かけひき

《小説》

ユキは言った。

「この前、あなたが言っていたことについて考えてみたの。」

「どんなことだっけ?」

「あなたは、女の人と知り合って、少し言葉を交わすと『ああ、いつかこの子とするなぁ』とか『かなり仲良くなるけどきっとすることはないなぁ』ってのがわかって、これまでそれは外れたことがない、っていう話。」

「あぁ、その話か。うん、実際にそうだからね。」

「でも、確かにその相手とつきあうかどうかが直感的にわかるっていう話は聞いたことがあるかも。」

「つきあうかどうか、っていうのは色々と面倒くさい要素が絡むから、予言するのは難しいんだよ。でも”する/しない”っていうのは、生理的な感覚プラスちょっとした好き嫌いとか相手の目つきとか話し方でだいたいわかるんだ。」

「じゃぁ、私とはいつかすると思う?」

「うん、絶対にするよ。」

「えっ、そ、そうなの?」

「ハハハ、そうやって言うとね、もう君の潜在意識に刷り込まれちゃって、僕とすることを意識しだすんだよ。今後僕と会う時は君はいつも可愛い下着をつけるようになるし、そうすると君のアタマの中にもう僕が居座ってしまって、全然僕のことなんてタイプじゃなかったはずなのに、もう考えずにはいられなくなるんだよ(笑)」

「随分と自信があるのね。」

「自信じゃなくて、ある種の洗脳だよ。つまり、深い仲になりたい相手には『きっとすることになる』って言って、ちょっとねぇな、っていう子には『ならないね』って言うと、女の子は段々自己催眠でそれに誘導されてくるんだよ。」

「なにそれ?(笑)」

「だって、”しない”っていう予言は、やった瞬間ハズレだけど、”する”っていう予言は、するその瞬間まで、またはどっちかが死んでしまうまでは当たりの可能性を秘めているからね。相手の女子の気持ちがいつ何時変わるかわからないじゃん。だから好みのタイプの子には『きっとするよ』って言うんだよ。するかどうかの決定権は結局女の側が握っているからね。」

「そうなんだ。」

「そうだよ。」

「でも、アタシはあなたとはしないわよ。」

「じゃぁ、何で今日もすごく可愛い下着を付けてきたの?」



と、ペーターはハイジの家に着くまでの間に、他のヤギに悟られないように、子ヤギのユキとこっそりとこんな会話をしているところを妄想して歩いていた。

「メェェ〜」

ユキが啼くと、首輪につけている小さなカウベルがカランとひとつ鳴った。

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