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雨の午後に聴くアルバム

今日は昼頃から一時間ぐらい雨が降った。
これは誰もがそうなのかもしれないけれど、雨が降ると気分が少し暗くなる。陰鬱な芸術というものもある通り、それは必ずしも悪いことではないけれど、気分が暗くなるというのはあまり良いことでもない。

雨が降ると店に人が来ない。
そもそもが滅多にお客様は来ない店であるのに、雨が降るとみんな外出しなくなるので、わざわざ楽器屋を訪ねてくる人は減るし、こういうふうに暗い気持ちになったら、生活必需品でもない大きな買い物はしない方が多いので、インターネットの売り上げも芳しくなくなる。

まあ、雨だからといって景気の悪いことばかり言っていたら、本当に景気が悪くなってしまうので、できるだけ前向きに考えたいと思い、お客さんが来ない静かな店内で音楽を聴いていることにした。

初めは、ケニー・ドーハムの「静かなるケニー」を聴いていた。
モダンジャズの入門盤として初めに買う20枚のアルバムに入ってくるだろうこの名盤は、雨がよく似合う。ケニー・ドーハムの柔らかくダークなトーンのトランペットから始まるこのアルバムは、彼のリーダー作の中でも最も人気のアルバムと言えるだろう。バラードが多く収録されており、内容も明るいかといえば、明るいという感じでもない。

ケニー・ドーハムはライブ盤等を聴いているとなかなかのテクニシャンなのだが、この「静かなるケニー」の影響か、世間の評価ではあまりテクニカルなフレーズを弾くトランペッターということにはなっていない。
特にこのアルバムでは巧みでありながらも、技巧的にならず、極めて音楽的に鼻歌を歌うように悠々とトランペットを吹いている。

私自身ケニー・ドーハムは好きなので、結構リーダー作は集めているのだが、バリバリと吹いている曲もあるけれど、殊更テクニックをひけらかしたり、ハイノートをピューピュー吹くようなプレーヤーではないからそれほど派手なトランペッターというわけではない。けれども、ハードバップのトランペッターらしい、ブルージーでありながらメロディアスなトランペットを聴かせてくれるので、いつも期待を裏切らない「良い」ジャズトランペッターである。

それで、3〜4曲「静かなるケニー」を聴いていたら、次はギターのアルバムを聴きたくなってきてラックからファンホ・ドミンゲスのアルバムを取り出し、聴いている。

ファンホ・ドミンゲスはピアソラ等のタンゴの曲を演奏したアルバムが有名なので、タンゴのギタリストだということで世の中では通っているようだが(実際彼の演奏するタンゴは素晴らしいのだけれど)、どうもそれだけでもないらしい。ファンホ・ドミンゲスの音楽についてあまり詳しくはないので、よくはわからないけれど、今聴いている「牛車に揺られて」というアルバムにはタンゴだけでなくフォルクローレやらラテンの曲なんかも入っている。

先程のケニー・ドーハムと違い、ファンホ・ドミンゲスは超絶技巧を惜しげもなく披露するので、技巧的なギタリストであるとも言えるのだけれど、彼の音楽は氷でできた剣城のように、冷たく輝いている。硬質なガット・ギターの音、完璧なテクニック、ビートの感覚、歌心が心地いい。

こちらも、あまり明るいアルバムではないのだが、雨の日にはよく合う。ファンホ・ドミンゲスのあっさりしていてシャリンとしたギターの音色が心地い。

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