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史上最もシグネチャーモデルが売れたギタリスト(Les Paul)

Gibsonというブランド名を聞いて、まず初めに思い浮かぶ単語はLes Paulだろう。
最近楽器の業界に全く関係のない方々と話す機会がよくあるのだけれど、その度に、「あぁエレキギターといえばGibson、GibsonといえばLes Paulですね」と決まり文句のように言われる。

全然ギターを弾かないような方にも、Gibson Les Paulという単語は知られているようで、「Gibsonの〜、あのー、なんでしたっけLes Paulでしたっけー」というような感じで、お茶の間にもなんとか市民権を得ているようだ。おそるべしGibsonのマーケティング、恐るべきブランド浸透度。

しかしながら、Gibson Les Paulの「Les Paul」というモデルが、あるカントリーギタリストのシグネチャーモデルであるということは比較的あまり知られてはいない。もし、知っていたとしても、Les Paulの音楽を聴いたことがある方は何割ぐらいいるだろう。

Les Paulはギタリストであり、発明家である。ギタリストとして、滅茶苦茶上手いのだが、その傍らソリッドボディーのエレクトリックギターを「発明」したり、多重録音を開発したりとにかく凄い才能の方なのだ。

Les Paulは2009年に94歳で亡くなっている。最晩年までNew Yorkの「Iridium Jazz Club」というライブハウスで毎週月曜日(!)演奏していた。このIridium Jazz Clubでのライブには、多くのスペシャルゲストが参加しており、YouTubeにもいくつも動画が上がっているので見ることができる。さすが生涯ステージに立ち続けたLes Paul、余裕の表情で溢れ出すかのように美しい音楽を奏でている。

私の友人が友人が2000年代の終わり頃(Les Paulの最晩年)にNew Yorkに遊びに行った際にIridiumでLes Paulを聴いてきたと頻りに自慢していた。まるで福山雅治を生で観てきたというぐらいキャッキャと自慢してくれた。
Les Paulは若い女性にも人気だったのだろう。(わからない)

Les Paulのギターサウンドはクリーンで、粒だちがよく、キラキラしている。使用しているギターは年代によって仕様が異なるが(GibsonからLes Paulが発売されてからは生涯を通してLes Paul Modelを使っていたようだが)彼のギターサウンドは変わらない。
相当、クリーンのサウンドにこだわりがあったらしく、自分の思ったクリーンでキラキラした透明な音を出すために、ギターのピックアップマイクをしょっちゅう交換していたようだ。50年代の映像ではGold TopとLes Paul Customを持つ姿が残っているが、晩年は特別仕様のLes Paul Recording Modelを使っていた。

Les Paulの音楽は、先ほどカントリーと書いたが、Jazzの影響を強く受けており、彼自身は自分をジャズ・ギタリストと定義していたのかもしれない。アドリブ・フレーズも一般的なカントリーリックを繰り出すのではなく、彼独特の旋律が繰り広げられる。そのテクニックは素晴らしく、クリーントーンであれだけ正確な早弾きフレーズを弾けるのは、彼の他には加山雄三ぐらいなのではないだろうか。

50〜70年代にわたり、数多くのリーダー作をリリースしているのだが、まず初めに聴くべき一枚は、何と言ってもChet Atkinsとの共演盤”Chester And Lester”だろう。スーパーギタリストの二人が左右両チャンネルから怒涛のアドリブ合戦をくり拡げる。ギタリスト以外のリスナーでも十分楽しめるし、カントリーを普段聴かない人でも楽しめるアルバムに仕上がっている。
途中、ジョークを言い合ったり、お互いのフレーズをコピーしあったり、なんとも楽しい内容である。

シグネチャーモデルのギターは多いが、他のアーティストのシグネチャーモデルのベースになるシグネチャーモデルが出ているのはLes Paulぐらいなのではないだろうか。

私は、復刻版のLes Paul Recordingを一台所有しているけれど、オリジナルのLes Paul Recordingのような音ではなく、ちょっと太めの音のスタックドハムバッカーが搭載されている。このギターに関して言えば、その音ではなく、この見た目が欲しくて所有しているのだから、全く文句はない。

ただ、いつの日か、Les Paulとお揃いの白のLes Paul Recordingを所有したいと思っているのだが、近頃はめっきり高価になってしまい60万円以上になってしまった。ちょっと前まで20万円台で買えたのに。

余談だが、Les Paulの死後に、Les PaulのサイドギタリストだったLou PalloのシグネチャーモデルがGibson USAから発売された。ブラックトップ、ナチュラルバックのボディーに、ブロックインレイの指板、フロントにP-90、リアにDirty Finger(!)ピックアップをマウントした、なんともカッコイイ、個性的なギターだった。完全限定生産で、日本にはほとんど流通しなかったけれど、あれは良いギターだった。

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