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コッツウォルズの4週間

コッツウォルズの4週間 (8-2)
三. 登校第一週
翌朝は早速登校だ。前夜も遅く到着して、初めての環境であるが、滞在保険の関係で翌朝からちょうど四週間の通学、そして最終日翌日には帰国しなければならない。
初登校はホストマザーのジリーが車で学校まで送ってくれた。学校はチェルトナムの中心部にある。学校の受付で名乗ると、本日入校予定のバレリイと一緒にレベル分け試験を受けるように言われた。試験は出来るところまでやる方式だ。初めて受ける試験。初めのうちは基礎なのでスイスイ進み、だんだんと一問一問に時間が掛かるようになる。考えてもわからなくなったら手を挙げて、退室する。試験の後、同じ入校日となった初めて会ったバレリイと近くのコーヒーショップへ行ってお茶にする。フランスツールーズからやってきた、薬品会社営業マンの彼女は、英語は普通に話せる。フレンドリーな感じで、早速友達になれて良かった。彼女の二週間の英語研修は、会社に希望して費用は会社負担らしい。
 クラス分けの結果は、私は普通クラス、彼女は上級クラスで別々になったが、この後も頻繁に会うことになる。翌日の授業の時間を確認していると、同じホームステイ先のオクサナがランチに誘ってくれた。前夜ホームステイ先で紹介されたばかりだが、親切だ。カフェのある本屋さんで、彼女のスイス人のクラスメートライアも一緒だ。少しづつ知り合いが増えていく。右も左もわからない所でありがたい

クラスメイトと先生
クラスメイト

その日は帰りのバスに一人で乗り、最寄りのバス停で降りることができた。そこから今朝の車窓から見た記憶を頼りに、ホームステイ先へ向かう。順調だと思ったのだが、細い道に迷い込む。そこへ年配の女性が犬の散歩に現れた。住所を見せて道を尋ねるが、所番地では無理そうで、結局彼女の、ホームステイさせているならあのお宅だろうという勘を頼りに連れて行ってくださった。初日迷子になったが運が良かった。 その日の夕食はキッチンテーブルで、ホストファーザー、ホストマザー、オクサナと私で、はじめての全員そろっての食事。ホストマザーのジリーは部屋を見事に飾り、テーブルセッチングも素晴らしい。美しい一人用のランチョンマットにおそろいの模様の紙ナプキンがグラスにセットされている。今夜の夕食はチキンカレー、マンゴーチャツネ添え、シンガラ(三角の餃子を揚げたようなもの)。学校のホストファミリーのルールで成人には赤ワイン一杯がつき、ホストペアレントが今日一日の話を聞いてくださる。八時の夕食で、食後はすぐに入浴、ホストファミリーは九時には就寝らしい。無事に登校一日目が終わる。登校二日目、この日からオクサナと一緒に登校する。彼女は、ウクライナ出身の三十代。ウクライナ語から英語への同時通訳もできる彼女は学校ではビジネススクールの方に在籍していた。ホームステイ先では、先に来ている方が、後から到着した生徒を学校まで案内するのがこの家の伝統らしい。 朝食は八時、済むとすぐに登校だ。道々自分の事をそれぞれ話す。道はまっすぐでなく、覚えるのは難しそう。要所要所のガソリンスタンドや大きな建物を覚えながら歩く。彼女はウクライナの首都キーウに住む。女の子が一人いて、彼女は働いているので、自宅にはお手伝いさんと、宿題まで見てくれるナニーを雇っているとのこと。平日はキーウのマンションで暮らし、週末は郊外の畑付きの一軒家で過ごすとのこと。ところ変われば暮らしは全く違うようだ。途中美しい房になった花がたくさん咲いている。彼女が近づいて、この花はライラック、私の国にもたくさん咲いていると教えてくれた。それがとても印象的で私もこの花のことは一度で覚えてしまい、見るたびに懐かしく思い出す。学校まで徒歩二十五分。学校のある繁華街が近づくと広場があり、そこには曳きたての珈琲を売るおしゃれな軽ワゴン車がいて、二人でダブルミルクのカフェラテを注文し、飲みながら学校へ向かう。学校に着くとそれぞれのクラスへ。私のクラスの担任はイギリス人のウィル、クラスメイトは五名。オマール,、タイ、スイス、クエート、アラブ首長国連邦からの年齢も国も異なるメンバー。名前の綴りがわからないので皆にノートにそれぞれ名前を書いてもらった。授業はテキストを使って、進んで行く。二人組になったりするので、生徒同士も徐々に親しくなる。自己紹介では、Facebookを持っているかを聞かれて答えると、タイ人のシティパンが、すぐに私のエレキギターの発表会のステージ動画を探し出して皆に見せたので、一気に皆に覚えてもらえ、和気あいあいとした感じになり、私も緊張が少し溶けた。趣味をやっていて本当に良かった。まさかこんなところで役に立つとは思わなかった。 授業は八時四十五分から二限で中に休憩をはさんで十二時十五分まで、休憩時間には、自販機でコーヒーを買って談話室のソファで飲むこともできる。
学校の前にあるスエーデン料理店SVEA
スエーデンランチ
店内はかわいらしい雰囲気

 その日のランチは学校の前にあるスウェーデン料理店SVEAで初めてのスェーデン料理を楽しむ。SVEAはスェーデンでは女の子としては一般的な名前らしい。とても可愛らしい家庭的な飾りつけで、料理は魚メインにいろんな野菜を添えてあり日本人にも合う味付けだ。学校が繁華街にあることもあるが、このチェルトナムという町は温泉があることもありジョージ三世が、保養地としてよく訪れた街だという。人口十万ほどの街なのに、中心部にはモンペリエと名づけられたおしゃれな通りがあり、世界各国のレストランが揃っている。美術館と見まごうほどの素敵な劇場も学校の隣の通りにある。日本人の好きな田園地帯にあり、古い英国の伝統が残る所を選んだのに、そんな街でもあったとは、後から知った。帰りはハイストリートと名付けられた通りを歩き、絵葉書と切手を購入。通りを歩いていると、何かぶつけられた気がした。そしてもう一度。見ると通りの向こう側の歩道からマーブルチョコを私に向けて投げる男の子がいる。対処法はわからないが、白人ばかりのこの町で、両親からアジア人差別の意識を受け継いでいるのだろうか? この事は後日ホストペアレントに話したが、もうそれ以上はそんな事はないでしょうという返事だったのだが、稀な例だったのかもしれない。その日もバスで帰宅。今度は迷子にならずほっとした。            

夕食は、リンゴの飲み物、白い大きな角皿に真っ白く大きなソーセージと付け合わせのポテト、玉ねぎときゅうりのサラダ。イギリスに滞在しておいしいパンを期待していたが、夕食はパンの替わりにマッシュポテト・ローストポテトが交互に出るようだ
だんだんと授業以外の様子もわかってきた。学校の受付のアネッテに近くの劇場の現在上映中の演目を尋ね、ディズニーの美女と野獣とわかった。来月チェルトナム競馬場であるミュージックフェスティバルのチケット購入方法を尋ね、さらに週末の学校主催のエクスカションについても尋ねた。バスではなく八人乗りのワゴンらし。いよいよ初めての週末が来る。四週間なので、週末は三回。うまく計画して悔いのないようにと考えた。初めての土曜日はコッツウォルズ地方のメインの観光地ボートンオンザウォーター、サイレンスセスター、バイブリーという三つの小さな村を訪れる日帰り旅。バレリイと行く事に決めた。観光案内所に行きバスの路線図、時刻表をもらった。バレリイは午後も授業があるので、私が1人で行ってみる。年配のスタッフが息子は日本に住んでいるので何回も日本に行った事があると話してくれた。そう言えば学校の校長先生も夫は種子島出身とかで、Makiseさんだった。意外に日本と関連のある人がいるものだと思った。
登校3日目、担任のウィルがお休みで、代わりのサイモンが教えてくれる。同じテキストで授業が進む。授業中にケータイ電話が鳴り、何か話している。明日は引越しだそうで、緊急連絡らしい。この日のクラスは高校生のソフィーの隣に座る。彼女は両親の勧めでスイスから留学してきたと。タイ人のシティパンは休憩時間に学校近くにあるタイレストランを地図を描いて教えてくれた。
 

パブでのシェアしたランチ

ランチはバレリイのクラスメイト、イタリア人のステファノが企画したパブでの会食。一人では入りづらいパブにも安心して行くことができる。パブの料理は量が多いのでシェアする事に。こんなやり方も初めてだ。ステファノはせっかく世界中から生徒が集まっているのだからと、このランチ会を企画しているという素晴らしいアイデアだ。この日のメンバーは他にスイスと台湾から。この後もたびたび参加するが、私がこの日初めてなら、毎週入校してくる生徒は、必然的に後輩となり、この素敵なランチ会のことを伝えていくことになる。
 放課後日本人のユウコとハナと出会う。ユウコは秋からイギリス南部のイングリッシュガーデンでガーデナーになるため一年間の修行に入るという。すでに大学と修士課程を日本で終え建築士の資格も持つ彼女は、修行後はガーデンの設計をし、植える植物も決めるという大きな夢を持っていて実現の途中だ。 
ハナは大学生くらいの年齢。鼻の調子が悪く、留学生保険を使って、クリニックを受診して薬が欲しいと学生係に相談に来ていた。スタッフはイギリスのクリニックは風邪くらいでは処方もないので受診しても無駄だからとにべもない。私は手持ちの風邪薬を少し渡した。
 三時過ぎ、バレリイの授業が終わるのを待って、素敵なカフェを探しに行く。すると古い教会の近くにようやく見つかった。カフェの名前はCheltenham Dandy素敵な響き。名前に負けない素敵な雰囲気。そこで初めてのハイティーを楽しむ。良く見る三段のトレイにサンドイッチ、クロテッドクリームとジャムが添えてあるマフィン、そしてフルーツ。お茶は、私はクラシックティーを選んだ。友達がいてこそできるハイティー体験ありがたい。その日もバスで帰宅。
その日の夕食はグリルチキン、ポテト、コールスローサラダ。朝食はキュアード

朝食

ハム、ポテト卵、ヨーグルトだった。
 いろんなことがあって、疲れを感じて髪も洗わず熟睡。
登校四日目、寒い日もあると聞いていたチェルトナム、この日は五月中旬と言うのに小雨も降っていて気温十三度、持参した厚手の上着を身につけさらにレインコートも羽織るほどの寒さだった。毎日晴れの日でも、短い時間だが小雨が降る。緑の美しいこの町。程よい湿り気がこの美しい風景を保っているのかもしれない。
 
授業では使っているテキストの出版元マクシミリアン・イングリッシュ・キャンパスへのアクセス方法を習い、帰国しても継続して勉強を続けることができることが分かった。お昼は、また数人でトルコ料理店へ。素敵なレストランが学校周辺にありありがたい。この日の午後は、帰り道にあるザ・パークと言う公園に寄ってみた。ホームステイ先の住所もザ・パークで州立大学の敷地と地続きのようだ。ここは広々とした美しい芝生広場があり、ベンチがあちこちにあり、起伏のある公園。大きな池もあり散歩やくつろぐにはとても良い場所だ。ちょうどガンの群れが孵ったばかりのひなの子育て中だった。その後毎週訪れたが、ひなたちはぐんぐん成長し四週後には親と変わらない大きさになっていた。鳥の成長は早い。また片隅には大きなツワブキも群生していて、日本人の私には、この国の人が食べないことが不思議に思えた。
 この日の夕食は、ソースのかかったローストビーフにポテト、ヨークシャープディング。ヨークシャープディングは卵の多いもちもちした触感の塩味のパンのようなもので美味。肉食文化のイギリスだがビーフがでたのはこの日一回きりだった。やはりこの地でもポークやチキンに比べればビーフは高い。 この日の話題は、熱心に教会に通う人が少なくなり、閉鎖され、売られた教会があり、そこはピザレストランとして再生し、説教が行われていた台がピザを焼く台になっているとか。驚いたが、今時ありそうな話だなとも思う。
 登校五日目。この日もオクサナと登校。授業ではテキストに従い就職試験のロールプレイを行った。また初めて知ったのはクリスマスの翌日を、ボクシングデイと呼ぶこと。クリスマスにもらったプレゼントを翌日箱ごと恵まれない人にプレゼントするのだそうだ。素敵な習慣だ。
 放課後はバレリイと待ち合わせて、北部にあるピッツビルパークまで足を延ばした。近くに水量の多い川があり、池があり、子育て中の白鳥もいる。九州では見ることのできない白鳥が目の前にいて、醜いアヒルの子ではない、グレーの白鳥の幼鳥がそのあとに数羽続く。まわりは緑に囲まれて夢のような光景だ。広い敷地にテニスコートや競技場、歴史のある美しい建物はダンスパーティやコンサートも開かれるらしい。この日もたくさん歩く。帰りはマークスアンドスペンサーという店でチョコとナッツ、ネクタリンを買って帰る。衣料靴食品まで独自ブランドの品が多くあり、品数がお豊富だ。この店でハンカチ好きの私は、ヨーロッパなら日本よりより良い柄のハンカチがあるのでは何回か探した。後日ホストマザーのジリーに聞くと、イギリスではハンカチは小さな白いものしかなくあまり使わないとか。したがって美しいハンカチは売られていないことが分かった。洗濯は毎日ジリーがしてくれる。ひさみのハンカチはジパンシーやサンローランとブランド物できれいねと褒められた。そこで彼女にプレゼントするなら日本で販売されるハンカチをと心に決めた。
一階にある洗濯室も見てみる?と案内された。洗濯機でお湯で強い洗剤を用い洗う。したがって繊細な生地は傷みやすいし、色落ちもしやすい。そのまま乾燥させ、必要なものはその場でアイロンをかけるようだ。
この日の夕食はサーモンにマッシュポテトとグリンピースの付け合わせとワイン。
登校一週目がようやく終わり、明日はいよいよ初めての週末だ。学校というところは毎日顔を合わせるので年齢が違っても友達になりやすい。こんな風にいろんな国の若者と知り合い語りあう毎日になるとは思いがけない収穫だ。イギリスでのホームステイ、人生で初めて何が起こるかわからない毎日の連続。緊張もあるが嬉しいことの多い日々、楽しんで過ごしていこう。
(この文章は2013年5~6月のCotswalds滞在記です。毎月1回投稿します)


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