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音の縁側(α-Stationエフエム京都) 【レポート】|2023年12月〜2024年1月

α-Stationエフエム京都のGood and New Kyotoの2023年12月〜2024年1月までの火曜日限定コーナー「音の縁側」の制作をさせてもらっていました。「音の縁側」の楽曲制作を振り返ってみようと思います。

音の縁側

α-Station「Good and  New Kyoto」火曜日限定コーナー
【「音の縁側」〜音でめぐる京都モダン建築と喫茶の空間〜】
2023年12月19日〜2024年1月23日

モダン建築(近代建築)と、喫茶の音空間をテーマにしたアンビエントプログラムで、12月19日〜1月23日まで6回に渡り放送。

各回の場所のテーマを涼音堂茶舗主宰の星憲一朗さんのディレクションのもと京都のサウンドアーティストの武田真彦さんと一緒に、またはそれぞれ現地を巡りフィールドレコーディングをし、その音を使ったり加工し楽曲に落とし込み、ラジオで放送させてもらいました。

また、ラジオで放送されている楽曲に音響透かし(NFT、音響透かし技術)を施してあり、放送された楽曲音声をアプリにかざして認識させると、前田珈琲の珈琲1杯のクーポンが貰えるという実験的な試みもある番組コーナーでした。

今回このコーナーに関わらせてもらうきっかけは武田真彦さんで、星さんに是非僕と一緒にやりたいと声をかけてくれたそうでした。理由は直感だそうで(笑)
でも、僕もelectronic evening〜電子音楽の夕べで何度か一緒のイベントに出演する機会もあった、武田くんと一緒に音だったり何かを作ってみたいと思っていたのでとても嬉しかったです。

ラジオも、第二回の京都府庁舎編、第三回の京都文化博物館編にも出演させていただきました。

音の縁側の公式ページ

第一回 京都芸術センター(旧明倫小学校) 【小学校のころの記憶】

京都芸術センター(旧明倫小学校)正面口

前田珈琲明倫店も入っている京都芸術センター。旧明倫小学校の校舎だった場所。
1869年(明治2年)に開校した小学校で、1931年(昭和6年)に大改築工事があり、この建物になったそうです。1993年(平成5年)に123年の歴史を持って閉校。

廊下
階段

コンクリートの構造と木の床、教室(現在はアトリエ)の扉などが醸す響きが「学校」という感じを思い出させてくれる感じでした。

でも、それって僕らの年代でも「古い学校」を知っている人の感覚なのかな。多分、新しい学校校舎で育った若い世代の方たちは違う感覚になるのかもしれないなと思いつつ、音を聞いていました。

歩く場所によって、

「ギシッ、ミシシシ」

だったり

「グキュルルルル」

だったりと、面白がって危なく数時間、音を探しの沼にハマりそうになる。

講堂(普段は非公開)

講堂に置いてあるグランドピアノを一音

「ポーン」

と鳴らすと、ホールや普通の体育館とは少し違う独特な温かみを感じる響きでした。

1音1音、じっくりサンプリング。
本当は屋根を開いてマイキングして1日かけて色々なタッチで録ってみたいなと思いました。

しかし流石にそこまで時間もなければ機材も簡易なものしかないので、我慢。

中庭 校庭だった場所

中庭は校舎に囲まれている空間で、開けている感じではなく音が反射して上に吸われる感じ。逆に上から回りの、道路の音などが通り抜けていく感じで、遠くの救急車の音がディレイかかっていたり。

腹拵えは前田珈琲明倫店 限定メニューの黒胡椒チキンのパニーニ

お腹も空いたので、その日の昼食は芸術センター内にある前田珈琲明倫店で。限定メニュー、とても美味しい。(この時の注文時の時の声も楽曲に入っています笑)

店内は、芸術センターというだけあり、学校をテーマにしてあると予想する現代アートで内装が施されていて、店内BGMもアブストラクトな音楽が薄っすらとかかっていて、また別世界でした。

古き小学校空間に現代アートが組み込まれ、今でも大切に使われて、様々なアートの制作や展示がされている空間でした。

第二回 京都府庁旧本館 【アールヌーヴォーと響き】

重要文化財にもなっている京都府庁旧本館は1904年竣工。現役の官公庁の建物としては日本最古。

旧人事委員会室には「salon de 1904(サロン・ド・イチキュウゼロヨン)」がオープン。

白壁と茶色の腰板、赤いカーペットはそのまま現在も使用。

京都府庁舎旧本館
京都府庁舎旧本館入口エントランス
京都府庁舎旧本館入口エントランス 階段

石で作られているので外から入ってくる道路、中庭の音。また屋内で鳴っている話し声や足音が混じり反響がものすごく響き渡る。

「カツンカツン・・・」
「ごわーーーーん」

中央のエントランスホールの階段付近に、その音が集まってくるような感じがしました。

この響き、インパルスレスポンスデータを作ってリバーブ作ったりしてみたいなぁ。

京都府庁舎旧本館 中庭〜廊下

変わって、1階旧議場や前田珈琲、2階廊下は赤いカーペットが敷かれ1階廊下のような響きはなく、また別の空間のような印象でした。

旧議場は今はイベントスペースとして貸出もしているそうで、講演会や結婚式などで使用される方が多いとのこと。

京都府庁舎旧本館 旧議場

説明をしてくれる方にと話をしていて、この府庁舎が建てられた「1904年」についての話にもなる。

1904年は日露戦争勃発の年で、その後日本は財政難になっていったとのことで、もし1904年以降に作られていたらもっと質素のものになっていたかもしれないとのことでした。

本当、時代の分岐のタイミングで作られた建物でもあったんだなぁ。

京都府庁舎旧本館の屋根材 雄勝石天然スレート

建物の話から、今度は屋根の話になり。

これは東北の宮城の・・・と、説明をされたので

「石巻の雄勝の石ですよね」

と答えると良く知っていらっしゃるねという感じで感心してもらいましたが、さらに

「25年?30年?くらい前に修理したの、自分の父親なんですよ」

と言うとかなり驚かれたようでした。事務所に案内していただきて鱗用葺き用の石のサンプルを見せてもらいました。それで、震災後の雄勝でのあれこれ活動をお話したり。

今回の「音の縁側」で収録に行った場所で、ここの府庁舎の他に「京都文化博物館」「京都国立博物館」なども父が仕事で関わった場所で、父とはやっている仕事が全く違う宮城の親子が、京都の現場で繋がるというのも、ここにも何か御縁を感じる場所でした。

開店前に特別に入らせてもらった前田珈琲 salon de 1904
長い時間を刻み続けた時計
時計の音を狙う

お店の開店前に特別に録音させてもらったsalon de 1904。赤いカーペットの上に全て建設当時からあるもののようなテーブルに椅子、そして時計。そして開店準備しているところのカトラリーの音など録らせてもらいました。

別日になりますが武田くんとも合流し、特別に夜の館内の雰囲気、ドアの音なども録らせてもらいました。

夜の中庭
とあるところの穴?武田くんに入っていってもらいました(笑)
良いドア音と何度も向き合う武田くん

第三回 京都文化博物館 【音が開く】

京都文化博物館

旧日本銀行京都支店の建物は1906年(明治39年)に建設。赤レンガが印象的な建物が京都文化博物館(ぶんぱく)別館で重要文化財になっている。

建物を設計したのは、日本を代表するの近代建築家辰野金吾とその弟子・長野宇平治。彼の特徴である赤レンガと白い石を使ったデザインは「辰野式」と呼ばれています。金庫室だった空間は「前田珈琲 文博店」

僕は金庫室だった前田珈琲文博店の収録しかいけませんでしたが、別館の中や扉が閉まる音などは武田くんが録ってくれていました。

別館の入口。夕方に扉が閉まる

ここの扉が閉まる音を、武田くんが内側から収録してくれたのを後に聞く。
重厚感というか、本当に重いんだろうなという重さが音からも伝わってくるのと、閉じられた時に外の音が遮断されて空間が変わる感じなどとても面白かったです。

星さんが、ここの扉と、金庫室だった前田珈琲の扉を説明もなく録って録って!と、ロケ前に騒いでいた理由も分かったような気がしました(笑)

前田珈琲 文博店入口

別館と新館の間にある中庭のような野外スペースがあり、そこある入口が、旧日本銀行京都支店時代の金庫の扉。前田珈琲文博店。

屋外から屋内に入る瞬間の空気の流れの違いで、音の響きが変わる感じや、今は喫茶空間になっているので、ドアベルの音でお店に入ったと頭が認識する感じ。なるほど。

お店の方に

「この方がもっとドアベルが響くんじゃないかな・・・」

と、つけてあったミュートのようなものを外していただいたり、

「窓閉めた方が、密室的な響きになるでしょうか」

と、窓などを全部締めていただいたり。

店員さんが音の為に窓を締めてくれている
ハンドドリップで珈琲を淹れてくれる店員さん。その音を狙う武田くん

ずーっと鳴り続けているドローン音(モーター音)が気になって聞いてみたら文博店にのみに(?)あるジェラートマシンがあるそうで、それの駆動音だそう。(フルオートのため電源は切れない)その音もまた文博店でしかない音。

また、武田くんがよく演奏やインスタレーションで使う「おりん」を持ってきたので、2人で鳴らし、録音しながら音の響きの違いを探ったりもさせていただきました。

別日ですが、武田くんが別館で開かれたコンサート・イベントのサウンドチェック時の収録もしてくれたそうで、別館の旧銀行ロビーの響きもよく分かる音源でした。

リバービーではありますが天井の高さや構造の違いで、府庁舎1階の響きとはまた違う感じが面白い。

第四回 前田珈琲室町本店 【町の縁側】

前田珈琲 室町本店(写真:星憲一朗さん)

「前田珈琲 室町本店」は、烏丸蛸薬師交差点を西に入ってすぐの立地。
1981 年に前田珈琲の本店として開店し、100 席を有する大型店舗としていつも賑わっています。
創業者である前田隆弘さん直々に焙煎しているロースターはドイツ製。創業当時から50年近く使っても全く問題がないとか。

僕自身は一度お店へご挨拶へ行き、その時に店舗内と外の音を録らせてもらっていたのですが、賑やかな喫茶空間という感じの音しかその時は録れずでした。

その時、大きなロースターがあることを目にしていて、その話をすると星さんが連絡をつけてくれてロースターでローストするところの音を録らせてもらえることになり、武田くんが録りに行きました。

(その時僕は石巻へ戻っていて行けず・・・)

前田珈琲本店ロースター (写真:武田真彦さん)

創業者の前田さん自ら豆を炒っているそうで、京都の喫茶文化を開いたイノダコーヒー、ワールド珈琲で修行し、2つの精神と技術を引き継いでいるとのこと。

ずっと、豆の炒る音、「ハゼ」と向き合いながら喫茶文化を繋いでいると思うと様々なドラマを想像します。

そんな想像をしつつ武田さんに自分のテクスチャーを送り楽曲も仕上がっていく。

本店回のオンエアも間近、というか前夜?に急に星さんから電話。

「豆の音、比べてみたいんだけれど、ゆっき君豆炒ってもらって録音してもらっても良い?」

また唐突な・・・。しかも僕豆珈琲豆炒ったことないっすよ。
でも、偶然にも以前頂いた生豆が少しあり、YouTubeを見つつフライパンで炒ってみることに。録音もバタバタしていたので、外で録音する用の簡単な機材で。

四倉、自分で炒って焦がして大失敗

一応録音したのを送ると

「うん、、、焦げているような感じで美味しくなさそうな音だね」

と、星さん。わかっていますよ!(笑)

そのうち機会があればローストする練習もしよう。

第五回 前田珈琲京都国立博物館+龍谷ミュージアム店 【そこにしかない音】

京都国立博物館
前田珈琲龍谷ミュージアム店前

東山七条通、三十三間堂の迎え側にひらけた京都国立博物館。そして、龍谷ミュージアム。その2つの場所にも前田珈琲店が入っており、お題はそこにしかない音。

開けた場所、博物館内部ではなく外でというお題で中々頭を悩ます。でも、悩んでも仕方がないので、とにかく現場でマイクを片手にウロウロ。耳に入るものにフォーカスして、外して、またフォーカスして。

前田珈琲京都国立博物館店のテラス席(写真:星憲一朗さん)

テラス席の周りは水が張って流れがある。遠くにある噴水。星さんがあの噴水の音、良いから録ってと言うが、ガンマイクでもこの距離だと無理ですってと、そういうやり取りを何度かする。一応、手持ちの機材で録ってみる。
サウンドスケープというよりノイズの作品に聞こえる。うーん。

「珈琲、良かったらどうぞ〜!」

と、京博店の方が持って来てくださって、本当に温かさが染み渡ります。
お店の中、厨房の中の音まで録らせていただいてありがたいです。

京都国立博物館入口付近

録ったものを聞き返していると、七条通のとても緩やかな傾斜を感じるような車などが行き来する広がる空間に、テラスの水の音と店内の音が入り交じる音。その時に星さんと見た夕日も思い出せるような「あ、自分がいた場所の音だな」と感じさせられる音が録れていました。

龍谷ミュージアム入口付近

さて、次は龍谷ミュージアム店。ここでの特徴的な音を探すのも始めは少し閉口してしまいました。
見た目ほど音が響くわけでもなく、入ってくる音自体も堀川通の車、喫茶店内はBGMがしっかり流れていて、ラジオ的にはちょっと厳しい感じでもありました。

マイクを片手にウロウロ。ウロウロ。
警備員さんの視線も感じて、ちょっと静かにする。

数十分粘っていると遠くから

「カーン、カーン、カーン、カーン・・・・」

と、小さい鐘のようなものを叩く音が聞こえてきました。

どうやら、夕方の日没勤行に鳴らす鐘の音でした。
堀川通を挟んで聞こえてくる鐘の音。

もう少し深堀りしていきたいと武田くんと共有すると、勤行や朝の梵鐘の音を録りにいっていました。さすがです。

早朝の西本願寺(写真:武田真彦さん)

第六回 総集編(制作について)

CM中のスタジオ内

総集編これまでの話をまとめ振り返り、これまでの楽曲を新たにリミックスした総集編回でした。

武田くんは本当は、スタジオに入って一緒に音を出しながら作りたかったところでしたが、スケジュールと距離の関係上今回は全回に渡ってデータのやり取りでの制作。

でしたが、お互い同じ空間の音を、自分の視点(聴点?)で聞いているので、そこから感覚を共有する作業はとても楽しかったです。タイミングや、データだからこそのズレもありますが、そこもまた面白いところでした。

お互いの視点でテーマに沿ってテクスチャーを作って、武田くんがまとめたり、僕がまとめたりして詰めていき、最終的に星さんがラジオ用にエディットするという制作で、とても面白かったです。

録音で使用した機材は、市内の移動が基本レンタル自転車だったのでハンディーなものを使用しました。

写真にもチラチラ写っていましたが、マイクも内蔵されているこちら。
・ZOOM H2n
・ROLAND R-26

ものによってはバイノーラルマイクを使ったりもしていました。
・ROLAND CS-10EM ASMR

それらを録っていた時の感覚と、改めて聴いて気付いたことのバランスをDAWで整えて素材にしていました。

ラジオでお話するのも、DJの平野さんが話を面白がって広げて、そしてまとめてくださるので本当に楽しい時間でした!

是非また音のテーマで皆さんとご一緒できることを楽しみにしています。

収録に行ったけれど本編の放送では使用されなかった場所の音もまだあり、そのことについてや、実際に武田くんと演奏した話(音の縁側 エクステンドトラック〜触発するサウンドスケープ|2024.03.15(FRI) at 京都 蔦屋書店 SHARE LOUNGE)は、また別の記事で書きます。

また、「音の縁側」の制作について【穏やかな音楽のある生活風景を紹介するAmbient Lifescape Magazine(アンビエント・ライフスケープ・マガジン)「Ucuuu」】に取材していただきました。
そちらの記事はこちらです。

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