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「ジャパン・ヴィンテージ」っていったい...?

知り合いがFacebookでFender Japanの中古の値段が30万円ぐらいになっていて驚いたという旨の投稿をされていた。
確かに、近年80年代の初期のFender Japanの価格は高騰している。曰く「フジゲン製」だとか、「JVシリアル」だとかのことで30万円を超える商品も出てきている。今、国産のエレキギターの新品が25万円〜ということを考えると、中古のギターとしてはとても高い価格であると思う。

昨今の為替の影響でギター、特に輸入物のギターの値段は上がっている。また、Vintageと言われる主に60年代以前に作られたギターの価格はゆうに200万円を超え、高いものでは8000万円というものも出てきている。ヴァイオリンのように数世紀前の楽器というわけでもなく、70年〜80年前の楽器の値段である。

それらに比べると、30万円は安いと考える人もいるかもしれないが、果たして30万円も出す価値があるだろうか。ある、という人がいるから売れているということは確かなのだが。

特にFenderのエレキギターに関していえば、60年代の前半(Fender社がCBSに買収される前)の商品は、製造に手間がかかっていたり、製品管理が厳しかったこともあり、ネックをねじ止めしている楽器にしてはとても作りがいいとも言える。作りがいいだけではなく、それらの楽器はまさにクラシックロックを奏でたあのサウンドを出していた楽器であるという意味で価値もある。

ギブソンも、60年代のものと70年代のものではクオリティーが随分と変わってくる。それは特に廉価モデルにおいて顕著である。外観のデザインも変わる。そういうこともあり、60年代までのギブソンが人気があるのも頷ける。

ギブソン贔屓の私が言うので、それを念頭に置いて聞いて欲しいのだが、特にギブソンというメーカーは楽器作りに手が込んでいる。ねじ止めネックのギターを作り続けているFenderと異なり、セットネックのギターを作り続けているし、手間のかかるバインディング付きのギターが多いことからもわかるが、それだけでなく、Gibsonのギターは製造工程に手間がかかる箇所が多い。長い歴史の中でだいぶ効率化は図られているが、木工加工も面倒な箇所が多い。

それらの理由ゆえに、60年代までのFender、Gibsonは生産台数も比較的少ない。まあ、とは言ってもエレキギターは工業製品という側面もあるから、楽器の中では生産台数は多い方なのだけれど。

つまりは、それらの「作りの良さ」「クラシックロックで使われていたという事実と伝説」「希少価値」ゆえに欲しいと思う人が多く、Vintageギターの価格を押し上げているとも言える。

冒頭の話に戻るが、Fender Japanをはじめとする80年代頃に作られたエレキギターが近年「ジャパン・ヴィンテージ」などと呼ばれ持て囃されてきた。同時にそれらの「ジャパン・ヴィンテージ」の価格も上昇した。

私は「ジャパン・ヴィンテージ」という言葉を初めに使い始めたような方々と一緒に仕事をしたこともあるので、悪いことは言いづらいのだけれど、世間で言われている「ジャパン・ヴィンテージ」の多くは正直なことをいうと60年代までのFenderやGibsonの出来の悪いコピー品とも言える。もちろん、全てがコピー品ではないし、作りがいいものも存在するのだが。

なぜ、「出来の悪い」と表現したかというと、80年代の日本のエレキギターは色々な意味でFenderやGibsonを模倣しきれていない箇所があるし、それが独自の設計によりそうなっているというよりは、見様見真似で作ってみたら、そこだけうまくコピーできていなかった、というものが多いためである。

そんな中から、日本のエレキギター産業は少しづつ発展し、90年代にかけてどんどん良いものを作れるようになってくる。その中でオリジナルなモデルも増えてくる。そういう意味で、今「ジャパン・ヴィンテージ」と呼ばれているものは、試行錯誤でコピーしていた段階にあったギターメーカーが製造していたものであるとも言える。

すごいのはYamahaで、早い段階からオリジナルパーツを自社で製作し、コピーではなくオリジナルモデルを製造している。私個人としては、それらの楽器を欲しいと思ったことはないけれど、模倣だけでなく独自のものを作ろうという精神は、Fender社やGibson社と似たところがあるし、実際YAMAHAのオリジナルモデルの中には現在高値で取引されているものもある。

それと比較するのは不本意ではあるが、「ジャパン・ヴィンテージ」と呼ばれているギターの多くは、1980年代にFenderやGibsonのセカンドブランドとしてライセンスで日本で製造しているものが多い。もしくは、単にコピー商品か。

ライセンスを受けているセカンドブランドの商品は本国で製造されていたもの(Fenderは1984年以降本社工場を閉めてしまっていた時期もある)と遜色がない作りであると思われるかもしれないが、実際ものを見てみると、それぞれのパーツの作りが未熟であったり、「本物」の設計思想を十分に汲み取らずに作られているものすら存在する。(中には「本物」を凌駕する工夫がなされているものもあるのだけれど)

正直な話、高いものから安いものまで色々な楽器を見てきた身からすれば、いわゆる「ジャパン・ヴィンテージ」よりも、今作られている日本製のギターの方がずっと優れた作りになっている物の方が多いし、もっといえば日本以外のアジア生産のギターの中でも優れているものは存在する。そして、その中には楽器として、60年代以前のFenderやGibsonとは別のベクトルで優れているものが多く存在する。60年代までののヴィンテージを模倣したものの中にも、80〜90年代当時よりもずっと優れたものが存在する。そしてそれらは「ジャパン・ヴィンテージ」と同じかそれ以下の価格でも購入できてしまう。(ギターの値段が上がっていないのは、私たち楽器屋にとって不幸なことなのだが)

「ジャパン・ヴィンテージ」を有り難がるのも自由なのだけれど、本当に演奏する楽器として考えれば、今製造されている楽器にもっと価値を見出してもいいと常日頃思っている。

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