗合)

 「なんにも用事がないけれど、汽車に乗って大阪へ行って来ようと思う」は、内田百閒「第一阿房列車 特別阿房列車」の有名な一節です。
 わたしも内田百閒さんに倣って、「なんにも用事がないけれど、バスに乗って都内の何処かへ行って来ようと思う」
 そう思いついて何処へどう行くか考えてみる。まずお金の心配はいらない。大阪のように遠くはないし、都バスにはお得な一日乗車券がある。それを使えば千円でおつりが来るので、画料の前借り ーしたことは無いけれど、出来るのだろうか?ー などしなくてもいい。
 その一日乗車券にもいろいろ有るようで、二十三区内だけの券,地下鉄などを含む都営全般の券,メトロやJRも乗れる券の三種類があるみたいだ。

 バスの旅を思いついたときには、高田馬場へ電車で出て、そこからバスを乗り継ぎ墨田や千住方面へ行こうかと思っていた。しかし馬場まで出なくても最寄り駅から都バスは出ているのだから、そこから乗ればいいと考え直し、一日乗車券の詳細をよく見ていると「多摩地域」を含むのと含まないのがある?
 何の事かと思ったら、二十三区内は均一料金でそれ以外は距離によって運賃が変わるから、多摩地域を含む含まないに分かれているらしい。
 その多摩地域の路線図を見ていると『都バス最長距離』と『都バス最高地点』という表記がある。
 なんだこれは!?心惹かれるではないか!!

 最長距離のほうは、「花小金井駅北口」を出て「青梅車庫」まで行く、約三十キロ、停留所の数は八一。約二時間の行程。
 最高地点は「上成木バス停」標高約三百十五メートル、青梅から更に奥へ飯能市との境あたりまで行くみたいだ!もうこちらに行くしかない。
 花小金井駅までは自転車で行けなくもないが、電車で行った方がいいだろう。始発は六時四三分。到着が八時三一分。道路の状況で少しは遅れるとしても九時までには着くだろう。しかし青梅車庫前からの最初のバスは十時三九分だから出発をもう少しずらしたほうがよいかも知れない。それなら朝もそんなに早くなく、ゆっくり出発できそうだ。
 始発だと乗り遅れては…と気ばかり焦り、精神衛生上よくないのでこれは助かる。向かった先に用事があるわけでは無いのだから、乗れる時間のバスに乗ればいい。
 そして上成木バス停へ着いて、そのまま乗ってきたバスで帰ればいいのだ。いいのだが、まだ行きもしていないのに、せっかくここまで行くのだから、と言う気持ちが湧いてくる。少し下れば温泉もあるようだし、高水山への登山道も近いらしい。バスに乗ることが目的なのだから、そんな観光旅行の様なことに気を取られていてはいけないのだが…
 未だ切符も購入しておらず、日程も決まっていない妄想の段階なのだし、バスに乗った時点で考えればよいのかも知れない。
 用事もなく ーそう!用事は無いのだ!ー 急ぐ旅でもなし、必ず行かなくては行けない旅でもないのだから…

2023年5月31日(水曜日)


『ЧАЙКА(CHAIKA)-II』木版画 2007年制作。
ロシア製(1967-1972 頃)の35mmハーフサイズカメラ。

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