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コッツウォルズの4週間

コッツウォルズの四週間(8-3)  
4.第一週週末
 今日はいよいよ初めての週末。予定していたコッツウォルズへバスで出発だ。明け方まだ寝ている五時に、父から電話がかかって来た。母が前日から目が見えにくくなり、その日の朝はさらに見えなくなったらしい。母は私が外国に行く事をとても心配するので、いつも出国する時に、郵便で行く先を知らせるようにしていた。今回も成田空港で日程と国際ケータイの番号を書いたものを投函していたのだった。父は生まれて初めての国際電話をかけたことになる。緊急事態発生に、一週間で帰国する事になるかもしれないと覚悟を決めた。日本はちょうど今日曜日のお昼頃。かかりつけの近くの眼科に連絡するも診察できないとのこと。早速眼科の日曜当番医はどこか調べる。すると鹿児島市内の当番医は有名な評判の良い眼科だった。実家のある大隅半島からは車とフェリーで二時間はかかる。父へ知らせるとちょうど義妹が近くの彼女の実家に帰省していたので、母を乗せて受診に付き添ってくれることになった。外国にいても日曜当番医が調べられるとは便利な時代になったものだ。
 気を取り直して、連絡を待ちながらとりあえず予定通り出発する。何しろ日本からイギリスは一万キロ、地球四分の一周離れている。同じ日に入校したフランス人バレリイとデパートの前で待ち合わせて、バスターミナルへ。土曜日とあってバスは観光客で結構込み合っている。行先は三か所、水の豊かなボートンオンザウオーター、広大な草原の広がるバイブリー、古い教会のあるサイセレンスセスターだ。乗り換えもあり、方向が違うとバス停も反対側になり、曲がりくねった道路ばかりでわかりにくい。バレリイとああでもないこうでもないと話していると、同乗の日本人女性がわかりやすく教えてくれた。彼女はこのコッツウォルズ地方が好きで、もう何回も来ているという。感謝して別れる。

水量豊かな川

コッツウォルズはなだらかな広大な丘陵地帯で、石灰岩が多いために農業には不向きだが羊を飼うには適していて人口より羊の頭数が多く、コッツウォルズは羊の丘という意味だそうだ。またその石灰岩は加工しやすい。そのため石垣がはぐくむ英国の里山と呼ばれ、まるで童話の世界だ。日本でいうと明日香村のように建築制限があり、昔の景観を保っている村々だ。約三百の村があり、世界から年間二千三百万人の観光客が訪れると言う。

サイレンスセスター

ボートンオンザウォーターは、水量豊かな川に橋が架けられていて、コッツウォルズのベネチアと呼ばれている。ほかの村同様、コッツウォルズ独特のはちみつ色の石ライムストーンの切石積みで石塀や住宅、商店が建てられている。バイブリーはバスで近づくと何百年も前の村そのままの切石積みの家々、きれいに手入れされた花壇、通り沿いには美しい緑の芝生があり、映画の中に迷い込んだようだった。バス停からすぐの古い教会の裏には広い草原が広がっている。イギリスでは個人の土地でもハイキングする人たちのためにパスと呼ばれる道が通っており、羊が出ないように作られた柵を通り、通った後は閉めておけば自由に散策できる。広々とした草原、水量豊かな川沿いの小道、最高の散歩ができた。さらにバスで移動してサイレンスセスタ

ーヘ。どの村にも村の中心部に戦争慰霊碑があり、今も戦争での犠牲者が大切に祀られていた。ここにもはちみつ色のレンガを積んだ石塀や住宅、かわいいカフェや土産店がある。カフェに入り、中庭のテーブルにについて休憩した。バレリイはイギリスのクロテッドクリームが大好きらしい。マフィンにジャムと一緒にたっぷりつけていただく。バターをホイップしたもので、イギリス以外ではなかなか手に入らないらしい。
 母の目のことが気になりながらもお茶を楽しんでいると、父から電話がかかってきた。白内障の手術で取り替えた人工レンズを包む膜が濁ったことで起こった症状らしく、レーザーを当てたらすぐに見えるようになったとのこと。どうやって航空券を手配しようかと思っていたところに思いがけずいい知らせだ。ようやくほっとしてバスで帰宅。この日の夕食はラザーニア。

 翌日の日曜日もバレリイと一緒に、バスでブリストルへ。ここはその昔古代ローマ人が築いた港町から発展した街。

街のあちこちにこのような現代アートが見られる

大きな川が流れ、ブリストル城や坂の多い街の至る所に現代アートが目を引く。初めての街をあまり情報も持たずに探検するのは楽しいものだ。まずはブリストル駅からシティセンターまで半時間かけて歩く。住み心地のよさそうな街である。川沿いには倉庫が並び大勢の人が働いていて活気がある。途中見かけたクルーズ船で川巡りする。隣にいた観光客から「ギブミーマネー」と言われ驚いたが冗談だったらしく和やかな雰囲気になった。倉庫街を抜け、緑の多い地区を巡って出発地点へ戻った。船から見上げる街の風景は、車窓から見る風景とは違い目線が低く、川面の波の揺れを伴いまた良いものだ。次は二階建ての真っ赤なバスで市内一周の観光だ。屋根のない二階の席に陣取ると吹く風が気持ち良い。坂の町はまるで美術館かと思うほど壁画の現代アートが素晴らしい。住宅街を抜け、深い谷を越える大きな古い石橋ブリストルブリッジを渡ったところでバスを降りた。私はブリストル動物園へ、バレリイはお城へと

クリフトン吊り橋
マウンテンゴリラinブリストル動物園

別行動をとる。動物園巡りは私の趣味だ。動物の種類や展示の仕方、園内のイベント、それぞれの動物園で違っていて面白い。ここは世界で五番目に古い動物園だそうで、動物たちにやさしい飼育方法で見る方も楽しめる。その後バレリイと合流してバスで帰宅。こうしてホームステイ第一週は何とか無

ブリストルを走る2階建てバス

事に終わった。渡英前こんな楽しい一週間になるとは全く想像していなかった。学校は生徒が毎日顔を合わせだんだんと親しくなる。学校に通いながらのホームステイを計画して本当に良かった。
(この文章は2013年5~6月のcotswalds滞在記です。毎月1回投稿します)

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