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2020年11月12日のこと:須藤圭太

読書感想文 No,9
「楽園のカンヴァス」
著者 原田マハ

原田さんの本を読むのは2冊目になる。
本書は画家アンリ・ルソーの作品「夢」を題材にしたミステリー。
ルソー晩年の大作「夢」に秘められた壮大な謎と、それを解き明かそうとする登場人物たちの人間模様がカンヴァスに絵の具を塗り重ねるように鮮やかに描かれる。
テンポよく進むストーリーは絵画や美術の知識がなくても楽しめて、エンタメ性の高い作品だと思う。

本書の主人公は日本の地方美術館で監視員をしている女性とニューヨークのMoMAでアシスタントキュレーターを務める男性。
私も美術館で監視員をしていた経験があって、その点でそれぞれの主人公に共感を持って読みはじめられた。
私の勤めていた美術館は10:00~22:00の営業だったので、長いときには1日12時間も作品と時間を共にする。
本編に「コレクターやキュレーターよりも作品に向きあい続けてるのは美術館の監視員だ」という一節が出てくるのだが、確かにそうかもと思った。
原田さんの物語には徹底した取材から生まれるマニアックな視点が所々描かれていて面白い。

この本を読もうと思ったのはもちろん題材が美術だからだが、前に読んだ原田さんの本が面白かったからというのも大きい。
前回に読んだ「風のマジム」は国産ラム酒製造に携わる人々の奮闘を描いた物語で、読んでる最中から無性にラム酒が飲みたくてたまらなかった。今回も読み終える頃にはルソーの絵の見方が大きく変わったし、絵画を読み解く面白さをまた一つ知ることができた。きっとこの本を読んだ多くの人が同じような経験をしているのではないだろうか。

作家やキュレーターが語る美術のストーリーはリアルだし、力強い。だからこそ一般の人にはなかなか届き難かったりする。(この辺りのことは作家が作品を作る時に最も頭を悩ませるところだと思う)
原田さんのように専門知識もありながら、一般の人にも理解出来るような言葉や表現を操れる人の存在が専門分野(本書であれば美術)の窓口を広げてくれるんだなと改めて思った。


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