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夢幻 ~名を呼ばれ

先輩方が引退した高校2年の夏休み後半 その日は朝から練習になった
自分たちの代の新チームが始まったのだ
さて「していたつもり」の努力に支えられた夢の花は咲くのだろうか?
咲かして見せるさ そのためにずっとやってきたし耐えてきた
新たにチームが始まるその時だけはレギュラーも補欠も無い
まずは横一線に並ぶことができるから
(とはいえ ある程度の「差別」はあるのだが)
肩に思い切り力を込めてグラウンドに立った

ノックでの守備練習
コーチがバンバン打ってくるそのボールを皆必死で追いかける
もちろん自分もその一人だ
自分なりかもしれないが「死に物狂い」で追いかけた
しかし無情にもボールには届かないグラブ
届いてもはじくかお手玉の繰り返しでしっかり収まるのは10球に1球もない
バッティング練習はさらに形無しだ
とにかくバットにボールが当たらない
ファールチップが何とか精いっぱい状態
気持ちは焦りまくりでいっぱいいっぱい・・・やばい どうにかしなきゃ!
そんなこんなで午前中は過ぎて行った

昼休憩も終わり 午後練習が始まった
まずはまた守備からということ
「今度こそは!」の気概を込めてグラウンドに走っていった
で ノックが始まろうとするその時
コーチから自分を含めた3人が名前を呼ばれた
「今名前を呼ばれたやつはノックを受けなくていい グラウンドから出ろ」
始めは何を言われているのかわからなかった・・・
しかし時間が1秒ずつ過ぎてゆくにつれ 外側で傍観者として
また はじかれた球を拾い集めている自分を見て 
否応なしにその意味を理解せざるえなかった・・・
そう 外されたのだ・・・
「おまえはこのチームに戦力としての価値が無いから要らない」
その現実を突き付けられたのだ
それを全身で感じてしまった瞬間 
自分の中で守ってきた夢が音を立てて粉々に崩れてゆくのがわかった
屈辱 敗北 自己嫌悪・・・絶望とはこういうことなのか・・・?
小さい頃から描いてきた「甲子園」は手の届く事のない「幻影」だと知った

その日の練習を終えた直後 
これまで感じたことのないような疲れと恥ずかしさと惨めさに襲われた
急いで水道の蛇口をひねり顔をうずめて泣いてた・・・
こんなに涙は出るものなのかと思えるぐらいひたすら泣いた・・・
いっしょに名前を呼ばれた仲間がずっと見守ってくれていた
それだけが救いだった

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