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こいのはなし

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恋の予感。あるいは残滓。
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Ever losing memories.

Ever losing memories.

彼女と別れてから、3年近く経った。

「別れても、友達だからね。多分、映画とか、音楽の趣味があなた以上に合う人なんていないから、これからも付き合ってね、友達として。」と、陳腐な台詞を言い放ったのは彼女の方だった。

僕は正直なところ、会えば、抱きしめたくなるだろうし、キスだってしたくなるだろうし、それに言うまでもなく、それ以上のことを望んでしまうだろうし、無理だよ、無理!って、思ってた。

国語の

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Last two letters..

教室を後にして、色紙の寄せ書きと、皆からの手紙が入った大きいA3サイズのマチ付きの封筒を手にして、僕はバスに乗った。

寄せ書きは、真ん中に円い余白を残して、そこに僕の名前と、クラスの3Bという文字がカリグラフィーというには稚拙すぎる、しかし気持の入った装飾文字で描かれていた。

バスに揺られながら、汚い字の男子のあたりから眺めだしてゆっくりと、女子の書いた文字の方へと色紙を回転させながら読む。男

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何のまえぶれもなく。

季節が換わったので、今日は夏用のスーツを今シーズン初めて着た。お気に入りの服を身にまとう女子が、少し自分がきれいになったと思うように、今日の僕はいつもよりも背筋が伸びて、清潔な印象を与えているのだろう、と勝手に思っている。

仕事が終わり、僕は井の頭線を降りて吉祥寺で中央線に乗り換える前にちょっとだけアトレに立ち寄った。アトレはJR東日本の子会社が経営しているショッピングモールだ。

お菓子のスタ

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久々のふたり

自分が晴れ男か雨男かしらないけれど、久々のその日は晴れていた。

南青山の美術館の前の車が往来する都道413号線がゆるやかに北東に折れるあたりからひょいと一本裏通りに入る。

緑の多い、窓の大きな建物に入ると、正面には階段があって、右手にはぎっしりと本が詰まった書架が、右手には一段下がった空間が広がっていて、真ん中に木製のテーブルがおいてある。

そこに久々の僕らは並んで座ってメニューを見た。

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SABI TETSU ONANDO

SABI TETSU ONANDO

《小説》

キキは言った。

"Why don't you smile a little bit more happily when you see me?"

言った、と書いたけど、正確には「多分、そんなことを言った」というところだ。僕はボーっとしていたし、キキはリスがドングリをカリカリと齧る(実際のところリスがドングリを食べるのかどうか僕は知らないけれど)ように、スタタタタ、とスタッカートが効

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