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Pedal Steel Guitarという楽器を定義したBuddy Emmons

今回は楽器の話というよりは、Buddy Emmonsについて書きたい。

私はPedal Steel Guitarという楽器がとても好きである。自分でも何台かは所有しているが、ほとんど演奏できない。断続的に練習をしているのだけれど、一向に上手くならない。まあ、断続的だから仕方ない。
しかし、Pedal Steel Guitarという楽器は他の楽器では出せない唯一無二のサウンドを持っているだけでなく、ペダル・スティールギターがバンドに入るだけで、一気にカントリーミュージックのテイストが加わる不思議な楽器である。

バンドにフィドルが入ったり、バンジョーが入ったりすると、なんだかブルーグラスやらフォークの香りが漂ってくるが、ペダル・スティールの場合100%カントリーミュージックのサウンドになる。

試しに、パンクバンドにPedal Steel Guitarをメンバーとして加えてみてほしい。(そんな酔狂な奴はいないか)
必ず、そのバンドはカントリーパンクバンドと化す。
そのぐらいPedal Steel Guitarのサウンドは強烈なのだ。

けれども、上記の通り、Pedal Steel Guitarは習得が難しい楽器である。どのぐらい難しいかというと、それはそれは筆舌に尽くしがたいほどである。まず、教則本の類が圧倒的に少ない。これはもう、Fuzzy Steel Guitar Productsが主宰しているJapan Steel Guitar Associationに入会して会報を熟読するぐらいしかない。さもなくば、輸入楽譜のお世話になるしかない。

幸いDewitt Scottがなかなかわかりやすい教則本を出しているので、E9チューニングの習得は独学でも無理というわけではない。この教則本も分厚い割にはごく初歩的なところまでしか習得はできないけれど。

教則本がないことと、身の回りにPedal Steel Guitarを弾く人がほとんどいないであろうから、誰かに教えてもらうことができない。

運よく身の回りにPedal Steel Guitarを弾いてる方がいる場合は、絶対に今のうちに奏法を教えてもらったほうがいい。絶対に。もし音楽に興味がなくて、「私はお裁縫にしか興味がありません」という方も、3親等以内にPedal Steel Guitarを弾いている方がいたもんなら、もう、その人との上下関係は忘れて、その方に頭を下げて習った方がいい。さもなくば、日本からPedal Steel Guitarのプレーヤーはいなくなってしまう。

先ほど、E9チューニングの奏法は教則本で基礎を知ることはできると書いたが、厄介なことにPedal Steel GuitarにはE9チューニングのネックとC6チューニングのネックがある。大抵はE9だけの楽器か、E9とC6のダブルネックの楽器である。

C6チューニングに至っては、教則本の類は皆無である。なぜ、無いのか!!けしからん!!というぐらい無いのだ。

しかし、C6チューニングのPedal Steel Guitarではジャズのコード(複雑なテンションコード)を色々と鳴らすことができる。トップノートでメロディーラインを弾きながらそれに合わせたコードを鳴らすということが理論的には可能なのである。(私にはできないが)

「E9ネックは聴衆を踊らせることができて、C6ネックは聴衆の涙を誘う」と俗に言われているぐらい(教則ビデオでPaul Franklinがそう言っていたような気がする)、E9とC6の使い分けがキモになっているのである。

そこで、出てくるのがBuddy Emmonsだ。
実は、彼こそがこのE9チューニングとC6チューニングをPedal Steel Guitarに採用し、今でもそれがスタンダードになっているのだ。そして、今日のPedal Steel Guitarの原型であり完成形は、彼が確立させたものなのだ。

Buddy Emmons以前にもPedal Steel Guitarプレーヤーはいた。Speedy Westなんかがその代表例だろう。Speedy WestはギターのJimmy Bryantと共に物凄いテンポと物凄いグルーブでカントリーミュージックを奏でていた。

しかしながら、Buddy Emmonsが出てくるまでは、彼らのセッティングは「秘伝のタレ」のようなもので、プレーヤー本人しかわからなかった。チューニング然り、ペダルとニーレバーの組み合わせ然り、プレーヤーによって十人十色だったのだ。

しかし、Buddy Emmonsは違った。キャリアの初めこそ、彼も色々な楽器を駆使して(FenderのModel 800とかModel 1000とか)演奏していたのだが、彼は同じくスティールギタープレーヤーのShott Jacksonと共に楽器ブランドを立ち上げる。Pedal Steel Guitarの専門メーカーSho-Budだ。

それで、自分と同じセッティングの楽器を生産し、Sho-Budは後のPedal Steel Guitarのスタンダードでクラシックになる。

1963年にSho-Budの何が不満だったのかはわからないが、Buddy EmmonsはSho-Bud社を去り、また自分の楽器ブランドを立ち上げる。Emmons Guitar Co.だ。
Buddy Emmonsはなんとも起業家スピリットが旺盛な方だったのだろう。なんせ、Pedal Steel Guitarという楽器の奏法を一から完成させた人間である。彼にはなんでもできる。

私も、スチューデントモデルではあるがEmmonsの楽器を一台持っているのだが、Emmonsこそ、Pedal Steel Guitarのホームラン王である。Pedal Steel Playerの総てがクラシックと認める楽器こそSho-BudとEmmonsだ。
Emmons Guitar Co.は最近またPedal Steel Guitarの生産を始めたので、いつか私もそういう高級楽器(日本円で150万円以上相当!!)を手に入れて、バリバリ弾けるようになりたい。

Buddy Emmonsの演奏をじっくり聴きたい方は、彼のライブ盤を強くお勧めする。
1977年9月3日に開催されたInternational Steel Guitar Conventionでの実況録音盤である。タイトルはシンプルに”Live 77"
これこそ、Buddy Emmonsの決定盤である。


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