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同僚が自分の強みを認めてくれると、強みの活用と活力が高まる?! 「繁栄の社会的埋め込みモデル」からの発見

こんにちは。紀藤です。本日も強みについての論文をご紹介いたします。論文のテーマは「職場での強みの活用と繁栄」とのこと。特に「同僚からの強みの認識」の影響に焦点を当てています。

「職場内で、自分の強みを同僚が認めてくれると感じると、強みを活用しようと思えるし、また活力も感じられる」。こうした、同僚からの強みの認識があると、本人の強みの活用も高まり、活力も高まることを示した論文なのです。

結論、めっちゃ面白かったです・・・!。何より、私自身の強みの活用の感覚とあっていると感じました。

ということで、早速内容を見てまいりましょう!

<今回ご紹介の論文>
『職場での強みの活用と繁栄:同僚の強み認識と組織的背景の役割』
Moore, Hannah L., Arnold B. Bakker, and Heleen van Mierlo. (
2022). “Using Strengths and Thriving at Work: The Role of Colleague Strengths Recognition and Organizational Context.” European Journal of Work and Organizational Psychology 31 (2): 260–72.


1分でわかる論文のポイント

  • 本研究では、「職場における繁栄の社会的埋め込みモデル」を参考に、従業員が「繁栄(活力と学習を感じること)」につながるかを、以下3点から検討した。

  • 1点目が、「強みの活用」が「繁栄(活力や学習)」に役立ち、主体的な仕事行動に繋がるかどうかを検討した。

  • 2点目が、「同僚がお互いの強みを認識する」ことが、強みの活用と繁栄との正の関係を高めるかどうかを調査した。

  • 3点目が、「強み活用の組織的支援」と「専門能力開発の機会」を従業員が認知することが、強みの活用、そして繁栄につながる組織的要因となることを調査した。

  • 上記の3点について、オランダ人の445名とその同僚159名に調査をした結果、1~3点目ともに、仮説を支持することがわかった。

という内容です。ということで、詳細を早速みてみましょう!

「職場における繁栄の社会的埋め込みモデル」とは

さて、本論文の背景にある概念に、Spretizerら(2005)による「職場における繁栄の社会的埋め込みモデル」と呼ばれるものがあります。

まず”繁栄(Thriving)”ですが「活力と学習の同時体験からなるポジティブな心理状態」と定義されています。

そして「職場における繁栄の社会的埋め込みモデル」は、職場の社会的文脈が、従業員の活力を高め学習を促すとしました。具体的には、同僚が自分の強みを認めてくれること(対人関係レベル)、組織が自分の専門能力開発や強みを活用する支援してくれること(組織レベル)、これが従業員の繁栄(活力と学習)につながると考えられています。

そして、研究者はこの「社会的埋め込みモデル」を元に考えたときに、従業員の繁栄とは、個人だけで完結するものではなく、社会的背景(職場関係など)に依存するであろう、それを同僚の強みの認知や、組織から強みの支援とみなして、概念モデルを作成し、検証することにしたのでした。

概念モデル

個人の強みの活用と、繁栄の関係

さて繁栄の社会的埋め込みモデルにはいくつかのレイヤーがあります。まず最小単位は、「個人レベル」です。個人の強みとは「自己が最高の状態で考え、行動し、感じることを可能にする自己の特性である(Linley, 2008)」とされています。

また強みは「自然な能力」とされており、経験などで発達させられるものですが、生涯を通じて比較的安定していると考えられています。そしてこうした自分の特性(強みにあった仕事をすることで、エネルギーが湧いてくる、といいます。

なお人は向いている仕事についていると元気ができます。これは「人と環境のマッチング(Person-Enviroment-fit)」という考え方に基づいています。個人の特性と環境から求められる要望がフィットしているほど、成果が向上すると考えられています。

同僚間の強み認識の役割と、繁栄の関係

次に「対人関係のレベル」です。いわずもがなですが、我々は孤立して働いていません。人間は社会的な生き物であり、人の行動は他者との関係の中に埋め込まれているからです。

しかし、この対人関係のレベルと繁栄の関係は、これまでの研究であまり焦点が当てられてきていませんでした。特に強みをみると、”自分が自分の強みをどの程度認識しているかと、同僚が自分の強みをどう認識しているか一致しているか”を「同僚の強みの認識」という概念として、対人認知の効果を探求することにしました。

これは「トランザクショナル・メモリー・システム理論(Wegner, 1987)」の考えを拡張したものとも考えられます。同僚がお互いの強みを認識することで、チーム内にどのような強みがあるのかを知り、それらに依存し、信頼することができるようになるという考えです。

本研究の全体像

研究の仮説

さて、これらの概念を背景として、本研究では仮説を立てました。以下の5つとなっています。

仮説1:職場での強みの活用は、繁栄(活力と学習)と正の関係がある。

仮説2:同僚の強み認知は、従業員の強み活用と繁栄(活力と学習)の関係を調整し、認知が高い場合、従業員の強み活用と繁栄の正の関係はより強くなる。

仮説3:(a)強みの活用に対する組織的支援の認知、(b)専門能力開発の機会の認知は、職場での強みの活用と正の関係がある。

仮説4:強みの活用は、(a)知覚された組織的支援と(b)専門能力開発の機会と繁栄(活力と学習)との関係を媒介する。

仮説5:組織要因(知覚的組織支援と能力開発)の間接的関係みの活用を通じた機会)と繁栄(活力と学習)は、第2段階では同僚の強みの認知度によって調整され、同僚の強みの認知度が高いほど間接的な関係が強くなる。

概念モデル

参加者と方法

●参加者:オランダの従業員445名
(ニュースやSNSを通じてオンライン調査の募集を行った。週8時間以上働く従業員のみを対象とした)

●調査方法
・参加者には、強みの活用、繁栄、強み活用に対する知覚された組織支援、職場での専門能力開発の機会の認識について回答してもらった。
・また「自分の特徴的な強み」のトップ3についてテキストボックスに記入をしてもらった。(強みの定義は「あなたが得意なこと」とだけ定義をした)

調査尺度

<強みの活用>
●強みの活用
(van Woerkom, Mostert ea al., 2016)
・事前に書き出してもらったトップ3の強みを提示した上で、「仕事では、自分の長所を最大限に活かしている」など6項目尺度に答えてもらった。

<繁栄(活力と学習)>
●活力:ユトレヒトワークエンゲージメントより「活力」の下位尺度3項目を利用(例:朝起きると、仕事に行きたくなる)
●学習:(Porathら,2012)の繁栄尺度5項目(例:仕事では、自分が絶えず向上しているのがわかる)

<組織的背景>
●専門能力開発の機会
(Bakkerら, 2003)
・例:私の仕事は新しいことを学ぶ機会を与えてくれる
●強み活用の知覚された組織支援(Keenan & Mosterty, 2013)
・例:組織は私に得意なことをする機会を与えてくれる

<同僚の強みの認識>
●同僚の強みの認識:
・参加者のパートナーに、「参加者が報告したトップ3の強み」を提示した。そして1:全くそう思わない~7:とてもそう思うまでの7段階で回答するように求めた。
・ハロー効果の影響を鑑みて、参加者との関係に対する認知(この人と友だちになれるかもしれない)なども調査をした。

結果

それぞれの仮説について相関分析、回帰分析、構造方程式モデリング等を用いて分析を行った結果、以下のことがわかりました。

わかったこと1:強み活用は繁栄(活力と学習)に影響を与えていた

下記分析の結果、強みの活用は、活力・学習の両方の要素と正の相関があることが明らかになりました。よって、「仮説1は支持された」結果となりました。

わかったこと2:同僚の強みの認知レベルが高いと、強みの活用と繁栄の正の関係を強めた

次に仮説2の強み活用と繁栄の関係について調べました。仮説では、「同僚の強みの認知」は、「繁栄(活力と学習)」を調整すると考えました(つまり、同僚の強みの認知が高まると活力と学習が高まる)。
 しかし、興味深いことに、調整効果があったものは「繁栄」の二要素のうち「活力」のみでした。

さらに、交互作用の分析を行って見ると「強み活用と。同僚の強みの認知の両方が高いときに、活力が最も高くなる」ことがわかりました。 より具体的に言うと、同僚からの強みの認知レベルが4.21以上であれば、強みの活用と活力の正の関係があり、4.00以下になると強み活用と活力の正の関係はみられなくなりました。

すなわち「同僚が自分の強みを認めていると思えると、強みの活用を通じて、活力を感じることができる」ということです。逆に言えば、強みを活用していても、周りから認めてもらえていないと活力には繋がりづらい・・・とのこと。まさに本論文の背景となっている「社会的埋め込みモデル」に通ずるお話だと感じました。

わかったこと3:「強み活用の知覚された組織支援」「専門能力開発の機会」と「強みの活用」には正の相関があった

よって、仮説3は支持されました。また仮説4では「強み活用の知覚された組織支援」「専門能力開発の機会」と「繁栄(活力と学習)」の間を「強みの活用」が媒介するとしましたが、これも支持されました。

まとめと個人的感想

本論文のポイントですが、以下のようにまとめられていました。

(1)職場において、強みの活用と活力は密接に関連している
(2)同僚が本人の強みを認識することで 、強みの活用と活力のレベルとの正の関係が高まる。しかし学習は高まらない
(3)従業員が強みの活用を組織から支援され、専門的な能力開発の機会をより経験することで、従業員は強みをより活用し、より成長する

とのことでした。特に「活力」については、強みの全社的認知が 高い場合にこの傾向が見られとのことで、強み活用に「職場における繁栄の社会的埋め込みモデル」を部分的に支持する結果が得られた、とのことでした。

「同僚の強みの認識」(自分が思っている強みと同僚が自分に強みと思っていることが同じ)であるほうが、強みの活用と活力の正の関係が高まるというのは実に面白いないようでした。

またこの理論を裏付ける「職場における繁栄の社会的埋め込みレベル」なるものがあるものも興味深く、研究の世界は本当に広いんだなあ、、としみじみ感じる論文でもありました。

最後までお読み頂き、ありがとうございました!

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