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まみくとい

 ゴールデンウィークの終わりに長野は須坂、小布施に一泊の旅行に出かけた。

 急に思い立ち出発の三日前にバスと宿を予約。 朝早くの高速バスで須坂に向かった。目的は「須坂版画美術館」と「平塚運一版画美術館」そして小布施の町。

 バスは軽井沢経由で長野市から須坂の手前が終点。道中の軽井沢辺りではまだ辛夷こぶしの花が咲いていた。四月に辛夷がテーマの企画展に参加したばかりだった。制作時は辛夷の花がなかなか見つからず苦労したが、終わってからこんなに見ることができるとは皮肉なものだ。

 東京では終わったハナミズキも満開、遠くには残雪の残る山々が見え、いつもだと寝ている道中を楽しめた。

 百々川どどがわ畔にある美術館はとても素敵なところだった。須坂版画美術館では複数の作家が描いた日本各地の風景版画展「新日本百景」と畦地梅太郎特集。小林朝治記念室では木版画の展示。平塚運一版画美術館では小作品展。どの展示もよい作品を見ることができた。

 特に川や海を描いた木版画に心惹かれた。水のある情景というのは落ち着くのだろうか、このごろは川や海があるというだけで、なぜか安心する。上京する以前、実家は川や海に近く、その頃の記憶が年齢を重ねるとともに蘇り、欲しているのかもしれない。

 十八歳で漫画の専門学校に入学するために上京し、最初に住んだ所は、荒川と隅田川に挟まれた足立区小台。川に挟まれていたが、あまり川として認識していなかったように思う。

 東京という町の刺激の強さと、学校とバイトの忙しさ、実家で見慣れていた自然になんて目が向かなかったのかもしれない。でも何かが足らないとは思っていた。 しばらくしてそれは山が見えないことだと気がついた。

 ここ数年、引っ越しを考えている。引っ越すなら川か海の近くがいい。その思いに、須坂はぴったりの町だった。川が流れ、おおきな公園 -というより森、おまけに動物園つき- がある。歩いて十五分くらいで登れる鎌田山(標高490M)があり。仕事に疲れたら気分転換に山頂まで登り、須坂の町並みや千曲川、遠く北信五岳が眺められる、なんて素敵な事だろう。 本当に引越したいと思う。

 題の『まみくとい』は、斑尾山(まだらおやま) 妙高山(みょうこうさん) 黒姫山(くろひめやま) 戸隠山(とがくしやま) 飯縄山(いいずなやま)の頭文字をとって並べたもので、地元で呼ばれている愛称です。

                           2019年6月19日

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