Last two letters..

教室を後にして、色紙の寄せ書きと、皆からの手紙が入った大きいA3サイズのマチ付きの封筒を手にして、僕はバスに乗った。

寄せ書きは、真ん中に円い余白を残して、そこに僕の名前と、クラスの3Bという文字がカリグラフィーというには稚拙すぎる、しかし気持の入った装飾文字で描かれていた。

バスに揺られながら、汚い字の男子のあたりから眺めだしてゆっくりと、女子の書いた文字の方へと色紙を回転させながら読む。男子は黒か青のボールペンで書いているのがほとんどだけど、女子は紫とかピンクとかオレンジのインクで色々と書いている。

「仙台に行っても頑張れよ!」だとか「サッカー頑張れよ!」、「絶対に3Bを忘れるなよ!」というのが男子の典型的なコメント。皆、「よ!」で終わっている。

女子の方も、お元気で、とかギターを止めないでくださいね、とかたまには盛岡にも遊びに来てください、という感じだった。

まぁいい。色紙は当然みんなが書く時に、他のクラスメイトにも自分のコメントが読まれることをみんな意識している。だから余所行きのコメントばかりだ。

今回、色紙とは別にそれぞれがカードとそれが収まる小さな封筒にもひとことメッセージを書いたそうで、それをまとめて大きな封筒に入れて渡してくれたのだ。

どれも、裏はシールで簡単に留めてあるので、ハサミが無くても僕はひとつひとつ開けて読むことができた。

男子の手紙は、ほとんどが色紙と同じ内容。「書くことねーや」って奴もいた。まぁ、想定の範囲内だ。

女子の手紙。クラスの中に僕のことを好きな子が3人いるのは知っていた。ナツミとサヤコとユウだ。大体どのクラスにもそういうことをおせっかいにも教えてくれる、オバちゃんキャラの女子がいるものだ。僕の場合もクラスのチアキが教えてくれた。

ナツミは、「夏になったら仙台の親戚の家に泊まりに行くのでチャンスがあったら会いましょう!」って書いていた。65点。

サヤコは、「仙台には盛岡にないキルフェボンの支店があるから、高校の夏休みに食べに行くね。その時はデートしようね!」って書いていた。75点。

ユウは、「文化祭の時、フォークダンスでタケシ(僕だ)との順番が来るのをドキドキしながら待っていたら、2人手前で終わってしまったのだ残念でした。大学は東京に行くのかな?仙台の大学にするのかな?
私も同じ街の大学に行こうかな?でも、その頃には彼女ができてるかもね。」って書いてあった。85点。

そして、僕は一番最後まで残してあった、白い封筒を手にした。僕が唯一想いを寄せていた、ミカの手紙だ。

彼女は、僕が転校してはじめての席の隣に座っている女の子だった。教科書が届くまでの一週間の間、僕は彼女の机に自分の机を寄せて、教科書を見せてもらっていた。近くによると、窓から吹き込む風が流れるたびにシャンプーのいい匂いがした。

僕は再び転校するまでの一年半の間、ずっとミカのことが好きだったんだけど、彼女に対しては全くそんな素振りも見せずに過ごしていた。ミカは170cmの僕よりも背が4cmも高くてバスケ部のエースだった。彼女よりも少しだけ背が低い。そんなつまらないことで僕は今ひとつ引け目を感じていた。

彼女も、席替えがあって、班が別れてしまってからは、僕の存在なんかそこにないみたいに、話しかけてくることもなく、僕からも話しかけることもなく、ただ時間だけが過ぎていった。

ミカは先ほどの色紙には、「これからも頑張って下さい」とだけ書いてあった。

ドキドキして、ミカからのカードが入った封筒を開いて、二つ折りのカードをゆっくりと取り出した。


あれ?

なにも書かれていない。

真っ白なカードだった。

マジ?って思い、裏表みたけれど、何も書かれていなかった。。。0点。
いや、僕そのものが0点だ。

窓の外を通い慣れた風景がものすごい速度で後ろに流れていく。もう二度と戻らない時間のように。

5秒ぼーっとしてしまった。
僕は何を期待していたんだろう?

がっかりして、カードをまた2つに折って、封筒に戻す。

ふと気付く。
カードで隠れていた封筒の内側の真ん中に小さな文字が踊っていた。





               ばか

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?