見出し画像

「強み論文100本ノック」完走しました

昨年末、こんなプロジェクトを始めました。

『強み論文100本ノックはじめます』というプロジェクトです。「冷やし中華はじめます」くらいの気楽なノリで宣言した本企画。正直、けっこう大変でした…(汗)

感想は「思った以上にタフなレースであった」というのが本音です。しかし、得たものもたくさんありました。

今日はこの「強み論文100本ノックのプロジェクト」について、走り切ってみた感想、何が大変だったのか、何を得られたのかを振り返ってみたいと思います。

マニアックな振り返りですが、そして長いのですが、よろしければお付き合いくださいませ。


旅のはじまり

私(紀藤)は普段、ストレングス・ファインダー等を活用して「強みを通じた人材開発」を企業向けにお届けしております。

しかし、これまで「強みに基づいた人材開発が何に影響して、どうして役に立つのか?を科学的に説明すること」はできていませんでした。「強みってなんかイイ」「強みを認め合うって素晴らしい!」そんな雰囲気だけで走ることに、ちょっとした危機感を覚えていました。

 経営陣には「強みって経営にどんなインパクトがあるの?」を説明しなければ、全社的な施策にすることはできません。研修に参加する管理職の方にも「なぜ部下の強みを理解し、活用することがチームの成果につながるのか?」が説明できなければ、仕事に関連があり、役に立つ知識やスキルとして受け取って、現場に活用してもらうこともできません。
 「感覚的に良いモノ」について、「科学的になぜ良いのか?」の論拠を示すことができてこそ、その概念は市民権を得ることができる、そのような思いは強くなるばかりでした。

ゆえに「強み基づいた人材開発・組織開発」のその効果や価値を、科学的にも伝えられるようになりたい。そんなことを思った勢いで立ち上げたのが本プロジェクトでした。

感想「やっぱりやって正解」

プロジェクト開始から約5ヶ月が経過し、先日論文100本ノックプロジェクトが終了しました。

まずポジティブな視点から言えば、得られた一番のこと「強みにおける人材開発・組織開発領域の自信が高まった」のが大きな収穫でした。

研究者など専門家からの質問を除けば、一般の研修参加者からいただく強みについての質問が出たときに「ああ、その質問はこの論文で取り上げられていたな」と比較的余裕を持って答えられるようになったこと。これは、この分野で仕事をする自分にとって大きな財産です。

研究者の方に比べればその歩みは、わずかな距離でしかありませんが、これを半年に満たない期間で得られたと考えれば「やって正解だった」以外の答えは思い浮かびません。

100本ノックの旅とは「世界中の先人(強みの研究者たち)が歩んできた20余年の道のりを、半年で凝縮して体験する」ことですす。
旅は人を育てる、なんていいますが、100本ノックの旅路も同じく私を育ててくれました。

しかし、タフなレースだった

・・・とはいえ、100本とはいえ楽な旅路ではありませんでした。は「想像以上にタフなレースだった」と言わざるを得ません。

ちなみに「レース」とつい口に出てしまう理由は、私の趣味であるランニングの「100kmマラソン」に100本ノックの体感覚のイメージが近かったからです。

ランニングの話で恐縮ですが、100kmマラソンでは皆「折り返し地点までは元気だった」と言うのです。
 40km、50kmくらいは元気で、どこまででも行けそうな気がする。
 折り返しを過ぎたくらいから衰えを感じ、60km地点ではその疲労が目にみえて現れる。
 70km地点では「なんでこんなレースに参加してしまったんだろう…」とつぶやく。
 80km地点ではスタミナ0だけど気持ちを無にして脚を動かし続ける。 
 90kmからはほぼ気持ちで走る。そしてゴール。
これが100kmマラソンの感覚です。

そして、100本ノックも、同じ感じでした。

50本目くらいまでは「へー!」「ほー!」と、強み分野における理論や概念が新鮮で、理解することが楽しく、読みたい論文も豊富にありました。また何より元々書き溜めていた強みに関連する論文をリライトする形で本数を重ねていたため、比較的負荷なく書けていました。

しかし、また強みに基づく人材開発・組織開発に関連する引用数が多い主要論文をある程度読んだ(と感じた)あとは、様子が変わりました。なんとなく50kmの折り返しに到達した足のように、なんだか足取りが重くなりました。

面白そう!と思える論文のネタが減ってくる。
読み貯めていた論文がゼロになると、読むのに時間がかかる。
仕事の繁忙期と重って、時間を捻出するのが難しくなる。

それらのことが重なって、プロジェクトの足取りが重くなりました。

論文も読んでみても「なるほど」と思えるものも、毎回ではありません。
その中で、自分の論文を読むスピードの遅さと、まとめの遅筆に辟易しながら続けることにストレスも感じました。またFacebookやX(twitter)でシェアをしていましたが、それも疲れてしまってnoteでの投稿だけになってしまいました。

始めるのは簡単だけど、続けることは大変。

そんなことを考えていました。

100本ノックを通じて、何を得たのか

とはいえ、繰り返しますが、「得たことのほうが多い」のです。
ここも強調してお伝えしたいと思います。以下、2つの視点があると感じます。

「強みの地図」が広がった

まず1つ目が「強みの地図」が広がったということ。

どういうことかというと、「100本ノック」の最初は、「強み人材開発」の分野にフォーカスしていました。
 「強みを通じた人材開発」「強みに基づくリーダーシップ」など人材開発・組織開発領域の論文で、強みを活用することがワーク・エンゲージメントや創造性、従業員のウェルビーイングに繋がるなどの話が見つかり、仕事にも直結する分野でワクワクしながら読んでいました。しかし、だんだんとその分野の論文が、見つからなくなってきたのでした。

ですが、「100本ノック」なので数を打たなければなりません。

ということで視野を横にずらしてみると、「強み教育」という研究領域があることを知りました。新しい場所の探索です。すると新しい発見がありました。
 たとえば、自己効力感が低い小学生に対して、強みを活用して高めることができるのか?とか、学業成績との関連などを調べたものなど。そのような分野が小中高校生、大学生にまで広がっていることを知りました。しかし、それらのものも段々と主要な論文が減ってきます。

ですが、「100本ノック」なので数を打たなければなりません。

マニアックなものを読んでも仕方ないと思い、また引用数が多いものを中心に読もうと思うと、次は「強み職種」の研究分野が見つかりました。また新しい場所の探索です。
 たとえば、「医師の強み」「カウンセラーの強み」「ボランティアの強み」などです。感情労働によるバーンアウトの研究の延長線上で「強み活用」がされて領域が結構あるんだな、と気づきました。

つまり、「100本ノック」という、それなりの量を読むことで、「強み研究の地図が広がった」のでした。これまで自分は存在も知らなかった黒塗りの未開拓の領域。そこが開かれていき、強み✕人材開発はもとより、強み✕教育、強み✕職種など、強みを軸にした多くの領域の存在を理解しました。

これまで、幼稚園児の自分が、近所のスーパーまでが、世界の全てだったのが、もっと幅広い世界があると知った感じでしょうか。

「概念の境界」が明瞭になった

また論文を読んでいくと、未知の概念といくつも出会います。

たとえば強みに直結する概念(尺度)だと、「ストレングス・スポッティング(強みに注目する)」「強みの活用感」、「強み活用に関する知覚された組織支援(POSSU:Perceived Organizational Support for Strengths Use)」などがそうです。

 こうした概念を理解すると「強み」についても、「強みに注目するという概念」、「強みを活用するという概念」、「強みの支援を組織から感じるという概念」が、別個のものとして取り扱われていることを知ります。それらを分けて理解することで「強みの人材開発」について、より細やかな解像度で語ることができるようになった、と感じました。

 また、強みを通じた成果に関連してた様々な概念も知りました。ワーク・エンゲージメント、バーンアウト、ウェルビーイング、人生満足度、職務満足度、モチベーション、革新行動、創造性、繁栄(Thriving)他。

 更には、論文の背景理論を探索する中で「トランザクショナル・メモリーシステム」「社会的埋め込み理論」「職務要求資源モデル」「ポジティブ思考の拡大構築理論」「中核的自己評価」「目標の自己一致性」などの、隣接する有名な概念についても、視点が広がりました。

100本ノックを通じて、さまざまな概念を獲得し、概念の境界が明瞭になりました。そのことで、身近な現場で起こっている事象を説明するための言葉を手に入れることとなり、その現象を言葉で理解し、他者に説得力を持って説明することが可能になったように思います(昨自分対比です)。

これは、人材開発・組織開発を生業とする自分にとって大いなる武器になりました。「強み論文ノック」は、誰にでもない、私自身の未来への投資でした。

そして、新たな始まり

そして、100本を終えた今、思っていること。

それは「強み開発の介入(Character Stregnths Intervention)」をより掘り下げた、と思うようになりました。
 多くの論文を見ていて、「強み開発の介入をした」という事実は書かれており、その成果も触れられてはいました。しかし、詳細はブラックボックスです。丁寧に書かれていたとしても、20行くらいで概要がまとめて書かれているイメージ。第三者が再現できるほどの記述ではありません。ただ、私は実践者として、実際に強みに基づいた介入を行うことを広げたいと思っています。

また、この旅路の中で「周辺の領域ももっと探索したい」と思うようになりました。たとえば「if-thenプランニング」とか「ベストポッシブセルフ」など、「強み」ど真ん中ではないのですが、ポジティブ心理学など隣接する研究があることも知りました。ただ、今回はそれらのものは脱線しそうなので、読まないようにしていました。ただ間接的に関わっているので、その元になった理論も知りたいと感じるようになりました。

なのでこれからは新シリーズ「強み関連文献・おかわり100本ノック」をゆるりと始めて行きたいと思います。ただ、これは時間は決めずに、ゆるっと行きます。ただ、宣言し、ハコを作ることで学びの足を止めないため仕組みとして機能させます。

きっと、また新しい旅路を通じて、また見える世界が広がると思いますし、次のおかわりノックは、より実践的なものになるので、自分の専門性を高めることにも繋がると感じます。

そして、最後に、こうした活動についていつも口に出して承認してくれる大学院の仲間、研究を続けること背中を見せてくれる同じく大学院の仲間、そしてたくさんの卒業後も、記事のシェアやコメントで継続と新しいスタートへの背中を押し続けていただける中原先生に重ねて感謝を申し上げたいと思います(たいへん力を頂いております)。ありがとうございます!

一つの終わりは、一つの始まり。
新たなスタートを楽しみたいと思います。

最後までお読み頂き、ありがとうございました。

この記事が参加している募集

振り返りnote

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?