久々のふたり

自分が晴れ男か雨男かしらないけれど、久々のその日は晴れていた。

南青山の美術館の前の車が往来する都道413号線がゆるやかに北東に折れるあたりからひょいと一本裏通りに入る。

緑の多い、窓の大きな建物に入ると、正面には階段があって、右手にはぎっしりと本が詰まった書架が、右手には一段下がった空間が広がっていて、真ん中に木製のテーブルがおいてある。

そこに久々の僕らは並んで座ってメニューを見た。
久々の彼女はブレンドコーヒーを頼んで、久々の僕は桜のフレイヴァーがつけられた珈琲をたのんだ。

僕に与えられたこの時間はわずかに1時間足らず。
1時間もすると、ジャズクラブに戻らなければならない。
ぐるりを囲む書架に背を向け、入ってきた方、白い階段に向かって座って、僕らは久々に互いの声を聴いた。

右手には窓があってその外の緑の香りをまとった風がゆるやかに僕らの頬を撫でては通り過ぎて行く。

 ちょっと、体重絞ったみたいね。
 今度はどんな仕事をしているの?
 元気にやっているの?
 彼女は出来たの?

久々の僕は、本当は彼女と彼女の彼氏がその後も上手くやっているのか?とか、そろそろ結婚の話が出ているのか?なによりも君は幸せにしているのか?なんてことを聞きたかったのだけどそこはグッと抑えておくびにも出さず本棚を眺めていた。
そしたら、矢継ぎ早に質問をして来たのは久々の彼女の方だった。

線の細い、上品な話し方をする店主が、2種類のCoffeeを持って来てそれぞれについて丁寧に説明してくれた。その間だけ、久々の僕らは口をつぐむ。

窓の外から鳥の囀りがわずかに聞こえる。

僕の珈琲には確かに桜の香りがし、口の中に春がやって来た。

彼女のコーヒーは、あの脳内に何か素敵なことを広げるようなコーヒーのアロマが満ちていた。

初めての本屋で、初めてのCoffeeを飲む、久々の僕ら。
4月のとある週末。
東京、南青山。
天気、晴れ。

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